断罪されてたからってなんなんですの?

きららののん

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「……はあ、はあ。わたくしは、選ばれしヒロインのはずですのに! どうして、こんな冷たい川で他人の靴下を洗わなければなりませんの!?」


王国の辺境にある小さな村で、マリアンヌ様は真っ赤に腫れた手を見つめて絶叫しました。


彼女を取り囲んでいるのは、かつて彼女が「不潔ですわ」と鼻を摘んで追い払った、元・王宮の兵士たちが結成した自警団の面々です。


「おい、マリアンヌ。手が止まっているぞ。お前がリディア様からくすねた宝石を売ろうとした罪、この村の洗濯物一年分をこなすまで許されると思うなよ」


「ひっ……! だ、誰か! わたくしの美貌に免じて、助けてくださいまし!」


「美貌? 泥を被って、鼻水で顔をグチャグチャにしている女のどこに美貌があるんだ。いいから洗え。次は騎士団のむさ苦しい訓練着だぞ」


マリアンヌ様は、次々と投げ込まれる異臭を放つ布の山を前に、ついに精神の限界を迎えました。


彼女は「こうなったら、あの手を使うしかありませんわ!」と、ふらふらと立ち上がりました。


「皆様、お聞きなさい! 実はわたくし、異世界から来た『救世主』なのですわ! わたくしの涙には、病を治し、国を豊かにする力があるのです!」


自警団の男たちは、一瞬だけ動きを止めて顔を見合わせました。


「……救世主? じゃあ、今すぐその涙で、この村の枯れた井戸を水で満たしてみろよ。それができたら信じてやる」


「えっ……い、井戸? それは、その、今は魔力が足りなくて……」


「嘘つきめ! ただの怠け者が、聖女のふりをするな!」


バケツ一杯の泥水が、マリアンヌ様の頭から容赦なく浴びせられました。


かつて王宮で「聖女(笑)」ともてはやされていた頃の面影は、今や一滴も残っておりません。


一方、その頃。


わたくしリディアは、帝国の温泉地にある「最高級貸切露天風呂」で、極上のリラックスタイムを過ごしておりました。


「……ふう。アン、このお湯の温度、完璧ですわね。お肌が真珠のように輝くのを感じますわ」


「左様でございますね、リディア様。サイラス陛下が、この源泉をお一人で独占できるように周囲の山ごと買い取ってくださいましたから」


「……陛下、本当に買い物がダイナミックすぎますわ」


わたくしが湯船の縁に頭を預けていると、隣の(目隠しされた)脱衣所の方から、低くて甘い声が聞こえてきました。


「リディア、のぼせてはいないか? 心配だから、俺も入っていいか?」


「絶対にダメですわよ! 陛下、そこを一歩でも越えたら、帝国の全予算を『フォアグラの輸入』に全振りいたしますわよ!」


「……それは困るな。だが、お前が溺れていないか確認する権利は皇帝にあるはずだ」


「ありませんわ! 陛下、いい加減にその『過保護バグ』を直してくださいまし!」


わたくしが呆れてお湯を跳ね返すと、サイラス様は楽しそうに笑いました。


「リディア。お前を断罪したあの国から、マリアンヌが『聖女を自称して暴動を扇動しようとした』という報告が届いたぞ。……どうする、今すぐ捕らえて、我が国の見世物小屋にでも送るか?」


「あら。あの方にそこまでの価値はありませんわよ。……ただ、アン。あの方に一通だけ、わたくしの名前で手紙を送って差し上げて」


「内容は、いかがいたしますか?」


わたくしは、最高の笑顔を浮かべて告げました。


「『洗濯板の使い方はマスターできましたかしら? もし無理なら、わたくしの商会で開発した最新の“洗濯石鹸(泡立ち最悪版)”をサンプルで送って差し上げますわ”……と」


「かしこまりました。じつにリディア様らしい、慈悲に満ちた(嫌味な)贈り物ですわね」


断罪されてたからって、まさか温泉に浸かりながら高みの見物をする日が来るとは。


わたくしの人生、今が一番「聖女」に近いかもしれませんわね。
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