断罪されてたからってなんなんですの?

きららののん

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「……アン。わたくし、先ほどから足元が妙にフワフワするのですけれど。この絨毯、魔導具か何かしら?」


帝宮の最上階、夜空に最も近いとされる『星屑のテラス』。


わたくし、リディアは、目の前に広がる光景に呆然と立ち尽くしていました。


テラス一面を埋め尽くしているのは、雪のように白い薔薇の花びら。


そしてその中心には、帝国の至宝である『月の雫』で作られたランプが、幻想的な光を放っています。


「リディア様、ご安心ください。それは最高級の雲クッションを敷き詰めた上に、薔薇の香りを定着させた特注品でございます。サイラス陛下が『リディアが歩くたびに天国のような心地よさを味わわせろ』と……」


「……陛下、本当に『普通』という言葉をご存じないのね」


わたくしが溜息をつきながらテラスの端へ歩み寄ると、背後からゆっくりとした足音が聞こえてきました。


振り返れば、そこには月の光を浴びて、神々しいまでのオーラを放つサイラス様が立っていました。


今日の彼は、いつもの軍服ではなく、漆黒のベルベットに銀の刺繍が施された、最高礼装に身を包んでいます。


「……リディア。ようやく二人きりになれたな」


「サイラス様。こんな夜更けに呼び出して、一体何の用事かしら? 明日の経済会議の資料なら、もうデスクに置いておきましたわよ」


わたくしがわざと素っ気なく答えると、彼は苦笑しながら、一歩、また一歩と距離を詰めてきました。


案の定、パーソナルスペースなどという概念を置き忘れたような近さで、わたくしの手を取ります。


「仕事の話ではない。……リディア、俺はお前に怒っているんだ」


「……あら。わたくし、何か予算を使いすぎましたかしら?」


「逆だ。お前は自分の価値を過小評価しすぎている。……昨日、ルピナス王国の王太子がお前に求婚の手紙を送ってきただろう? あんな紙切れ、俺の目の前で燃やせと言ったはずだ」


「あれは外交文書として処理しましたわ。燃やすのは資源の無駄ですもの」


サイラス様は、わたくしの手を握る力を少しだけ強めました。


その瞳は、いつになく真剣で、射抜くような熱を帯びています。


「無駄ではない。俺の所有物に手を出そうとする不届き者は、灰にしなければ気が済まん」


「……誰が陛下の所有物ですの」


「これからなるんだ。……いや、なってもらう」


サイラス様は、不意にその場に跪きました。


帝国の絶対君主が、一人の女性の前に膝をつく。


その光景だけで、帝国の歴史がひっくり返るほどの衝撃ですわ。


彼の手のひらには、夜空の星をすべて閉じ込めたような、巨大なブルーダイヤモンドの指輪が輝いていました。


「リディア・フォン・アストレア。俺は、お前を単なる『経済顧問』として留めておくつもりはない」


「……サイラス様?」


「お前の商才も、魔力も、その強気な微笑みも。すべてを我が帝国の『皇后』として、俺の隣に置いておきたい。……いや、俺の隣を歩いてほしい」


彼の声が、テラスの静寂に心地よく響きました。


「断罪され、国を追われたお前を、俺は一生かけて世界で最も幸福な女にすると誓おう。……リディア、俺と結婚してくれ。拒否権はない。もし断るなら、明日から俺は仕事をやめて、お前が『はい』と言うまでお前の寝室の前でデモを起こす」


「……最後の一言がなければ、完璧なプロポーズでしたのに」


わたくしは、呆れながらも頬が熱くなるのを抑えられませんでした。


断罪されてたからって、まさか人生の再就職先が「皇后」になるとは。


わたくしは、彼の手にある指輪を見つめ、そして彼の真っ直ぐな瞳を見返しました。


「サイラス様。わたくし、皇后の公務は『有給休暇』に含まれますの?」


「……ふっ。お前が望むなら、一年のうち三百六十日は休暇にしてやろう。残りの五日で、俺を愛してくれればそれでいい」


「……交渉成立ですわね」


わたくしがそっと手を差し出すと、サイラス様は狂おしいほどの喜びを瞳に湛え、わたくしの指に、その重すぎる愛の証を滑り込ませました。


断罪されてたからって、なんなんですの。


わたくし、どうやらこの「バグった距離感」の皇帝陛下と、一生を共にする覚悟が決まってしまったようですわ。
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