断罪されてたからってなんなんですの?

きららののん

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「……ぎぎぎ、銀色の……招待状だと!? いや、これはもはや鈍器ではないのか!?」


王国の、雨漏りが止まらない執務室。


アルフォンス殿下の手には、帝国の特殊魔導合金で作られた「結婚式の招待状」が握られていました。


その厚みは約五センチ。表紙にはダイヤモンドで『貴様は来なくていいが、指をくわえて見ていろ』という、サイラス陛下直筆の物騒なメッセージが刻まれています。


「リディア……! あんな恐ろしい男に脅されて、こんな不敬な文章を書かされているのだな! 可哀想に、今すぐ私が助けに行ってやるぞ!」


「殿下、それは招待状という名の『宣戦布告』かと思われます。あと、その板を振り回すと壁が崩れるのでおやめください」


老執事の忠告も耳に入らないのか、殿下はボロボロのカーテンをマント代わりに羽織り、錆びついた剣を腰に刺しました。


「馬を出せ! 今すぐ帝都へ乗り込み、式をぶち壊してリディアを奪還する!」


「馬は先週、食糧難のためにお隣の村へドナドナされていきましたわ。……あ、唯一残っているのは、こちらの『老いたロバ』だけでございます」


「くっ……背に腹は代えられん! 行くぞ、相棒よ! 真実の愛の力を見せてやる!」


殿下はロバに跨りましたが、足が地面についているため、実質的には「ロバを股に挟んで歩いている」という、じつにシュールな姿で王宮を出発したのでした。


……一方、その様子を帝宮の魔法スクリーンで眺めていたわたくし、リディア。


「……アン。わたくし、あの方のあくなき探究心……いえ、現実逃避能力には、ある種の敬意すら覚え始めましたわ」


「左様でございますね。ロバと一緒に徒歩で国境を越えようとする王太子など、歴史書のギャグ担当に名を連ねること間違いなしですわ」


わたくしが最高級のマカロンを口に運んでいると、背後から「ドォン!」という地響きと共にサイラス様が戻ってきました。


「リディア! 例の不法侵入者が国境付近に現れたそうだ。安心しろ、お前の目に触れる前に、国境沿いに『全自動・泥沼生成トラップ』を十キロにわたって設置しておいた!」


「……陛下。国境を泥沼にするのは、物流の妨げになりますからおやめくださいと言ったはずですわよ」


「お前の式を汚そうとする不届き者は、泥の中で一生を終えるのが相応しい。……見ろ、ちょうどハマったぞ」


スクリーンに映し出されたのは、国境の門にたどり着く直前、見事な放物線を描いて泥沼へとダイブしたアルフォンス殿下の姿でした。


『リ、リディアあああ! 助けてくれ! この泥、なんだかすごく……美容に良さそうな香りがするけれど、底が見えないんだあああ!』


「あら。わたくしの商会で開発した『美肌用泥パック』の廃棄分をそこに流しておきましたの。殿下、せめてお肌だけでも綺麗になってお帰りなさいな」


わたくしが冷ややかに微笑むと、泥まみれの殿下に向かって、帝国の国境警備隊(元・王宮騎士団の皆様)が一斉に声をかけました。


「おーい、元殿下! リディア様からの伝言だ!『愛しているなら、その泥を全部飲み干してから出直してらっしゃい』だそうだぞ!」


「う、嘘だあああ! リディアがそんな過激なことを言うはずがないいい!」


「陛下、わたくしそんな伝言頼んでおりませんわよ?」


わたくしがサイラス様を問い詰めると、彼はしれっと目を逸らしました。


「俺が、お前の心の声を代弁してやっただけだ。……リディア、あんな汚物を見るのはもう終わりだ。次は、披露宴で配るフォアグラの『厚さ』について議論しよう。俺は最低でも三センチは必要だと思う」


「……陛下、それはもはやステーキですわよ」


断罪されてたからって、まさか元婚約者が「美肌泥沼」で溺れる姿を、お茶菓子を食べながら観賞することになるとは。


わたくしの新しい人生、やはり最高にエキサイティングですわ。
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