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「……アン。わたくし、先ほどから呼吸をするたびに『カチャカチャ』と金属音が響くのですけれど。このドレス、防弾仕様か何かしら?」
鏡の中に映るわたくし、リディアは、もはやドレスを着ているというより、宝石の鎧を纏っているような状態でした。
空飛ぶ結婚式場『スカイ・マリッジ・フォートレス』の控室。窓の外には雲海が広がり、太陽がすぐ近くに感じられます。
「リディア様、ご安心ください。それは防弾ではなく、最高級の『金剛真珠』を三万粒ほど縫い込んだ特注品でございます。陛下が『リディアを守るためなら、物理的な防御力も必要だ』とおっしゃいまして」
「……結婚式に物理的な防御力は不要ですわよ。わたくし、これから戦場に赴くわけではありませんのに」
わたくしが重い肩を回しながら溜息をつくと、アンが手際よくヴェールを整えてくれました。
「ですがリディア様、あちらの王国では、今まさに戦場のような騒ぎになっているそうですわ。なんでも、殿下が泥沼から生還したものの、空に浮かぶこの式場を見上げて『リディアが天使になって昇天した!』と叫びながら、毎日庭で怪しげな儀式を踊っているとか」
「……あの方は、もう放っておきなさいな。天に召されたのはわたくしの独身生活であって、魂ではありませんわ」
わたくしは、窓の外に広がる青空を静かに見つめました。
断罪されたあの日。わたくしは全てを失ったと思っていました。
でも、実際はどうかしら。
あの日捨てたのは、無能な婚約者と、わたくしを便利屋扱いしていた冷酷な王家。
そして手に入れたのは、莫大な私産と、有能な部下たち、そして……。
「リディア! 準備はいいか! 待ちきれなくて、式場の魔導エンジンを三倍速にして迎えに来てしまった!」
扉を派手に蹴破って(※本来は自動ドアです)現れたのは、わたくしの自慢の……いえ、最高にバグった婚約者、サイラス様です。
「陛下! 三倍速にしたら、ゲストの皆様が気圧の変化で全滅してしまいますわよ! いい加減にお座りなさいな!」
わたくしがいつものようにピシャリと言うと、サイラス様は一瞬だけシュンとした顔をしましたが、すぐにわたくしの手を取って、熱烈な口づけを落としました。
「……リディア。お前は本当に、俺の前でも微塵も揺るがないな。その鋼のメンタルと、一切の妥協を許さない商魂、そして……俺を真っ直ぐに見据えるその瞳。俺は、そんなお前に救われたんだ」
「……あら。わたくし、陛下を救った覚えはございませんわよ。せいぜい、帝国の赤字部門を叩き潰したくらいですわ」
「それでいい。お前が俺の隣にいてくれるだけで、この帝国も、俺の心も、かつてないほどの好景気に沸いている。……愛している、リディア。お前が選んだこの幸せを、俺は死んでも守り抜く」
サイラス様の瞳には、冗談抜きの真剣な光が宿っていました。
わたくしは、少しだけ顔が熱くなるのを感じながら、彼の腕にそっと手を添えました。
「サイラス様。わたくしの選ぶ幸せは、それなりに高くつきますわよ? 覚悟はよろしいかしら?」
「ああ。帝国の金庫を空にしてでも、お前の笑顔を買い支えてやろう」
「……ふふ。なら、まずはその『空飛ぶ式場』の燃料代を、陛下の小遣いから差し引かせていただきますわね」
「……っ。リディア、お前という女は、本当に……最高だ!」
サイラス様に抱きしめられ、わたくしたちは雲の上の祭壇へと向かいました。
断罪されてたからって、なんなんですの?
わたくしの人生は、どん底から空の上まで、一気にV字回復いたしましたわ。
本当の幸せは、誰かに与えられるものではなく、自分の手で計算し、掴み取るものですの。
「さあ、行きましょう。世界で一番、騒がしくて贅沢な結婚式の始まりですわ!」
鏡の中に映るわたくし、リディアは、もはやドレスを着ているというより、宝石の鎧を纏っているような状態でした。
空飛ぶ結婚式場『スカイ・マリッジ・フォートレス』の控室。窓の外には雲海が広がり、太陽がすぐ近くに感じられます。
「リディア様、ご安心ください。それは防弾ではなく、最高級の『金剛真珠』を三万粒ほど縫い込んだ特注品でございます。陛下が『リディアを守るためなら、物理的な防御力も必要だ』とおっしゃいまして」
「……結婚式に物理的な防御力は不要ですわよ。わたくし、これから戦場に赴くわけではありませんのに」
わたくしが重い肩を回しながら溜息をつくと、アンが手際よくヴェールを整えてくれました。
「ですがリディア様、あちらの王国では、今まさに戦場のような騒ぎになっているそうですわ。なんでも、殿下が泥沼から生還したものの、空に浮かぶこの式場を見上げて『リディアが天使になって昇天した!』と叫びながら、毎日庭で怪しげな儀式を踊っているとか」
「……あの方は、もう放っておきなさいな。天に召されたのはわたくしの独身生活であって、魂ではありませんわ」
わたくしは、窓の外に広がる青空を静かに見つめました。
断罪されたあの日。わたくしは全てを失ったと思っていました。
でも、実際はどうかしら。
あの日捨てたのは、無能な婚約者と、わたくしを便利屋扱いしていた冷酷な王家。
そして手に入れたのは、莫大な私産と、有能な部下たち、そして……。
「リディア! 準備はいいか! 待ちきれなくて、式場の魔導エンジンを三倍速にして迎えに来てしまった!」
扉を派手に蹴破って(※本来は自動ドアです)現れたのは、わたくしの自慢の……いえ、最高にバグった婚約者、サイラス様です。
「陛下! 三倍速にしたら、ゲストの皆様が気圧の変化で全滅してしまいますわよ! いい加減にお座りなさいな!」
わたくしがいつものようにピシャリと言うと、サイラス様は一瞬だけシュンとした顔をしましたが、すぐにわたくしの手を取って、熱烈な口づけを落としました。
「……リディア。お前は本当に、俺の前でも微塵も揺るがないな。その鋼のメンタルと、一切の妥協を許さない商魂、そして……俺を真っ直ぐに見据えるその瞳。俺は、そんなお前に救われたんだ」
「……あら。わたくし、陛下を救った覚えはございませんわよ。せいぜい、帝国の赤字部門を叩き潰したくらいですわ」
「それでいい。お前が俺の隣にいてくれるだけで、この帝国も、俺の心も、かつてないほどの好景気に沸いている。……愛している、リディア。お前が選んだこの幸せを、俺は死んでも守り抜く」
サイラス様の瞳には、冗談抜きの真剣な光が宿っていました。
わたくしは、少しだけ顔が熱くなるのを感じながら、彼の腕にそっと手を添えました。
「サイラス様。わたくしの選ぶ幸せは、それなりに高くつきますわよ? 覚悟はよろしいかしら?」
「ああ。帝国の金庫を空にしてでも、お前の笑顔を買い支えてやろう」
「……ふふ。なら、まずはその『空飛ぶ式場』の燃料代を、陛下の小遣いから差し引かせていただきますわね」
「……っ。リディア、お前という女は、本当に……最高だ!」
サイラス様に抱きしめられ、わたくしたちは雲の上の祭壇へと向かいました。
断罪されてたからって、なんなんですの?
わたくしの人生は、どん底から空の上まで、一気にV字回復いたしましたわ。
本当の幸せは、誰かに与えられるものではなく、自分の手で計算し、掴み取るものですの。
「さあ、行きましょう。世界で一番、騒がしくて贅沢な結婚式の始まりですわ!」
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