断罪されてたからってなんなんですの?

きららののん

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「……ああ、リディア。空が、空が眩しすぎて、私の瞳が、いや、心が焼けてしまいそうだ……」


王国の荒れ果てた庭園で、アルフォンス殿下は力なく空を見上げていました。


上空には、帝国の威信をかけた空中式場が、太陽を背に受けて黄金色に輝いています。


時折、空からキラキラと光る粒が降ってきますが、それは雪でも星屑でもなく、式場の回転によって弾け飛んだ「本物のダイヤモンドの粉末」でした。


「殿下、お口を開けてはいけません。喉にダイヤモンドが詰まって、窒息死してしまいますよ」


唯一残った老執事が、泥だらけの殿下の背中を、枯れ葉を払うようにして叩きました。


「執事よ、見ろ! あの光の中に、リディアがいるのだ! 私のために政務をこなし、私のために予算をやりくりしてくれた、あの都合の……いや、愛おしいリディアが!」


「殿下、もう遅すぎます。あの方は今、隣国の皇帝陛下に抱かれ、この国の国家予算の百年分を一度のキスで使い切るような、極上の贅沢を味わっていらっしゃいますわ」


「嫌だあああ! リディア、戻ってきてくれ! 君がいないと、この国は、いや、私の胃袋がもう限界なんだあああ!」


殿下の絶叫は、高度一万メートルの空には届かず、虚しく風に流されていきました。


一方その頃、隣国のさらに辺境にある小さな村。


そこには、かつて「聖女(笑)」ともてはやされたマリアンヌ様の、変わり果てた姿がありました。


「……ふん! この泥汚れ、まだ落ちていないわね! やり直しよ! わたくしの前で、汚れを残すなんて万死に値しますわ!」


マリアンヌ様は、川べりで鬼のような形相をして、山のような洗濯物を洗濯板に叩きつけていました。


彼女の腕は、もはやドレスを着るための華奢なものではなく、丸太のように逞しい「洗濯の鬼」のそれへと進化していたのです。


「おい、マリアンヌ。隣の村の騎士団から、追加の洗濯物だ。今日中に終わらせないと、夕飯のパン抜きだぞ」


「わかっていますわよ! わたくしを誰だと思っているの! 汚れ一つ残さない、孤高の洗濯職人マリアンヌ様よ!」


かつてはリディアの宝石を盗もうとしていた彼女も、今や「自警団のパンツをいかに白く洗うか」という、じつに実用的な(?)使命に燃えておりました。


……さて、再び空の上の結婚式場。


わたくしリディアは、サイラス様に腰を抱かれたまま、魔法の望遠鏡で地上の様子を眺めておりました。


「……あら。アン、あちらの川辺で、猛烈な勢いで水しぶきを上げている生物が見えるのですけれど、あれは何かしら?」


「リディア様。あれは、かつてマリアンヌ様と呼ばれていた個体でございます。現在は村人から『洗濯の魔神』として恐れられ、重宝されているようですよ」


「まあ。あの方、ようやく『自分の手を動かして働く』という高尚な趣味を見つけられたのね。じつに喜ばしいことですわ」


わたくしが微笑むと、サイラス様が不機嫌そうに望遠鏡を奪い取りました。


「リディア。お前の視界に、あんな汚物を一秒でも入れてはダメだ。……それよりも、見ろ。お前のために、帝都の全噴水からワインが湧き出るように設定しておいた。今すぐ飲みに行くか?」


「陛下、帝都がアルコール中毒になってしまいますわよ。……あ、でも、あの方はどうなっているのかしら?」


わたくしが王国の方向に目を向けると、サイラス様は鼻で笑いました。


「あの王子か? 安心しろ。お前の結婚式を指をくわえて見続けたせいで、顎が外れて戻らなくなり、現在は執事に『流動食の芋』を流し込まれているそうだ」


「……自業自得ですわね。愛だけでお腹が膨れると言っていた方が、流動食だなんて」


わたくしは、かつての婚約者の哀れな末路を想い……一秒で忘れました。


断罪されてたからって、なんなんですの。


わたくしには今、このバグった愛を注いでくれる皇帝陛下と、守るべき帝国の経済、そして……最高に美味しいフォアグラがありますもの。


「サイラス様、次のお肉が焼けましたわよ。わたくし、冷めないうちにいただきたいですわ」


「ああ、あーん、しろ。リディア。お前の喉を通る全ての食事が、俺への愛に変わる魔法をかけておいた」


「……陛下、それ、ただの独占欲の塊ですわよ?」


わたくしたちの笑い声は、空の上、どこまでも高く響き渡っていくのでした。
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