28 / 30
28
「……アン。わたくし、今朝から窓の外に見える『巨大な黄金のリディア像』が気になって、朝食のクロワッサンが喉を通りませんの。あれ、いつの間に建ちましたの?」
帝宮の最上階、皇后専用の寝室。
わたくし、リディアは、寝起きのコーヒーを啜りながら、眼下に広がる帝都の景色を指差しました。
そこには、朝日に照らされて神々しく(物理的に)輝く、全高五十メートルはあろうかというわたくしの立像がそびえ立っています。
「リディア様、おはようございます。あれは昨夜、サイラス陛下が『リディアが目覚めた時、自分の美しさを再確認できるように』と、魔導建築ギルドを総動員して突貫工事で建てさせたものでございます」
「……陛下。わたくし、鏡を見るだけで十分ですわ。あんな巨大なもの、鳥の落とし物の標的になるだけではありませんこと?」
「ご安心ください。像には常時『自動洗浄結界』と『威圧:カラス除け』が張られております。ちなみに、像の瞳の部分は最高級のサファイアで作られており、夜間は帝都を照らす灯台の役割も果たすそうですわ」
アンが淡々と答える中、寝室の扉が「バァン!」と景気良く開け放たれました。
「リディア! 起きたか! 今日も世界一美しいな! ああ、その寝癖すら、俺にとっては銀河の渦より尊い!」
軍服を半分脱ぎ捨てたような格好で飛び込んできたのは、わたくしの愛すべき、そして致命的に距離感のバグった夫、サイラス様です。
彼はわたくしの返事も待たずにベッドへ飛び込み、わたくしの腰をがっしりとホールドしました。
「陛下! 重いですわ! それから、まだ公務の時間ではありませんでしょう!」
「公務など、お前を愛でる時間に比べれば塵に等しい。……リディア、今朝の像は見たか? お前の気高さを表現するために、純金に魔力を混ぜて特別に輝かせたんだ」
「見ましたわ。眩しすぎて、カーテンを開けた瞬間に目が焼けそうになりましたわよ。……すぐに撤去、あるいは『避雷針』に改造してくださいまし」
「……お前がそう言うなら、次は銀で作らせるか」
「素材の問題ではありませんわよ」
わたくしが溜息をつきながら彼の頬をつねると、サイラス様は嬉しそうに目を細め、わたくしの指先に口づけを落としました。
「リディア。お前が俺の隣にいるだけで、帝国は豊かになり、俺の心は満たされる。……昨日、王国の残党が『リディア様を返せ』という嘆願書を送ってきたが、無視してよかったか?」
「返せ、ですの? あの方たち、わたくしをゴミのように捨てたこと、もうお忘れになったのかしら」
「ああ。どうやら、飢えと寒さで記憶の一部が消滅したらしい。……安心しろ、返信として『お前たちの国の土地を、リディア専用の靴箱にするために買い取る』という契約書を送っておいた」
「……陛下、わたくしの靴は、国一つ分もございませんわよ」
「これから増やすんだ。毎日百足ずつ、世界中の名職人に作らせているからな」
サイラス様の独占欲と過保護ぶりは、結婚してからさらに「宇宙規模」へと進化しておりました。
でも不思議なことに、以前のような「重苦しさ」は感じません。
断罪されたあの日。わたくしはただ一人で戦う覚悟を決めましたけれど。
今は、わたくしがどれだけ皮肉を言っても、どれだけ予算を削っても、全力で愛し返してくるこの「バカな男」がいる。
「……サイラス様。わたくし、今日の午後は市場の視察に行きたいのですけれど」
「ダメだ。お前の足を地面につかせるわけにいかない。……よし、帝都の道をすべて『雲』に変える魔導具を開発させよう」
「……普通に歩かせてくださいまし」
わたくしは微笑みながら、彼の胸にそっと頭を預けました。
断罪されてたからって、なんなんですの。
わたくしは今、世界で一番贅沢で、世界で一番賑やかな「本当の幸せ」の真っ只中にいますのよ。
「アン、今夜の晩餐はフォアグラを二倍にしてちょうだい。……陛下を黙らせるために、口に押し込んで差し上げますわ」
「かしこまりました。じつにリディア様らしい、愛に満ちた(暴力的な)解決策ですわね」
わたくしたちの騒がしい朝は、帝都の黄金像の輝きと共に、今日も華やかに幕を開けるのでした。
帝宮の最上階、皇后専用の寝室。
わたくし、リディアは、寝起きのコーヒーを啜りながら、眼下に広がる帝都の景色を指差しました。
そこには、朝日に照らされて神々しく(物理的に)輝く、全高五十メートルはあろうかというわたくしの立像がそびえ立っています。
「リディア様、おはようございます。あれは昨夜、サイラス陛下が『リディアが目覚めた時、自分の美しさを再確認できるように』と、魔導建築ギルドを総動員して突貫工事で建てさせたものでございます」
「……陛下。わたくし、鏡を見るだけで十分ですわ。あんな巨大なもの、鳥の落とし物の標的になるだけではありませんこと?」
「ご安心ください。像には常時『自動洗浄結界』と『威圧:カラス除け』が張られております。ちなみに、像の瞳の部分は最高級のサファイアで作られており、夜間は帝都を照らす灯台の役割も果たすそうですわ」
アンが淡々と答える中、寝室の扉が「バァン!」と景気良く開け放たれました。
「リディア! 起きたか! 今日も世界一美しいな! ああ、その寝癖すら、俺にとっては銀河の渦より尊い!」
軍服を半分脱ぎ捨てたような格好で飛び込んできたのは、わたくしの愛すべき、そして致命的に距離感のバグった夫、サイラス様です。
彼はわたくしの返事も待たずにベッドへ飛び込み、わたくしの腰をがっしりとホールドしました。
「陛下! 重いですわ! それから、まだ公務の時間ではありませんでしょう!」
「公務など、お前を愛でる時間に比べれば塵に等しい。……リディア、今朝の像は見たか? お前の気高さを表現するために、純金に魔力を混ぜて特別に輝かせたんだ」
「見ましたわ。眩しすぎて、カーテンを開けた瞬間に目が焼けそうになりましたわよ。……すぐに撤去、あるいは『避雷針』に改造してくださいまし」
「……お前がそう言うなら、次は銀で作らせるか」
「素材の問題ではありませんわよ」
わたくしが溜息をつきながら彼の頬をつねると、サイラス様は嬉しそうに目を細め、わたくしの指先に口づけを落としました。
「リディア。お前が俺の隣にいるだけで、帝国は豊かになり、俺の心は満たされる。……昨日、王国の残党が『リディア様を返せ』という嘆願書を送ってきたが、無視してよかったか?」
「返せ、ですの? あの方たち、わたくしをゴミのように捨てたこと、もうお忘れになったのかしら」
「ああ。どうやら、飢えと寒さで記憶の一部が消滅したらしい。……安心しろ、返信として『お前たちの国の土地を、リディア専用の靴箱にするために買い取る』という契約書を送っておいた」
「……陛下、わたくしの靴は、国一つ分もございませんわよ」
「これから増やすんだ。毎日百足ずつ、世界中の名職人に作らせているからな」
サイラス様の独占欲と過保護ぶりは、結婚してからさらに「宇宙規模」へと進化しておりました。
でも不思議なことに、以前のような「重苦しさ」は感じません。
断罪されたあの日。わたくしはただ一人で戦う覚悟を決めましたけれど。
今は、わたくしがどれだけ皮肉を言っても、どれだけ予算を削っても、全力で愛し返してくるこの「バカな男」がいる。
「……サイラス様。わたくし、今日の午後は市場の視察に行きたいのですけれど」
「ダメだ。お前の足を地面につかせるわけにいかない。……よし、帝都の道をすべて『雲』に変える魔導具を開発させよう」
「……普通に歩かせてくださいまし」
わたくしは微笑みながら、彼の胸にそっと頭を預けました。
断罪されてたからって、なんなんですの。
わたくしは今、世界で一番贅沢で、世界で一番賑やかな「本当の幸せ」の真っ只中にいますのよ。
「アン、今夜の晩餐はフォアグラを二倍にしてちょうだい。……陛下を黙らせるために、口に押し込んで差し上げますわ」
「かしこまりました。じつにリディア様らしい、愛に満ちた(暴力的な)解決策ですわね」
わたくしたちの騒がしい朝は、帝都の黄金像の輝きと共に、今日も華やかに幕を開けるのでした。
あなたにおすすめの小説
お姉さまは最愛の人と結ばれない。
りつ
恋愛
――なぜならわたしが奪うから。
正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――
年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました
チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。
そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。
そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。
彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。
ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。
それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね
との
恋愛
離婚したいのですか? 喜んでお受けします。
でも、本当に大丈夫なんでしょうか?
伯爵様・・自滅の道を行ってません?
まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。
収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。
(父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる)
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・