断罪されてたからってなんなんですの?

きららののん

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「……アン。わたくし、先ほど提出された『帝国次年度予算案』の項目にある、この『赤子専用の騎士団:百個小隊の編成』という文字が、何度見ても書き間違いにしか見えませんの。修正してくださる?」


帝宮の、最高級のフォアグラの香りが漂う執務室。


わたくし、リディア・フォン・グランヴェルは、目の前の書類をペン先で叩きました。


「リディア様、残念ながらそれは書き間違いではございません。サイラス陛下が『我が子の最初の一歩を警護するために、帝都の石畳すべてにクッションを敷き詰め、騎士たちで肉の壁を作らせる』と豪語されておりまして」


「……最初の一歩どころか、まだ生まれてもおりませんわよ。気が早すぎますわ」


わたくしは、そっと自分のまだ膨らみのないお腹に手を当てました。


そう、わたくしとサイラス様の間に、新しい命が宿ったことが判明したのが昨日のこと。


その瞬間、陛下は嬉しさのあまり魔力を暴走させ、帝宮の庭園に「永遠に枯れないクリスタルの花」を一万株ほど咲かせてしまいました。


「リディア! 仕事などしている場合か! 今すぐ横になれ! いや、空気抵抗すらお前にとっては毒だ、俺が魔法で真空状態にしてやろうか!?」


「陛下、わたくしを窒息死させるおつもり!? いい加減にお座りなさいな!」


わたくしがピシャリと一喝すると、陛下は「……すまん」と大人しくソファーに座りました。


ですが、その瞳は変わらず熱を帯び、わたくしを一秒たりとも離そうとしません。


「リディア。お前が俺の妃になり、そして母になる。……あの時、あの愚かな王子がお前を断罪してくれたことに、俺は歴史上最大の感謝を捧げたい」


「まあ。あの夜会で、わたくしのドレスにワインをぶっかけた殿下に感謝するなんて、陛下くらいですわね」


「ああ。お前という至宝を、あんなゴミ溜めに置いておく必要はなかった。お前は、俺の隣で世界を動かし、そして俺に愛されるために生まれてきたんだ」


サイラス様は立ち上がり、わたくしの背後から優しく、壊れ物を扱うように抱きしめました。


「……ねえ、サイラス様」


「なんだ」


「わたくし、あの時『追放』されたことで、初めて自分の足で歩く楽しさを知りましたの。経済を回し、敵を叩き潰し、そして……陛下のような、バグった愛を見つけることもできましたわ」


わたくしは微笑みながら、彼の腕に手を重ねました。


かつての王国は、今や帝国の「特産品供給農園」として再出発し、アルフォンス殿下は毎日「草むしり」に精を出し、マリアンヌ様は「洗濯ギルドの長」として、文字通り泥にまみれて働いているそうです。


あの方たちが手に入れたかった「真実の愛」は、どうやらわたくしが手に入れた「最強の夫と、莫大な資産」の影に隠れて、どこにも見当たらなかったようですわね。


「リディア、愛している。お前の人生の決算書は、俺が永遠に『史上最高の黒字』にしてやる」


「……陛下。愛は目に見える利益で示していただきたいですわね。まずは、その騎士団の予算を、赤子用の『金貨のプール』に変えることから始めましょうか?」


「ふははっ! いいだろう、お前の望むままだ!」


わたくしたちの笑い声は、窓の外でわたくしを称える国民たちの歓声と混ざり合い、晴れ渡る空へと消えていきました。


断罪されてたからって、なんなんですの?


わたくし、今が人生で一番、最高に幸せですわ!
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