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二十四【仮面の下の素顔】
しおりを挟むアレスとの無意味な会話の後、リノエルは宰相の執務室へと案内された。
宰相は、カイの父親でもある。彼は、リノエルを見ると、安堵したような、そして申し訳なさそうな複雑な表情を浮かべた。
「リノエル嬢。よく、来てくれた。息子の……いや、王太子の愚行、まことに申し訳なく思う」
「お顔をお上げください、宰相閣下。わたくしは、もう気にしておりませんわ」
リノエルは、毅然として答えた。
宰相との話し合いは、有意義なものだった。リノエルは、フォーミュラー領で実践した経済政策について具体的に説明し、宰相は国の財政状況を正直に打ち明けた。
話し合いを終え、廊下を歩いていると、向こうから数人の女官たちが、ひそひそと話しながら通り過ぎていく。
「聞いた? エミリア様が、また新しいドレスを宝石商に注文なさったそうよ」
「まあ! ついこの間も、高価なネックレスを……」
「なんでも、国の予算から出ているとか……いえ、それどころか、実家のご両親にまで、毎月多額の送金をなさっているんですって」
「まあ、なんてこと……」
女官たちの囁き声を聞きながら、リノエルは王宮に渦巻く不穏な空気の正体を、おぼろげに察していた。
エミリア・ブラウン。
あの、か弱く、純粋な愛を語っていた男爵令嬢。その仮面の下にある素顔は、どうやら相当に強欲なもののようだった。
その頃。
宰相の執務室では、密偵からの最終報告が届けられていた。
テーブルの上に広げられたのは、一冊の帳簿。
それは、エミリアが懇意にしている宝石商のもので、そこには、エミリアが注文した宝飾品のリストと、その代金の流れが詳細に記されていた。
代金は、王太子であるアレスの私的予算から支出されている。しかし、その額は、正式な購入金額よりも、不自然に水増しされていた。
そして、その差額分が、宝石商からエミリアの個人口座へと、賄賂として振り込まれていたのだ。
「……これが、決定的な証拠ですな」
宰相は、帳簿を手に取り、冷たく呟いた。
「王室の財産を私物化し、不正に利益を得る。これは、国に対する背信行為に他ならん」
アレスは、まだこの事実を知らない。
彼は、エミリアがただ贅沢なだけの、か弱く愛らしい少女だと信じ込んでいる。
だが、その化けの皮が剥がされる日は、もう目前まで迫っていた。
リノエルが王都にやってきたことは、くすぶっていた火種に、大きな風を送る結果となった。
これから始まる粛清の嵐を、まだ、アレスとエミリアは知る由もなかった。
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