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「私なりの、考え……?」
ハーデスはイヴの言葉を繰り返した。
寂しさから婚約破棄を突きつけた手前、今更引けないというプライドと、彼女の真意を知りたいという好奇心がせめぎ合う。
するとイヴは、今まで見せたことのない、悲しげな微笑みを浮かべた。
「殿下はご存じありませんか? 私が宮廷で、いえ、この国でどう呼ばれているか」
その問いに、ハーデスは答えられなかった。
知っているからだ。辺境伯の黒髪の令嬢。『不吉』『呪われている』――そんな心ない噂が流れていることを。
「私に近づくと不吉が訪れるだの、妙な臭いがするだの……世間は、私を嫌っています」
淡々と語るイヴの姿が、ハーデスの胸を締め付けた。
「私は……私は、ハーデス殿下が、大好きなので……」
ぽつり、と。
か細い声で紡がれた言葉に、ハーデスは息を呑んだ。
「ですから、私のせいで殿下に良くない噂が立つことだけは、避けたかったのです」
それが、彼女がずっと心を閉ざしていた理由。
拒絶ではなく、不器用すぎる愛情表現だったのだと、ハーデスはようやく理解した。
イヴが、おずおずと一歩、ハーデスに近づく。
その小さな動きに、ハーデスの心臓がどくん、と大きく跳ねた。
「本当は……嫌でなければ、ですけど……」
イヴは恥ずかしそうに視線を彷徨わせ、顔を真っ赤に染めている。
「ずっと、くっついたり、甘えたり……その、匂いを嗅いだり……な、舐めたりも、したい、です……」
語尾はほとんど消え入りそうだった。
「……あっ。言っちゃった……」
イヴは自分の口元を両手で覆い、ハクハクと呼吸を乱している。その姿は、庇護欲を掻き立てるには十分すぎた。
やがて彼女は、何かを決心したように、潤んだ瞳でハーデスをまっすぐに見上げた。
「これからは、愛想良くします。もっと、素直になりますから……!」
その黒い瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「そ、それでも……それでも殿下は、私との婚約破棄を、したいとお望みですか……?」
震える声での問いかけが、ハーデスの心に深く、深く突き刺さった。
ハーデスはイヴの言葉を繰り返した。
寂しさから婚約破棄を突きつけた手前、今更引けないというプライドと、彼女の真意を知りたいという好奇心がせめぎ合う。
するとイヴは、今まで見せたことのない、悲しげな微笑みを浮かべた。
「殿下はご存じありませんか? 私が宮廷で、いえ、この国でどう呼ばれているか」
その問いに、ハーデスは答えられなかった。
知っているからだ。辺境伯の黒髪の令嬢。『不吉』『呪われている』――そんな心ない噂が流れていることを。
「私に近づくと不吉が訪れるだの、妙な臭いがするだの……世間は、私を嫌っています」
淡々と語るイヴの姿が、ハーデスの胸を締め付けた。
「私は……私は、ハーデス殿下が、大好きなので……」
ぽつり、と。
か細い声で紡がれた言葉に、ハーデスは息を呑んだ。
「ですから、私のせいで殿下に良くない噂が立つことだけは、避けたかったのです」
それが、彼女がずっと心を閉ざしていた理由。
拒絶ではなく、不器用すぎる愛情表現だったのだと、ハーデスはようやく理解した。
イヴが、おずおずと一歩、ハーデスに近づく。
その小さな動きに、ハーデスの心臓がどくん、と大きく跳ねた。
「本当は……嫌でなければ、ですけど……」
イヴは恥ずかしそうに視線を彷徨わせ、顔を真っ赤に染めている。
「ずっと、くっついたり、甘えたり……その、匂いを嗅いだり……な、舐めたりも、したい、です……」
語尾はほとんど消え入りそうだった。
「……あっ。言っちゃった……」
イヴは自分の口元を両手で覆い、ハクハクと呼吸を乱している。その姿は、庇護欲を掻き立てるには十分すぎた。
やがて彼女は、何かを決心したように、潤んだ瞳でハーデスをまっすぐに見上げた。
「これからは、愛想良くします。もっと、素直になりますから……!」
その黒い瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「そ、それでも……それでも殿下は、私との婚約破棄を、したいとお望みですか……?」
震える声での問いかけが、ハーデスの心に深く、深く突き刺さった。
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