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王都への帰還を果たしたハーデスが最初に向かったのは、父である国王の待つ謁見の間だった。捕縛したヴァルガス公爵とザラームの身柄を騎士団に引き渡すと、彼はイヴを伴い、王の御前へと進み出た。イヴはまだ少し緊張した面持ちだったが、その隣でハーデスがしっかりと手を握っている。
「戻りました、父上」
「うむ。長旅、ご苦労であった、ハーデス。そして、ヴェルディア嬢も、息災であったか」
玉座に座る国王の表情は穏やかだったが、その瞳は、息子と未来の妃がくぐり抜けてきたであろう死線を、正確に見抜いていた。
ハーデスは、辺境で起きた事件の顛末を、一部始終、詳細に報告した。ヴァルガス公爵と闇の魔術師ザラームの陰謀、マナを汚染するおぞましい装置、そして、自らの危険を顧みず、その身に宿した力で故郷を救ったイヴの英雄的な行動。彼の報告は、私的な感情を排した、極めて客観的なものだったが、その言葉の端々には、イヴへの誇りと敬意が滲み出ていた。
報告と共に、砦から押収された反逆の証拠の数々が、国王の前に並べられる。ヴァルガス公爵が、王家の転覆を狙って反王国勢力と交わした密約の書簡。ザラームが記した、イヴの力を奪い、悪用するための、おぞましい儀式の詳細。それらは、彼らの罪を確定させるには、十分すぎるものだった。
国王は、すべての報告を聞き終えると、深く、長い沈黙に落ちた。やがて、彼はゆっくりと口を開いた。
「……ハーデスよ。お前は、見事に役目を果たした。王太子として、そして一人の男として、実によくやった」
その言葉は、ハーデスにとって何よりの褒賞だった。
「そして、ヴェルディア嬢」
国王の視線が、イヴに向けられる。イヴは、びくりと肩を震わせたが、ハーデスがその手を強く握り、彼女を支えた。
「そなたの勇気と自己犠牲の精神が、ヴェルディア辺境伯領を、ひいては、この国の危機を救った。その功績、いくら称えても足りぬほどだ。ロイヤル王国国王として、そなたに心からの感謝を申し上げる」
国王は、玉座から立ち上がると、厳かに裁きを告げた。
「反逆者ヴァルガスは、ロイヤル王国の法に基づき、本日をもって全ての爵位と財産を剥奪。一族は王都から追放し、本人は、二度と日の目を見ることのない、北の幽閉塔にて生涯を終えることとする」
そして、ザラームについては、と国王は続けた。
「闇の魔術師ザラームは、その魔力を完全に封じた上で、同様に幽閉塔の最上階に拘禁。その知識が悪用されることのないよう、生涯、誰との接触も禁ずる」
それは、死よりも重い、彼らの存在そのものを社会から抹消する、厳しい裁きだった。
そして最後に、国王はイヴに向き直り、今までになく優しい、しかし力強い声で宣言した。
「イヴ・ヴェルディア。そなたのその身に宿す、精霊より授かりし聖なる力は、本日この時をもって、我がロイヤル王国の『国宝』と認定する。王家の名において、我らとその子孫は、そなたの力を永久に守護し、敬意を払うことを、ここに誓う」
それは、ただの賞賛ではなかった。国内外のあらゆる勢力に対して、「彼女に手を出すことは、このロイヤル王国そのものへの反逆とみなす」という、国王による最も強力な宣言であり、彼女を守るための、絶対的な盾だった。
イヴは、あまりに大きなその言葉の意味をすぐには理解できず、ただ呆然と立ち尽くす。そんな彼女の肩を、ハーデスは誇らしげに、そして優しく抱きしめるのだった。
「戻りました、父上」
「うむ。長旅、ご苦労であった、ハーデス。そして、ヴェルディア嬢も、息災であったか」
玉座に座る国王の表情は穏やかだったが、その瞳は、息子と未来の妃がくぐり抜けてきたであろう死線を、正確に見抜いていた。
ハーデスは、辺境で起きた事件の顛末を、一部始終、詳細に報告した。ヴァルガス公爵と闇の魔術師ザラームの陰謀、マナを汚染するおぞましい装置、そして、自らの危険を顧みず、その身に宿した力で故郷を救ったイヴの英雄的な行動。彼の報告は、私的な感情を排した、極めて客観的なものだったが、その言葉の端々には、イヴへの誇りと敬意が滲み出ていた。
報告と共に、砦から押収された反逆の証拠の数々が、国王の前に並べられる。ヴァルガス公爵が、王家の転覆を狙って反王国勢力と交わした密約の書簡。ザラームが記した、イヴの力を奪い、悪用するための、おぞましい儀式の詳細。それらは、彼らの罪を確定させるには、十分すぎるものだった。
国王は、すべての報告を聞き終えると、深く、長い沈黙に落ちた。やがて、彼はゆっくりと口を開いた。
「……ハーデスよ。お前は、見事に役目を果たした。王太子として、そして一人の男として、実によくやった」
その言葉は、ハーデスにとって何よりの褒賞だった。
「そして、ヴェルディア嬢」
国王の視線が、イヴに向けられる。イヴは、びくりと肩を震わせたが、ハーデスがその手を強く握り、彼女を支えた。
「そなたの勇気と自己犠牲の精神が、ヴェルディア辺境伯領を、ひいては、この国の危機を救った。その功績、いくら称えても足りぬほどだ。ロイヤル王国国王として、そなたに心からの感謝を申し上げる」
国王は、玉座から立ち上がると、厳かに裁きを告げた。
「反逆者ヴァルガスは、ロイヤル王国の法に基づき、本日をもって全ての爵位と財産を剥奪。一族は王都から追放し、本人は、二度と日の目を見ることのない、北の幽閉塔にて生涯を終えることとする」
そして、ザラームについては、と国王は続けた。
「闇の魔術師ザラームは、その魔力を完全に封じた上で、同様に幽閉塔の最上階に拘禁。その知識が悪用されることのないよう、生涯、誰との接触も禁ずる」
それは、死よりも重い、彼らの存在そのものを社会から抹消する、厳しい裁きだった。
そして最後に、国王はイヴに向き直り、今までになく優しい、しかし力強い声で宣言した。
「イヴ・ヴェルディア。そなたのその身に宿す、精霊より授かりし聖なる力は、本日この時をもって、我がロイヤル王国の『国宝』と認定する。王家の名において、我らとその子孫は、そなたの力を永久に守護し、敬意を払うことを、ここに誓う」
それは、ただの賞賛ではなかった。国内外のあらゆる勢力に対して、「彼女に手を出すことは、このロイヤル王国そのものへの反逆とみなす」という、国王による最も強力な宣言であり、彼女を守るための、絶対的な盾だった。
イヴは、あまりに大きなその言葉の意味をすぐには理解できず、ただ呆然と立ち尽くす。そんな彼女の肩を、ハーデスは誇らしげに、そして優しく抱きしめるのだった。
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