面倒くさがり悪役令嬢は、追放先でのんびりしたいのに！

7

ゼンドラーでの生活が始まって、数日が経った。
わたくしは毎日、昼近くまで眠り、起きては食事をとり、そして庭で日当たりの良い場所を見つけてはうたた寝をする、という理想的な日々を送っていた。

その日も、わたくしは庭の一角にある樫の木陰に椅子を持ち出し、心地よい風に吹かれながら微睡んでいた。
最高に面倒くさくない、完璧な時間。

ふと、視線を感じて、薄っすらと目を開けた。
少し離れた生垣の向こうから、誰かがこちらをじっと見ている。
黒い髪に、黒い瞳。整ってはいるが、一切の感情が読み取れない無表情な顔。
旅人のような、飾り気のない服装をした若い男だった。

（……不審者ですわね）

そう認識したが、声をかけるのが、まず面倒だった。
下手に刺激して、何か要求されても面倒だ。
関わらないのが一番。

わたくしは、再び目を閉じた。
しかし、視線は依然として外れない。
じっとりとした、観察するような視線。
さすがに、この状況で寝続けるのは少し気味が悪い。

（仕方ありませんわね……）

わたくしは、ゆっくりと目を開け、面倒だという気持ちを隠しもせず、男に向かって声をかけた。

「……そこの方。何かご用ですの？」

男は、わたくしの問いに答えない。
ただ、無表情のまま、こちらを見つめている。
眉一つ動かさないその顔は、まるで能面のようだ。

（気味が悪いですわね。でも、これ以上関わるのはもっと面倒…）

反応がないのをいいことに、わたくしは男を無視して、再び目を閉じることにした。
害意は感じられない。ただ見ているだけなら、実害はないだろう。
眠気のほうが、不審者への警戒心よりも、はるかに勝っていたのだ。
わたくしの安眠を邪魔する者は、たとえ謎のイケメンであろうと許さない。
そう心に決め、わたくしは再び意識を夢の世界へと沈めていった。