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月に一度の「一括陳情会」。
広間に集められた領民たちは、最初こそ戸惑っていたものの、問題ごとにグループ分けされたことで、かえって他の人々との連帯感が生まれたようだった。
わたくしは玉座まがいの椅子にふんぞり返り、各グループの代表者の報告を、眠いのを我慢しながら聞いていた。
(ふむ…水路の問題が多いようですわね。これはまとめて対策を考えた方が、確かに効率的ですわ)
自分の面倒くさがりが生んだシステムが、意外にも機能していることに少しだけ満足する。
その時、ふと視線を感じて広間の隅に目を向けた。
いた。例の不審者。
あの庭での遭遇以来、彼はたびたび姿を現し、わたくしの行動を無表情に観察していた。
陳情会が終わり、わたくしが「では、解散」と告げると、領民たちはぞろぞろと帰っていく。
その人の波に逆らうようにして、あの男がまっすぐこちらへ歩いてきた。
(うわ…来ましたわ。面倒なことになりそうですわね…)
わたくしの目の前で立ち止まった男は、じっとわたくしの顔を見つめた後、静かに口を開いた。
「面白いことを考える」
それだけ言うと、彼は小さく、本当に小さく口角を上げたように見えた。
「俺はアッシュ。訳あって、しばらくこの地に滞在させてもらう」
一方的な自己紹介と滞在許可の要求。
普通なら、素性の知れぬ者を領地に置くなどとんでもない話だ。
だが、わたくしはあくびを一つかみ殺すと、あっさりと答えた。
「お好きになさいませ。わたくしは構いませんわ」
セバスが隣で「レティシア様!?」と慌てているが、無視する。
だって、この男の素性を調査するのも、追い出すために議論するのも、すべてが面倒ではないか。
「ただし」
わたくしは、人差し指を一本立てて、釘を刺す。
「わたくしの安眠を妨げるようなことだけは、決してなさいませんように。よろしいですわね?」
アッシュと名乗った男は、こくりと一度だけ頷いた。
こうして、わたくしのぐうたらライフに、謎の同居人という、少しだけ面倒な要素が加わったのである。
広間に集められた領民たちは、最初こそ戸惑っていたものの、問題ごとにグループ分けされたことで、かえって他の人々との連帯感が生まれたようだった。
わたくしは玉座まがいの椅子にふんぞり返り、各グループの代表者の報告を、眠いのを我慢しながら聞いていた。
(ふむ…水路の問題が多いようですわね。これはまとめて対策を考えた方が、確かに効率的ですわ)
自分の面倒くさがりが生んだシステムが、意外にも機能していることに少しだけ満足する。
その時、ふと視線を感じて広間の隅に目を向けた。
いた。例の不審者。
あの庭での遭遇以来、彼はたびたび姿を現し、わたくしの行動を無表情に観察していた。
陳情会が終わり、わたくしが「では、解散」と告げると、領民たちはぞろぞろと帰っていく。
その人の波に逆らうようにして、あの男がまっすぐこちらへ歩いてきた。
(うわ…来ましたわ。面倒なことになりそうですわね…)
わたくしの目の前で立ち止まった男は、じっとわたくしの顔を見つめた後、静かに口を開いた。
「面白いことを考える」
それだけ言うと、彼は小さく、本当に小さく口角を上げたように見えた。
「俺はアッシュ。訳あって、しばらくこの地に滞在させてもらう」
一方的な自己紹介と滞在許可の要求。
普通なら、素性の知れぬ者を領地に置くなどとんでもない話だ。
だが、わたくしはあくびを一つかみ殺すと、あっさりと答えた。
「お好きになさいませ。わたくしは構いませんわ」
セバスが隣で「レティシア様!?」と慌てているが、無視する。
だって、この男の素性を調査するのも、追い出すために議論するのも、すべてが面倒ではないか。
「ただし」
わたくしは、人差し指を一本立てて、釘を刺す。
「わたくしの安眠を妨げるようなことだけは、決してなさいませんように。よろしいですわね?」
アッシュと名乗った男は、こくりと一度だけ頷いた。
こうして、わたくしのぐうたらライフに、謎の同居人という、少しだけ面倒な要素が加わったのである。
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