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朝の光が、剥げかかった漆喰の壁に無遠慮な模様を描いている。
王都の離宮であれば、最高級のシルクのカーテンがこの無礼な光を遮ってくれたものを。
「……お早うございます、エレオノーラ様。本日もまた、救いようのない快晴にございます」
枕元で控えていたティアが、精一杯の「洗練」を装って頭を下げた。
彼女の着ている服は、相変わらず継ぎ接ぎだらけだが、昨日に比べれば随分と清潔感がある。
「ええ、お早う。ティア。絶望的なまでに爽やかな朝ですわね。私の心がこれほどまでに汚れ、淀んでいるというのに、天は無関心を貫くおつもりかしら」
私は上体を起こし、乱れた髪を指先で梳いた。
鏡の中に映るのは、やつれるどころか、どこか毒々しいまでの艶を増した自分の顔。
没落とは、もっと悲愴で、もっと湿り気を帯びたものであるはずなのに。
「……マクシミリアン様は、どちらに?」
「旦那様は、早朝から『ケソミの丘』まで出向かれました。あそこに眠る銀の露天掘りを、力ずくで再開させると仰って……」
「あら。あの方は、朝からそんな野蛮なことを。……ついでに、私の朝食の準備も頼めますかしら。昨日の芋ではないものを」
「はい! 旦那様が昨夜、どこからか『徴収』してきたという最高級の小麦粉がございます!」
徴収、という言葉に、私は満足げに微笑んだ。
略奪ではなく、徴収。
その言葉の響き一つで、私たちは「秩序ある悪」としてこの地に君臨できる。
一時間後。
私は、崩れかけたバルコニーに設えたテーブルで、マクシミリアンと向かい合っていた。
「……遅いな、エレオノーラ。太陽はすでに、我々の罪を一つずつ数え終えるほどの高さにあるぞ」
マクシミリアンは、銀を掘りに行っていたとは思えないほど、完璧に整えられた姿で座っていた。
ただ、その白い手袋には、微かに土の匂いが染み付いている。
「マクシミリアン様。悪役たるもの、優雅な遅刻は嗜みですわ。それより、銀の調子はいかが?」
「上々だ。あの丘には、王都の連中が一生かけても使い切れないほどの富が眠っている。……もっとも、それは今日から私の『私怨』を満たすための軍資金に変わるわけだが」
「まあ。私怨のために銀を掘るなんて、なんて卑俗で、そして美しい行為でしょう」
私は、ティアが焼いたパンに、毒々しいほど赤いベリーのジャムを塗った。
「エレオノーラ。君はこの生活を、どう思う? 王都の連中は今頃、我々が泥水を啜りながら、後悔の涙で身を清めていると信じ込んでいるだろうが」
「後悔? そのような退屈な感情、王都に置いてきましたわ。私は今、生まれて初めて『自由』という名の猛毒を味わっておりますの」
私はパンを小さく千切り、口に運んだ。
「……マクシミリアン様。私は、この没落を愛しております。ついでに、あなたという災厄も、少しだけ気に入っておりますのよ」
「ふ。君の『少しだけ』は、常人の『一生』に相当する重さだな」
マクシミリアンはグラスの水を飲み干し、不敵な笑みを浮かべた。
「没落とは、高く跳ぶための沈み込みに過ぎない。我々が再び王都の門を叩く時、連中は自分たちの正義が、いかに薄汚れたものであったかを知るだろう」
「楽しみですわね。その時、私のドレスは、どの色の毒で染め上げましょうかしら」
荒野の風が、私たちの髪を乱していく。
恥の多い生涯の、これが贅沢な一幕。
私たちは、誰よりも美しく、誰よりも傲慢に、地獄の底で笑い転げていた。
王都の離宮であれば、最高級のシルクのカーテンがこの無礼な光を遮ってくれたものを。
「……お早うございます、エレオノーラ様。本日もまた、救いようのない快晴にございます」
枕元で控えていたティアが、精一杯の「洗練」を装って頭を下げた。
彼女の着ている服は、相変わらず継ぎ接ぎだらけだが、昨日に比べれば随分と清潔感がある。
「ええ、お早う。ティア。絶望的なまでに爽やかな朝ですわね。私の心がこれほどまでに汚れ、淀んでいるというのに、天は無関心を貫くおつもりかしら」
私は上体を起こし、乱れた髪を指先で梳いた。
鏡の中に映るのは、やつれるどころか、どこか毒々しいまでの艶を増した自分の顔。
没落とは、もっと悲愴で、もっと湿り気を帯びたものであるはずなのに。
「……マクシミリアン様は、どちらに?」
「旦那様は、早朝から『ケソミの丘』まで出向かれました。あそこに眠る銀の露天掘りを、力ずくで再開させると仰って……」
「あら。あの方は、朝からそんな野蛮なことを。……ついでに、私の朝食の準備も頼めますかしら。昨日の芋ではないものを」
「はい! 旦那様が昨夜、どこからか『徴収』してきたという最高級の小麦粉がございます!」
徴収、という言葉に、私は満足げに微笑んだ。
略奪ではなく、徴収。
その言葉の響き一つで、私たちは「秩序ある悪」としてこの地に君臨できる。
一時間後。
私は、崩れかけたバルコニーに設えたテーブルで、マクシミリアンと向かい合っていた。
「……遅いな、エレオノーラ。太陽はすでに、我々の罪を一つずつ数え終えるほどの高さにあるぞ」
マクシミリアンは、銀を掘りに行っていたとは思えないほど、完璧に整えられた姿で座っていた。
ただ、その白い手袋には、微かに土の匂いが染み付いている。
「マクシミリアン様。悪役たるもの、優雅な遅刻は嗜みですわ。それより、銀の調子はいかが?」
「上々だ。あの丘には、王都の連中が一生かけても使い切れないほどの富が眠っている。……もっとも、それは今日から私の『私怨』を満たすための軍資金に変わるわけだが」
「まあ。私怨のために銀を掘るなんて、なんて卑俗で、そして美しい行為でしょう」
私は、ティアが焼いたパンに、毒々しいほど赤いベリーのジャムを塗った。
「エレオノーラ。君はこの生活を、どう思う? 王都の連中は今頃、我々が泥水を啜りながら、後悔の涙で身を清めていると信じ込んでいるだろうが」
「後悔? そのような退屈な感情、王都に置いてきましたわ。私は今、生まれて初めて『自由』という名の猛毒を味わっておりますの」
私はパンを小さく千切り、口に運んだ。
「……マクシミリアン様。私は、この没落を愛しております。ついでに、あなたという災厄も、少しだけ気に入っておりますのよ」
「ふ。君の『少しだけ』は、常人の『一生』に相当する重さだな」
マクシミリアンはグラスの水を飲み干し、不敵な笑みを浮かべた。
「没落とは、高く跳ぶための沈み込みに過ぎない。我々が再び王都の門を叩く時、連中は自分たちの正義が、いかに薄汚れたものであったかを知るだろう」
「楽しみですわね。その時、私のドレスは、どの色の毒で染め上げましょうかしら」
荒野の風が、私たちの髪を乱していく。
恥の多い生涯の、これが贅沢な一幕。
私たちは、誰よりも美しく、誰よりも傲慢に、地獄の底で笑い転げていた。
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