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王都の喧騒は、遠い異国の昔話のように思えるほど、このメテオの静寂は深い。
しかし、その静寂を切り裂いて届いた一通の書状が、私たちの午後の茶会に、毒にも似た彩りを添えた。
「……あら。リュシアン殿下からの、直筆の文ですわね。相変わらず、筆跡に知性が感じられませんこと」
私は、銀のペーパーナイフで封を切った。
マクシミリアン様は、没収したソファに深く身を沈め、不機嫌そうに目を細めている。
「捨て置け、エレオノーラ。あの男が書くことなど、無意味な説教か、あるいは支離滅裂な自己正当化のどちらかだ」
「そう仰らずに。……ふむ、『兄上とエレオノーラ嬢が、辺境で非道な略奪を行っていると聞き、胸を痛めている。今すぐ悔い改め、全財産を聖女クロエの基金に寄付せよ』……ですって。傑作ですわね」
私は思わず、扇で口元を覆って笑い声を漏らした。
私の脳内の文豪が、「厚顔無恥の標本」という見出しを躍らせている。
「全財産、か。私が泥に塗れて掘り出した銀を、あのアバズレの化粧水代に変えろと言うのか。冗談の質まで堕ちたものだな」
「ついでに、私への罵倒も添えられていますわ。『悪女の深淵に堕ちた哀れな小鳥』だそうですの。小鳥だなんて、私、そんなに可愛らしく見えていたかしら?」
「君を小鳥と呼ぶ奴は、おそらく猛禽類を見たことがないのだろう。……ティア、その手紙を暖炉に放り込んでおけ」
控えていたティアが、迷いのない手つきで書状を炎の中へ投じた。
王子の直筆が、無慈悲な灰へと変わっていく。
「マクシミリアン様。王都では今、クロエ様が『慈悲の女神』として崇められているそうですわ。私たちの評判を落とせば落とすほど、彼女の価値が上がるという仕組みですのね」
「滑稽な話だ。虚像の上に築かれた城など、一吹きの風で崩れる。……だが、彼らがこちらに目を向け始めたということは、そろそろ『刺客』という名の、さらに無作法な客が来る頃合いだろう」
マクシミリアン様は立ち上がり、窓の外に広がる銀の丘を見つめた。
「……エレオノーラ。君に、一つ頼みがある」
「あら。マクシミリアン様が私に頼み事だなんて。明日は槍でも降るのかしら、それとも銀の雨かしら」
「君のその、人を苛立たせる才能を、存分に発揮してほしい場所がある。……王都から派遣される『監査官』を出迎える準備だ」
監査官。
その言葉の響きに、私は自らの唇が吊り上がるのを感じた。
「お任せくださいませ。私、おもてなしの心(ホスピタリティ)は、悪役令嬢の中でも随一だと自負しておりますの」
「期待しているよ。彼らが絶望のあまり、二度と王都へ帰りたくなくなるような、最高の地獄を見せてやれ」
「ええ。ついでに、彼らの心に一生消えないトラウマを刻んで差し上げますわ」
私は立ち上がり、優雅にカーテシーをした。
没落という名の、自由。
その自由を汚しに来る愚か者たちを、どのような言葉の刃で解体してあげようか。
恥の多い生涯の、これが反撃の序曲。
私は、炎の中で踊る灰を眺めながら、密やかな愉悦に浸っていた。
しかし、その静寂を切り裂いて届いた一通の書状が、私たちの午後の茶会に、毒にも似た彩りを添えた。
「……あら。リュシアン殿下からの、直筆の文ですわね。相変わらず、筆跡に知性が感じられませんこと」
私は、銀のペーパーナイフで封を切った。
マクシミリアン様は、没収したソファに深く身を沈め、不機嫌そうに目を細めている。
「捨て置け、エレオノーラ。あの男が書くことなど、無意味な説教か、あるいは支離滅裂な自己正当化のどちらかだ」
「そう仰らずに。……ふむ、『兄上とエレオノーラ嬢が、辺境で非道な略奪を行っていると聞き、胸を痛めている。今すぐ悔い改め、全財産を聖女クロエの基金に寄付せよ』……ですって。傑作ですわね」
私は思わず、扇で口元を覆って笑い声を漏らした。
私の脳内の文豪が、「厚顔無恥の標本」という見出しを躍らせている。
「全財産、か。私が泥に塗れて掘り出した銀を、あのアバズレの化粧水代に変えろと言うのか。冗談の質まで堕ちたものだな」
「ついでに、私への罵倒も添えられていますわ。『悪女の深淵に堕ちた哀れな小鳥』だそうですの。小鳥だなんて、私、そんなに可愛らしく見えていたかしら?」
「君を小鳥と呼ぶ奴は、おそらく猛禽類を見たことがないのだろう。……ティア、その手紙を暖炉に放り込んでおけ」
控えていたティアが、迷いのない手つきで書状を炎の中へ投じた。
王子の直筆が、無慈悲な灰へと変わっていく。
「マクシミリアン様。王都では今、クロエ様が『慈悲の女神』として崇められているそうですわ。私たちの評判を落とせば落とすほど、彼女の価値が上がるという仕組みですのね」
「滑稽な話だ。虚像の上に築かれた城など、一吹きの風で崩れる。……だが、彼らがこちらに目を向け始めたということは、そろそろ『刺客』という名の、さらに無作法な客が来る頃合いだろう」
マクシミリアン様は立ち上がり、窓の外に広がる銀の丘を見つめた。
「……エレオノーラ。君に、一つ頼みがある」
「あら。マクシミリアン様が私に頼み事だなんて。明日は槍でも降るのかしら、それとも銀の雨かしら」
「君のその、人を苛立たせる才能を、存分に発揮してほしい場所がある。……王都から派遣される『監査官』を出迎える準備だ」
監査官。
その言葉の響きに、私は自らの唇が吊り上がるのを感じた。
「お任せくださいませ。私、おもてなしの心(ホスピタリティ)は、悪役令嬢の中でも随一だと自負しておりますの」
「期待しているよ。彼らが絶望のあまり、二度と王都へ帰りたくなくなるような、最高の地獄を見せてやれ」
「ええ。ついでに、彼らの心に一生消えないトラウマを刻んで差し上げますわ」
私は立ち上がり、優雅にカーテシーをした。
没落という名の、自由。
その自由を汚しに来る愚か者たちを、どのような言葉の刃で解体してあげようか。
恥の多い生涯の、これが反撃の序曲。
私は、炎の中で踊る灰を眺めながら、密やかな愉悦に浸っていた。
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