​『王太子とついで私も悪いですって?!』

きららののん

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その男は、正義という名の、極めて質の悪い外套を羽織って現れた。


王都より派遣された監査官、バルトロメ・フォン・ケソミ——。

奇しくも、この地に名を残す強欲な先代領主と同姓を持つその男は、泥に塗れた馬車から降り立つなり、ハンカチで鼻を覆った。


「……これは、想像以上の惨状ですな。マクシミリアン殿下、それにエレオノーラ嬢」


出迎えた私を一瞥し、男は憐憫という名の、これまた不愉快な感情を瞳に浮かべた。


「お久しぶりでございますわ、バルトロメ卿。王都の芳しい肥溜めの香りに慣れたお鼻には、この荒野の清々しい風は少々刺激が強すぎましたかしら?」


私は、最高級の、しかし煤けたベルベットの椅子に深く腰掛けたまま、扇を揺らした。


「相変わらずの減らず口を……。貴女がたが、この地で不当な徴収を行い、領民を苦しめているという告発が届いております。私はその調査に来たのです」


「調査? まあ。わざわざこんな地の果てまで、退屈を運びに来てくださるなんて。おもてなしの甲斐がありますわね、ティア」


「はい、エレオノーラ様。極上の『ケソミ・ヴィンテージ』をご用意しております」


控えていたティアが、恭しくグラスを差し出した。

中身は、昨夜の残りの古酒に、少々の「スパイス」を混ぜたものだ。


「……ふん。毒でも盛るつもりか?」


「毒? 心外ですわ。毒などという即効性のある慈悲を、私があなたに与えるとお思い? それはただの、古びた真実の味ですわよ」


男は疑い深い顔をしながらも、喉の渇きに耐えかねたのか、グラスを口に運んだ。

次の瞬間、彼の顔は土気色に変色した。


「……っ! なんだ、これは……鉄の味が……!」


「あら、お口に合いませんでしたかしら。それは、この地の土壌に含まれる銀の、いわば『精髄』ですわ。あなたが掠め取ろうとしている富の、本当の味よ」


私は立ち上がり、男の耳元に唇を寄せた。

私の独白(モノローグ)は、今や冷徹な叙事詩となって、彼の鼓膜を震わせる。


「バルトロメ卿。正義を語るなら、まずその足元を見なさいな。あなたの靴についているその泥は、誰が流した涙でできているとお思い? 私たちが奪ったというのなら、奪われるだけの隙を見せた彼らにも罪がありますわ」


「貴様……どこまでも、どこまでも醜悪な……!」


「醜悪? ええ、最高のご褒美ですわ。美しすぎるものは、すぐに飽きられてしまいますもの。……マクシミリアン様、いかがかしら。この客人の料理法は」


執務室の奥から、マクシミリアンが影を纏って現れた。

その手には、抜身の剣よりも鋭い、一束の書類が握られている。


「バルトロメ。貴様が王都で着服していた私的流用金の記録だ。……ついでに、貴様の妻が聖女クロエに贈ったとされる、あの模造品の真珠の鑑定書も添えてある」


「な、なぜそれを……!」


「この地には、何もない。だからこそ、情報の屑一つが、ダイヤモンドよりも輝くのだ。貴様が我々を『監査』する前に、私が貴様の『人生』を清算してやろう」


マクシミリアンの声は、もはや死神の宣告であった。

監査官と呼ばれた男は、力なく膝をつき、手に持っていたグラスを床に落とした。


砕け散るクリスタル。

その音は、王都が信じて疑わなかった「正義」という名の虚像が、音を立てて崩れる響きに似ていた。


「さて、バルトロメ卿。晩餐のメニューを変更いたしましょう。メインディッシュは、あなたの『懺悔』。デザートは、あなたの『破滅』。……お代わりは、自由ですわよ?」


私は、絶望に染まった客人の顔を眺め、この上なく優雅に微笑んだ。

恥の多い生涯の、これが最も愉悦に満ちた接待。

悪女の夜は、これからが本番なのですから。
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