​『王太子とついで私も悪いですって?!』

きららののん

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朝靄がメテオの荒野を白く包み込み、昨夜の惨劇の痕跡をすべて塗り潰していた。


私はバルコニーの手すりに身を預け、冷え切った空気の中に、一片の絶望を探していた。


「……お疲れ様でございます、エレオノーラ様。バルトロメ卿は、明け方に身ぐるみ剥がされて王都へと送り返されましたわ。旦那様が仰るには、『生きた証拠として放流した』とのことですが」


ティアが差し出す茶は、もはや泥水のような色ではなく、かつて王都で嗜んでいたものに近い香りを放っている。


「生きた証拠、か。マクシミリアン様も、つくづく趣味がよろしいですわね。死なせるよりも、辱めて生かす方が、どれほど残酷かをご存知なのですもの」


私は温かいカップに指先を這わせ、独白(モノローグ)に耽った。

文豪の筆致を借りるならば、これは「正義の仮面を剥ぎ取る外科手術」といったところかしら。


「それで? マクシミリアン様は、どちらで毒を吐いておいでなの?」


「それが……銀の丘のふもとで、領民たちに演説を。いえ、あれはどちらかと言えば、呪詛に近い宣告にございましたが」


私は、重い腰を上げて一階へと降りた。

城門の前には、かつて私たちを殺意に満ちた瞳で見つめていた領民たちが、膝をついて集まっていた。

その中心に立つマクシミリアン様は、朝日を背負い、まるで神を殺した王のような峻厳さを纏っている。


「聞け、愚か者ども。私は貴様らを救いに来たのではない。ましてや、慈悲を施しに来たわけでもない」


彼の声は、低く、しかし荒野の隅々まで響き渡るほどに力強かった。


「貴様らは今日まで、王都の連中から『見捨てられた哀れな民』として放置されてきた。だが、私の支配下では、哀れみなどという安っぽい感情は許可しない。生きる意志のない者は、この銀の丘に埋もれて死ね」


領民たちの間に、戦慄が走る。

しかし、その戦慄は絶望ではなく、ある種の高揚感を孕んでいた。


「貴様らには、私のために働いてもらう。私の私怨のために、私の贅沢のために、泥を啜り、汗を流せ。その代わり、私を不快にさせない程度の『対価』は、私が責任を持って保障してやろう」


……。

なんて、なんて傲慢で、美しい支配。

「ついでに」悪を自称する私ですら、その言葉の鋭さに胸を打たれる。


「マクシミリアン様。朝から随分と、勇ましい口説き文句ですこと」


私が歩み寄ると、マクシミリアン様は冷徹な視線を私に向けた。


「口説き文句だと? エレオノーラ、君の耳はどうやら腐りかけているようだ。私はただ、無能な道具を整備しているに過ぎない」


「あら、そうですの? 私には、あなたが彼らに『生きる理由』という名の首輪を嵌めているように見えましたわよ」


私は、領民たちの顔を見渡した。

彼らの瞳には、もはや餓死を待つ者の虚ろさはない。

「悪魔の王」に仕えることで、自分たちの生を肯定された者たちの、ギラついた欲望が宿っている。


「没落、とは不思議な言葉ですわね。私たちはすべてを失ったはずなのに、ここには王都にはなかった『真実』が溢れていますわ」


「真実など、ただの副産物だ。私が欲しいのは、私を裏切った世界を叩き潰すための、強固な基盤だけだ」


マクシミリアン様は私の肩を抱き寄せ、耳元で低く囁いた。


「第二幕は、これで終幕だ。エレオノーラ。明日からは、腐りきった王都に、我々の『毒』を少しずつ染み込ませていくとしよう」


「ええ。楽しみですわ。……ついでに、あの聖女様の顔を、絶望で塗り潰して差し上げましょうね」


私は、彼の冷たい外套に身を寄せ、静かに微笑んだ。

恥の多い生涯の、これが一つの区切り。

没落の果てに見つけたのは、呪われた王冠ではなく、誰にも汚されない二人だけの王国であった。
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