​『王太子とついで私も悪いですって?!』

きららののん

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城門の外に、一台の、泥に塗れた馬車が這いずるようにして辿り着いた。


かつて王都の栄華を象徴した黄金の紋章は、煤に汚れ、見る影もなく傷ついている。


私は、塔の頂にあるテラスから、その無様な光景を見下ろしていた。


「……マクシミリアン様。ご覧になって。正義の使いが、空腹という名の現実を抱えて、地獄の門を叩いておりますわよ」


「ふん。あれほど我々を『悪』と呼び捨てて追い出した連中が、どの面を下げてこの荒野に足を運んだものか」


マクシミリアン様は、私の隣で冷徹にグラスを傾けた。


「……お、お通ししてもよろしいでしょうか、エレオノーラ様。使者の方は、もはや歩く気力もないご様子で……」


ティアが困惑した表情で報告に来る。


「ええ、構いませんわよ。彼らがどれほど『無価値なプライド』を切り売りしに来たのか、じっくりと拝見して差し上げましょう。……ついでに、私の機嫌を損ねない程度の、面白い手土産を期待しておりますわ」


謁見の間。

かつては埃に塗れていたその場所は、今や銀と小麦の香りが漂う、静謐な支配の空間へと作り変えられていた。


そこへ運び込まれたのは、リュシアン様の側近であった、カシムという名の騎士であった。


「……マクシミリアン殿下。エレオノーラ嬢。……お久しぶり、でございます」


カシムは膝をつき、絞り出すような声を出した。

その頬はこけ、王都の極致たる「聖女の治世」がいかに凄惨なものであるかを雄弁に語っていた。


「久しいな。だが、私の記憶が正しければ、貴様は私を城門から追い出す際、最も威勢よく罵声を浴びせていた男の一人だったはずだが?」


マクシミリアン様の声は、氷の楔となってカシムの背筋を貫いた。


「……返す言葉もございません。ですが、王都は……王都の民は、今や飢えに苦しみ、暴徒と化しております。聖女クロエ様も、祈りを捧げる以外に為すすべがなく……」


「祈り、ですって? まあ。なんて芳醇な無能さでしょう」


私は扇を広げ、カシムの視線を遮るように立ち塞がった。


私の内なる文豪が、この喜劇に対して「救済という名の甘い猛毒」というタイトルを付けて、ペンを走らせている。


「カシム卿。あなたは、飢えた子供に聖句を聞かせて、腹が満たされるとお思い? 私は、悪役ですから分かりませんけれど、パンを焼くには小麦が必要で、小麦を育てるには知恵が必要で、知恵を働かせるには……冷徹な現実感覚が必要なんですのよ」


「エレオノーラ様……どうか、慈悲を。メテオの地には、大量の小麦が蓄えられていると聞きました。それを、どうか王都へ……」


「慈悲、か。君たちは本当に、その言葉が好きだな」


マクシミリアン様が、玉座からゆっくりと立ち上がった。


「カシム。貴様は私に、無償の愛を求めているのか? それとも、取引を求めているのか?」


「……と、取引、でございます。リュシアン殿下は、王家の宝物庫の一部を差し出してでも、食糧を確保せよと……」


「王家の宝? そんな時代遅れの骨董品、今の私にはゴミ屑にも等しい。……だが、いいだろう。取引に応じてやる」


カシムの目に、一筋の希望の光が宿った。

しかし、それはマクシミリアン様が用意した、底なし沼への誘いであった。


「代金は、王家の金銀ではない。王都の『徴税権』と『流通の管理権』。これをすべて、私の私有商会に譲渡する契約書に、リュシアンが署名すること。これが条件だ」


「な……っ! それは、国の心臓を売り渡せと仰るのですか!」


「嫌なら、泥でも食っていればいい。聖女様の涙で煮込んだ泥は、きっと甘美な味がするだろう」


マクシミリアン様の冷笑が、謁見の間に響き渡る。


「……いかがいたしますの、カシム卿。誇りを取って死ぬか、悪に魂を売って生き延びるか。ついでに、あなたの決断一つで、王都の数万の民の運命が決まりますわよ」


私は、絶望に震えるカシムの顔を眺めながら、この上なく優雅に微笑んだ。


恥の多い生涯の、これが第三幕の転換点。

私たちは、救世主の面を被ったまま、王都という名の獲物を、ゆっくりと、確実に解体していく。
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