​『王太子とついで私も悪いですって?!』

きららののん

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王都の社交界は、今や腐りかけた果実に群がる蠅のような、不穏な羽音に満ちていた。

かつてあれほどマクシミリアン様を指弾し、聖女の微笑みを称えていた貴族たちが、今や影で密談を繰り返している。


「……お聞きになりましたか? マクシミリアン殿下は、メテオの地で銀の山を築き、王都の借金をすべて肩代わりする用意があるとか」


「借金どころか、リュシアン殿下がクロエ嬢のために蕩進(とうしん)した国庫の穴、あれを埋められるのは、もはや兄君しかおられまい」


冷えたワインを回しながら、彼らは互いの腹を探り合う。

正義などは、腹が満たされて初めて成立する贅沢品に過ぎないことを、彼らは身を以て証明していた。


私は、城の書庫でティアが拾い集めてきた「密告書」の数々を、暖炉の火で炙りながら眺めていた。


「マクシミリアン様。王都の風向きは、もはや嵐の前の静けさを通り越し、私たちの足元へ跪くための準備運動のようですわ」


「当然だ。人間は、理想のために死ぬことはできても、退屈と空腹のために生き続けることはできない生き物だからな」


マクシミリアン様は、私の背後で、かつて自分が愛用していた王太子の印章を弄んでいる。


「彼らには小麦ではなく、もっと刺激的な毒を与えた。……リュシアンが聖女のために私物化した、騎士団の運営費の流用記録だ」


「まあ。なんて悪趣味な……。ついでに、私の名で『王都の復興資金に関するアンケート』も送っておきましたわ」


「アンケートだと? 君も随分と、慇懃無礼(いんぎんぶれい)なことをする」


私は扇を広げ、窓の外に広がる、今や賑わいを取り戻した城下を見下ろした。


私の内なる文豪が、この事態を「裏切りという名の救済」と綴り、皮肉な笑みを浮かべている。


「マクシミリアン様。アンケートの内容はこうですわ。『マクシミリアン様を王都に迎える際、どのような色の絨毯を敷くべきか。赤か、それともクロエ様の涙と同じ青か』……。皆様、必死に赤に印をつけておられますわよ」


「くくっ……。エレオノーラ、君は本当に、人の自尊心を切り刻むのが上手いな」


マクシミリアン様が私の肩に手を置き、その冷たい指先が私の髪を弄る。


「……ねえ、マクシミリアン様。私、時々怖くなるのですわ。私たちがこうして世界を壊していくことが、本当は一番の『善行』なのではないかと」


「案ずるな、エレオノーラ。君と私は、どこまでも『悪』だ。……ただ、我々の悪が、あまりに理にかなっているだけのこと」


城の重厚な扉が開き、ティアが新たな報告を持ってきた。


「旦那様、エレオノーラ様。王都の貴族たちが連名で、マクシミリアン殿下の『帰還』を懇願する嘆願書を作成しているとの情報が入りました」


「嘆願書、か。かつて私を追い出した同じ手が、今度は私を呼び戻すために震えているわけだ」


マクシミリアン様は印章をテーブルに置き、不敵な笑みを浮かべた。


「よし。では、彼らに最後の一押しをしてやろう。……エレオノーラ、君が以前言っていた『夜会』の準備を進めなさい」


「夜会、ですって? まあ。こんな地の果ての荒野で、いったい誰を招待するおつもり?」


「誰でもない。……リュシアンと、あの聖女だ。我々の『悪役』としての矜持を、彼らの目に焼き付けてやる」


私は深々と一礼し、自らの独白を締めくくった。


恥の多い生涯の、これが反撃の最前線。

私たちは、救世主という仮面を投げ捨て、真の悪役として、王都の門を叩く準備を整えたのでございます。
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