​『王太子とついで私も悪いですって?!』

きららののん

文字の大きさ
24 / 30

24

しおりを挟む
王都の広場を埋め尽くしたのは、かつて「聖女」の名を熱狂的に叫んでいた民衆の群れであった。

しかし、その熱狂は今や、どす黒い疑惑と飢えへの苛立ちに取って代わられている。


私は、塔の影に設えられた特等席で、扇を弄びながらその様子を眺めていた。


「……マクシミリアン様。ご覧になって。あの方々の瞳、まるで舞台の結末を急かす、性格の悪い観客のようですわ」


「当然だ。信じていたものに裏切られたと知った時、人間は最も残酷な獣に変わる。……さあ、主役の登場だ」


マクシミリアン様が合図を送ると、鉄格子の嵌まった馬車から、白い衣を纏ったクロエ様が引き摺り出された。

その白衣は汚れ、かつての神々しさは微塵も感じられない。


「……嘘よ。こんなの、何かの間違いだわ! 私、皆様のために祈り続けていたのに!」


クロエ様が壇上で叫ぶ。

しかし、その声は民衆の冷ややかな沈黙に吸い込まれていった。


私は立ち上がり、漆黒のドレスの裾を翻して壇上へと歩み寄った。

私の独白(モノローグ)は、今や王都の空気を切り裂く、最も鋭利な短刀となる。


私の内なる文豪が、この喜劇を「偽りの光が暴かれる正午」と記し、冷酷な筆致を走らせている。


「クロエ様。往生際が悪うございますわ。ついでに申し上げれば、あなたのその『祈り』の代金が、どこから支払われていたか、皆様にもお伝えしなくては」


私は、ティアから受け取った一束の書状を、高く掲げた。


「皆様、お聞きなさい! この聖女様が配っていたパンの代金……それは、マクシミリアン様が追放される際、彼女が『ついでに』私物化した王太子の私有財産を換金したものでしたのよ」


広場に、凍り付くような衝撃が走った。


「……え? 私たちのパンは、聖女様の奇跡ではなかったのか?」


「マクシミリアン殿下から盗んだ金で、恩を売っていたというのか!」


怒号が、波のように押し寄せる。


「ち、違うわ! 私はただ、有効に活用しただけで……!」


「有効に活用、ですって? まあ。それを世間では『横領』、あるいは『窃盗』と呼びますの。ついでに、その帳簿を改竄するために雇った会計士の証言も、ここに揃っておりますわ」


私は、絶望に顔を歪めるクロエ様の耳元に、死神のような囁きを届けた。


「さあ、聖女様。最後のお祈りをしてはいかが? 誰も助けに来ない、この孤独な地獄の中で」


「……あああああ!」


クロエ様は崩れ落ち、頭を抱えて泣き叫んだ。

その姿に、かつての慈悲深さはなく、ただ己の罪から逃げ場を失った矮小な人間だけがそこにいた。


「マクシミリアン様。偶像が壊れる音、案外、安っぽい音がいたしますのね」


「ああ。だが、これでようやくこの街の『霧』が晴れた。……さて、次はあの愚かな弟をどう料理する?」


マクシミリアン様が私の肩を抱き寄せた。

その冷徹な温もりが、私の勝利を確かなものにする。


恥の多い生涯の、これが最も華やかなる「断罪」。


正義という名の嘘が剥がれ落ち、真実という名の毒が街を満たしていく。

私たちの逆襲劇は、いよいよ最高潮へと向かっているのでございます。


「……ついでに、あの噴水の水、今日は『ケソミの赤ワイン』にでも変えてしまいましょうか。祝杯を挙げるには丁度よろしいですもの」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完】隣国に売られるように渡った王女

まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。 「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。 リヴィアの不遇はいつまで続くのか。 Copyright©︎2024-まるねこ

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

処理中です...