​『王太子とついで私も悪いですって?!』

きららののん

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王城の深奥、かつては栄光の象徴であった「獅子の間」は、今や冷え切った静寂の底に沈んでいた。


磨き抜かれた床には、引き摺られた鎖の跡が、消えぬ傷跡のように白く残っている。


私は、マクシミリアン様の外套の端を軽く掴みながら、正面に座らされた「哀れな残骸」を眺めた。


「……リュシアン殿下。そのお顔、まるで書き損じた原稿用紙のようですわ。くしゃくしゃに丸められて、ゴミ箱に捨てられるのを待つばかりの」


私は、かつての婚約者の弟を、慈悲の欠片もない瞳で見つめた。


「……兄上。君は満足か。僕を、僕の理想を、ここまで無惨に踏みにじって」


リュシアン様の声は、枯れ葉が擦れるような、微かな音に過ぎなかった。


「満足か、だと? リュシアン、貴様はまだ自分が『悲劇の主人公』だと思い込んでいるのか。反吐が出る。貴様の理想とは、他人の犠牲の上に築かれた砂上の楼閣に過ぎん」


マクシミリアン様は、一歩ずつ、死神のような足取りで彼に近づいた。


「僕は……ただ、正しい国を作りたかっただけだ。兄上のような冷酷な支配ではなく、愛に満ちた……」


「愛、ですって? まあ。リュシアン殿下、その『愛』のせいで、王都の食糧庫は空になり、兵士たちは家族を捨てて逃げ出しましたのよ。あなたの愛は、なんと燃費の悪い燃料ですこと」


私は扇を畳み、彼の足元に広がる、無数の「債務書類」を指し示した。


「ついでに申し上げれば、殿下がクロエ様に贈ったあの『流星の首飾り』。あれも、メテオの銀鉱山を担保に、私が裏で手を回して高値で売りつけたものですわ。自らの首を絞めるための銀を、自ら買い求めるなんて……最高の喜劇だと思いません?」


「エレオノーラ……君は、君は最初から……!」


「ええ。追放されるその瞬間から、私はあなたの『没落』を、最も美しい文体で書き上げる準備をしておりましたの」


私の内なる文豪が、この断罪を「愚行という名の必然」と綴り、満足げにペンを置いた。


「リュシアン。血統は免罪符ではない。王冠は、それを維持する力なき者にとっては、ただの重い呪いだ。……貴様には、王族としての名も、地位も、そしてその『正義』という名の妄執も、すべてここで捨ててもらう」


マクシミリアン様が、腰の剣を抜き放ち、その切っ先をリュシアン様の喉元に宛てた。


「殺すのか……。それもいい。兄上の手に血を塗らせて、僕は永遠の正義となる」


「……あら。死んで逃げようなんて、どこまでも無責任な方。ついでに申し上げますが、マクシミリアン様は、あなたにそんな『贅沢』はさせませんわよ」


私は、ティアが持ってきた新しい書類を広げた。


「あなたは今日から、メテオの銀山で働く『名もなき工夫』ですわ。あなたが蔑んでいた労働の中にこそ、あなたの言う『愛』とやらが転がっているかもしれませんもの。……探してみる価値はあると思いませんこと?」


「銀山で……僕が……?」


「ええ。クロエ様も、隣の区画で泥を洗っておりますわ。二人で仲良く、現実という名の泥水を啜りなさいな」


マクシミリアン様は剣を引き、背を向けた。


「連れて行け。……二度と、私の視界を汚すな」


衛兵たちに引き摺られていくリュシアン様の叫びが、長い回廊に消えていく。


恥の多い生涯の、これが血統の清算。


正義に酔いしれた王子は、今やただの「無能な男」として、歴史の裏側に葬り去られたのでございます。


「……マクシミリアン様。これで、邪魔者はすべて消えましたわね」


「ああ。だが、これからが本番だ。エレオノーラ、この腐りきった国を、誰にも文句を言わせない『完璧な地獄』に作り変えてやろう」


「ついでに、私の執務室には、最高級の『ケソミのインク』を用意しておいてくださいましね。……私たちの悪行を、千代に八千代に語り継ぐために」
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