​『王太子とついで私も悪いですって?!』

きららののん

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王都の空は、数ヶ月前の重苦しい灰色の雲を脱ぎ捨て、透き通るような紺碧に染まっていた。

しかし、その美しさは決して「平和」がもたらしたものではない。

それは、不要な贅肉をすべて削ぎ落とし、冷徹な法と銀の力によって強制的に整えられた、人工的な美しさであった。


私は、新しく改装された執務室で、メテオから取り寄せた上質の羊皮紙に目を落としていた。

かつてリュシアン様が耽美な詩を綴っていたその机の上で、私は今、王国の「新しき秩序」を書き連ねている。


「……マクシミリアン様。ご覧になって。かつてあなたを『悪魔の再来』と罵った貴族たちが、今や競うようにしてメテオ銀山への投資を申し出ておりますわ」


私は、山積みになった誓約書を扇で軽く叩いた。

私の内なる文豪が、この手のひら返しを「金貨で買われた忠誠心」と揶揄し、皮肉な笑みを浮かべている。


「当然だ。彼らにとっての忠誠とは、常に自分たちの財布の厚みに比例するものだ。私が王太子に戻ることを認めたのも、私が『正しい』からではなく、私が『富を運ぶ者』だからに過ぎん」


マクシミリアン様は、窓辺に立ち、復興の進む王都の街並みを静かに眺めていた。

彼の背中には、以前のような刺々しい孤独はなく、すべてを支配下に置いた男の、圧倒的な余裕が漂っている。


「……ついでに申し上げれば、戴冠式の準備も整いましたわよ。あなたが『王』という名の、最も不自由な首輪を嵌める準備が」


「首輪、か。言い得て妙だな、エレオノーラ。だが、私はあんな錆びついた王冠を被るつもりはない」


マクシミリアン様が振り返り、私を射貫くような眼差しで見つめた。


「私は王にはならない。私は『支配者』であり続ける。形式上の王位など、どこかの無害な親族にでも押し付けておけばいい。実権さえこの手にあれば、名前などという飾りは不要だ」


「あら。それでは、私の『王妃』としての初仕事がなくなってしまいますわ。期待していたのですけれど」


私はわざとらしく溜息をつき、手元のインク壺を弄んだ。


「案ずるな。君には王妃よりも、もっと相応しい役目がある。……この新生アステリアの『筆頭執政官』だ。君のその毒舌と知略で、腐った官僚どもを根こそぎ教育してやってくれ」


「執政官、ですって? まあ。私のような『ついでに悪女』な女に、そんな大役を任せるなんて……。マクシミリアン様、あなたは本当にお目が高いのか、それとも狂っておられるのか」


「両方だよ。君という劇薬なしでは、この国はまたすぐに甘い偽善の眠りに落ちてしまうからな」


マクシミリアン様が私の元へ歩み寄り、机に両手をついて私を覗き込んだ。

至近距離で見つめ合う。

彼の瞳の中には、かつての荒野メテオで誓い合った、あの暗く燃えるような情熱が、今も変わらず宿っていた。


「……エレオノーラ。君を道連れにしたことを、後悔したことは一度もない。君がいなければ、私はただの復讐鬼で終わっていた。君の悪意が、私をここまで導いたのだ」


「……あら。急にそんな、近代文学の告白(ルビ:コンフェッション)のようなことを仰るなんて。不意打ちですわ、マクシミリアン様」


私は視線を逸らし、火照る頬を隠すように扇を広げた。

私の心臓が、まるで物語のクライマックスに向かう打鍵のように、激しく鼓動を刻んでいる。


恥の多い生涯の、これが新たなる序章。


悪が秩序となり、毒が真実となる。

私たちは、王都という名の原稿用紙に、誰も見たことのない「美しき地獄」の続きを書き記していくのでございます。


「……さて。ついでに、明日の式典で配る小麦の袋に、『悪女の微笑み』という名の焼印を押しておきましたわ。皆様、きっと泣いて喜んでくださるでしょうね」


「くくっ……。君のその執念深さこそが、この国の新たな希望だよ」


私たちは、夕闇に染まる王都を見下ろし、静かに、そして誰よりも深く笑い合った。
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