​『王太子とついで私も悪いですって?!』

きららののん

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王都アステリアの広場は、銀色の旗印が海のように波打っていた。


かつてそこにあった「聖女」を称える極彩色の花々は、今や冷徹な秩序を象徴する、整然とした石畳の輝きに取って代わられている。


私は、城のバルコニーから階下を見下ろしながら、ティアに最後の身支度を整えさせていた。


「……エレオノーラ様。本日のドレス、まるで夜の帳が降りた瞬間の、最も深い闇を切り取ったようでございますわ。ついでに、襟元の真珠が、まるでお亡くなりになった正義の涙のようで……」


ティアの感性も、随分と私に毒されてきたようですわね。


「ええ、お上手ですわ、ティア。ついでに申し上げれば、この真珠の重さは、私たちが背負わせた『現実』という名の十字架の重さですのよ。……さあ、参りましょうか」


私は扇を手に取り、独白(モノローグ)を紡ぎながら歩き出した。


私の内なる文豪が、この祭典を「感傷を葬るための豪華な葬列」と名付け、黒い万年筆を躍らせている。


広場の中央に設けられた演壇に、マクシミリアン様が姿を現すと、地鳴りのような歓声が沸き起こった。


しかし、それは感謝の叫びではない。


圧倒的な力にひれ伏した者たちの、本能的な服従の叫びであった。


「聞け、アステリアの民よ! 私は今日、貴様らに許しを乞うつもりはない。ましてや、救済を約束するつもりもない!」


マクシミリアン様の声は、拡声の魔法に乗って、王都の隅々まで染み渡っていく。


「貴様らは、かつて私を『悪』と呼び、追い出した。その結果はどうだ? 正義を語る王子は国を飢えさせ、祈りを捧げる聖女は私物を肥やした。……これが、貴様らが望んだ『正しい世界』の正体だ!」


民衆は、沈黙した。


昨日のパンの味を思い出し、今日の腹の膨らみを自覚するたびに、彼らの「正義」は少しずつ、砂のように指の間から零れ落ちていく。


「私は、貴様らに媚びることはしない。私はただ、機能する国家を与える。正当な労働には報いを、不当な怠慢には罰を。……神の慈悲ではなく、銀の理(ことわり)によって、この国を再建する!」


マクシミリアン様が私の手を取り、民衆の前に立たせた。


「……皆様、お聞きになりました? 私たちの新しい主人は、随分と冷たいことを仰いますわ。ついでに、私も皆様のことはあまり好きではありませんの。……ですが、嫌いな相手であっても、契約は守るのが、真の『悪』というものですわよ」


私は優雅に一礼し、冷徹な微笑みを群衆に振り撒いた。


かつて私に石を投げようとした者たちが、今はその指先を震わせ、私のドレスの裾を仰ぎ見ている。


そこへ、演出の一環として、手枷を嵌められたリュシアン様とクロエ様が、壇上の隅へと引き出された。


「……兄上。君は、民の心を恐怖で支配して、何が楽しいんだ……」


リュシアン様の呻きは、歓声にかき消されて誰の耳にも届かない。


「楽しい、ですって? まあ。リュシアン殿下、私は楽しいのではなく、ただ『正確』なのですわ。……皆様、ご覧になって! このお二人こそが、あなたたちを餓死させようとした『正義の神様』の成れの果てですわよ!」


私が指をさすと、民衆から一斉に怒号が上がった。


それは、かつての崇拝が、裏切られたという確信に変わった瞬間の、最も醜悪で、最も誠実な声。


「断罪は、完了しましたわ、マクシミリアン様。……ついでに、私の『ついで』の役割も、これでようやく一段落かしら」


「いや、エレオノーラ。君の劇は、まだ終わらん。……これからが、我々が描く『真実の地獄』の第一章だ」


マクシミリアン様が、私の腰を強く抱き寄せた。


恥の多い生涯の、これが最も眩しすぎる葬列。


私たちは、正義という名の亡霊をこの地に埋葬し、現実という名の冷たい大地に、二人で新しい王国の種を蒔くのでございます。


「……さあ。ついでに、この街の鐘を鳴らさせましょう。……偽善の死を告げる、弔いの鐘を」
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