公爵令嬢。その唇が紡ぐのは、愛か偽りか。

きららののん

文字の大きさ
11 / 33

11

しおりを挟む
その夜、私は自室でマリアンヌからの報告を受けていた。
彼女の表情は、いつもより硬い。

「お嬢様、グレンジャー騎士について、いくつか分かったことがございます」

「聞かせて」

マリアンヌは、一度息を吸い込み、慎重に言葉を選びながら話し始めた。

「グレンジャー家は、王家に古くから仕える騎士の名門ではありますが……その、あまり良くない噂も……」

「良くない噂?」

「はい。巷では『呪われた騎士の一族』と呼ばれているそうでございます」

呪われた、一族。
その言葉の響きに、私の心臓がどきりと音を立てた。
アシュレイ様の、あの悲しげな瞳が脳裏をよぎる。

「呪い、とはどういうことなの?」

「詳しいことまでは……。一族の者たちは、そのことについて固く口を閉ざしているようです。ただ、確かなのは、グレンジャー家の人間は代々、極端に口数が少なく、人と関わることを避ける傾向にある、ということでございます」

それは、私が見てきたアシュレイ様の姿そのものだった。

「そのため、周囲からは不吉な一族として疎まれ、距離を置かれているとか。ですが、その実力と王家への忠誠心だけは、誰もが認めるところだそうです。歴代の当主は皆、騎士団で重要な役職に就いております」

マリアンヌは、集めた情報を淡々と読み上げる。

疎まれている。距離を置かれている。
だから、彼はいつも一人だったのか。
あの夜会でも、訓練場でも。

「呪い……」

私は、その言葉をもう一度口にした。
もし、それが本当だとしたら?
彼が沈黙を守っているのは、その「呪い」のせいだとしたら?
そして、彼の言葉に嘘がないのも、その呪いと何か関係があるのかもしれない。

「お嬢様、これ以上は危険かもしれませぬ。殿下も、あの騎士のことを快くは思っておられないご様子。関わりを持つのは、おやめになった方が……」

心配そうなマリアンヌの言葉が、私の耳には届いていなかった。
危険?
そんなことは、もうどうでもよかった。
むしろ、私の心は決意で満たされていく。

彼が背負っているものの正体を、この目で見届けなければならない。
そして、もし彼が本当に「呪い」によって苦しんでいるのなら。
私は、彼の力になりたい。

そう、強く思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。  ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!

冷徹王子に捨てられた令嬢、今ではその兄王に溺愛されています

ゆっこ
恋愛
 ――「お前のような女に、俺の隣は似合わない」  その言葉を最後に、婚約者であった第二王子レオンハルト殿下は私を冷たく突き放した。  私、クラリス・エルデンは侯爵家の令嬢として、幼い頃から王子の婚約者として育てられた。  しかし、ある日突然彼は平民出の侍女に恋をしたと言い出し、私を「冷酷で打算的な女」だと罵ったのだ。  涙も出なかった。  あまりに理不尽で、あまりに一方的で、怒りも悲しみも通り越して、ただ虚しさだけが残った。

【完結】二十五歳のドレスを脱ぐとき ~「私という色」を探しに出かけます~

朝日みらい
恋愛
 二十五歳――それは、誰かのために生きることをやめて、  自分のために色を選び直す年齢だったのかもしれません。  リリア・ベルアメール。王都の宰相夫人として、誰もが羨む立場にありながら、 彼女の暮らす屋敷には、静かすぎるほどの沈黙が流れていました。  深緑のドレスを纏い、夫と並んで歩くことが誇りだと信じていた年月は、  いまではすべて、くすんだ記憶の陰に沈んでいます。  “夫の色”――それは、誇りでもあり、呪いでもあった。  リリアはその色の中で、感情を隠し、言葉を飲み込み、微笑むことを覚えた。  けれど二十五歳の冬、長く続いた沈黙に小さなひびが入ります。  愛されることよりも、自分を取り戻すこと。  選ばれる幸せよりも、自分で選ぶ勇気。  その夜、彼女が纏ったのは、夫の深緑ではなく――春の蕾のような淡いピンク。  それは、彼女が“自分の色”で生きると決めた最初の夜でした――。

蔑ろにされていた令嬢が粗野な言葉遣いの男性に溺愛される

rifa
恋愛
幼い頃から家で一番立場が低かったミレーが、下町でグランと名乗る青年に出会ったことで、自分を大切にしてもらえる愛と、自分を大切にする愛を知っていく話。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...