全て私が悪かったので許してください!

きららののん

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ディランへの恋心を自覚してから、私は彼とまともに顔を合わせることができなくなった。
些細なことで胸が高鳴り、顔が赤くなるのを、彼に気づかれてしまうのが怖かった。

そんな私の様子を、ディランは不思議そうに見ていた。

ある日の夕食後、暖炉の火を二人で眺めている時だった。
沈黙に耐えきれず、私が席を立とうとすると、ディランがぽつり、と呟いた。

「俺も、昔は息巻いてたんだ」

「え……?」

唐突な言葉に、私は動きを止めた。

「正義がどうとか、間違ってる奴は許せねえ、とか。まあ、今で言う王都の騎士様みたいなことを、本気で考えてた」

ディランは、自嘲するように笑った。

「この村にもな、昔は役人の理不尽な取り立てがあったんだ。俺はそれが許せなくて、村の若い衆を集めて、役人にたてついたことがある」

初めて聞く、彼の過去の話だった。
私は黙って、彼の隣に座り直した。

「結果は、まあ、散々だったよ。相手は国だ。俺たちみたいな百姓が数人集まったところで、どうにもならねえ。仲間の一人は大怪我を負って、俺も牢屋に放り込まれかけた」

ディランは、暖炉の炎を見つめながら、静かに続ける。

「その時、村の長老に言われたんだ。『お前のやっていることは、ただの自己満足だ。本当の強さとは、守るべきものを、守り抜く力のことだ』ってな」

「守るべきもの……」

「ああ。力で相手をねじ伏せるのが、正義じゃねえ。自分の大切なもん……家族とか、仲間とか、この村とか。それを地道に、毎日守り続けることの方が、ずっと大変で、ずっと尊いんだって、その時やっとわかったんだ」

だから、とディランは私に向き直った。
その瞳は、いつになく真剣だった。

「俺はもう、でかい正義を振りかざすつもりはねえ。ただ、自分の目の届く範囲のものを、この手で守れれば、それでいいと思ってる」

彼の言葉が、私の胸に深く突き刺さった。
私は、どうだっただろう。
アレン様の隣という虚飾の地位を守るために、私は、本当に守るべきだった人の心を、どれだけ踏みにじってきただろう。

ディランの誠実さが、眩しかった。
そして同時に、自分の過去が、どうしようもなく恥ずかしくなった。

「リア。お前、何か悩んでるんだろ」

ディランの真っ直ぐな瞳が、私を射抜く。

「俺でよければ、話くらい聞くぞ。お前も、俺が守りたいと思うもんの一つだからな」

「……!」

その言葉に、心臓が大きく跳ね上がった。
嬉しくて、泣きそうだった。
でも、だからこそ、言えない。

私の過去は、あまりにも醜くて、汚れている。
正義感が強く、誠実な彼が、私の過去を知ったら。
きっと、軽蔑される。
「守りたい」なんて言葉も、取り消されてしまうに違いない。

「……ありがとう、ございます。でも、大丈夫ですわ」

そう言って、俯くのが精一杯だった。
嘘をつくたびに、心が軋む音がする。

ディランは、それ以上は何も聞いてこなかった。
ただ、彼の優しい眼差しが、私に罪悪感という重い鎖を巻き付けていくようだった。
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