全て私が悪かったので許してください!

きららののん

文字の大きさ
13 / 30

13

しおりを挟む
やがて、村に収穫の季節がやってきた。
畑の作物は豊かに実り、村中が活気に満ち溢れていた。

「リア、明日は収穫祭だ。お前も来るだろ?」

ディランが、少し照れくさそうに私を誘ってくれた。

収穫祭。
王都でも、もちろん祝祭はあった。
けれど、それは貴族たちが集う、華やかだが形式ばったパーティーだ。
庶民が参加する祭りなど、私は一度も経験したことがなかった。

「わたくしなどが、参加してもよろしいのでしょうか……」

「何言ってんだ。お前も、この村の一員みてえなもんだろ。子供たちも待ってるぞ」

ディランの言葉に、背中を押された。
村の一員、という響きが、くすぐったくて、嬉しかった。

収穫祭の当日。
村の広場には、収穫されたばかりの野菜や果物が山のように積まれ、大きな焚き火がいくつも焚かれていた。
村人たちは、この日のために用意したのだろう、いつもより少しだけ綺麗な服を着て、皆一様に笑顔だった。

私は、ディランの隣を歩きながら、その光景に圧倒されていた。
貴族の夜会のような豪華さはない。
けれど、ここには、人々の生活に根差した、温かい熱気があった。

「リア!」

私を見つけた子供たちが、駆け寄ってきた。
その手には、木の実で作った首飾りが握られている。

「これ、リアにあげる!」

「まあ、綺麗……。ありがとう」

首にかけてもらうと、子供たちは嬉しそうに笑った。
村の女の人たちも、私に声をかけてくれる。

「リアちゃん、いつも子供たちの相手、ありがとうね」
「ディランの奴、あんたが来てから、なんだか楽しそうだわ」

からかうような言葉に、顔が熱くなる。
ディランは、「余計なこと言うな」とぶっきらぼうに返しながらも、その耳は少し赤くなっていた。

陽が落ちると、祭りはさらに熱を帯びた。
誰かが楽器を奏で始めると、自然と踊りの輪が広がる。
ディランが、私に手を差し出してきた。

「一曲、どうだ?」

「え……わたくし、このような踊りは……」

「見てりゃわかる。簡単だ」

強引に手を引かれ、踊りの輪の中に加わる。
最初は戸惑ったが、村人たちの見よう見まねでステップを踏んでいるうちに、不思議と楽しくなってきた。
ディランの手は大きくて、温かかった。

回るたびに、彼の笑顔が間近に見える。
焚き火の光に照らされたその顔が、あまりにも素敵で、私は目を逸らすことができなかった。

音楽が止まり、踊りが終わる。
二人で輪から外れ、少し離れた場所から祭りの喧騒を眺めた。

「……楽しい、ですわ」

自然と、言葉がこぼれた。
心の底からの、偽りのない言葉だった。

「そうか。なら、よかった」

ディランも、優しく微笑んでいた。

この時間が、ずっと続けばいいのに。
生まれて初めて、そう願った。

身分も、過去も、全てを忘れて、ただのリアとして、彼の隣で笑っていられる。
この素朴で温かい村で、生きていきたい。

けれど、そんな幸せな願いとは裏腹に、運命の歯車は、容赦なく回り始めていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

お母様!その方はわたくしの婚約者です

バオバブの実
恋愛
マーガレット・フリーマン侯爵夫人は齢42歳にして初めて恋をした。それはなんと一人娘ダリアの婚約者ロベルト・グリーンウッド侯爵令息 その事で平和だったフリーマン侯爵家はたいへんな騒ぎとなるが…

〘完結〛わたし悪役令嬢じゃありませんけど?

桜井ことり
恋愛
伯爵令嬢ソフィアは優しく穏やかな性格で婚約者である公爵家の次男ライネルと順風満帆のはず?だった。

聖女はもうのんびりしたいんです【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
魔法の国オルレアン。この国には古代より聖女伝説があり、初代聖女エレノアは生きとし生ける者から愛され従わせる事が出来、万物の声が聞こえた。 オルレアンを建国し、初代女王となったエレノアの没後、1000年経っても恩恵を受け、繁栄した国だった。 しかし、甘い汁に慣れきった、恩恵に味を占めた国民達が増え、衰退していって100年。再び聖女を祀れ、とオルレアン国民が声を挙げると、忽ち我が聖女、とその地位を争う様になる。 そんな中、初代聖女エレノアはその1000年を生まれ変わりながら、オルレアン国を見つめて来ていた1人。彼女は1人嘆き悲しむが、エレノアに頼る事だけを考えては駄目だと教えて来たつもりだったが、堕落した国民には届く事は無かった。 そして、再びオルレアン国に生を受けたエレノアは………

【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜

二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。 処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。 口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る… ※表紙はaiartで生成したものを使用しています。

【電子書籍で販売中】あなたは、親友の恋人だった。〜届かぬ背を追って〜

藤原遊
恋愛
誰よりも強く、美しく、孤独だった彼女。 初めて剣道場で見たあの日から――俺は生涯をかけてその背中を追い続けた。 だが、ある作戦が行われた夜に彼女は爆炎に消え、残されたのは「家がなければ、あなたを気に入っていた」という未完の言葉だけ。 愛と義務、誓いと嘘の狭間で揺れる一人の男の記録。 一途さが痛みに変わるまでを描いた、切なくも熱い恋の物語。 ※Kindleにて、別視点の物語を販売しています。

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~

sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。 ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。 そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。

『白薔薇の神殿で誓うとき ――氷を溶かす三行の言葉――』

柴田はつみ
恋愛
「政略婚約から始まったすれ違い。  舞踏会で耳にした一言が、私の心を凍らせる――。  誤解と嫉妬を越え、三行の言葉で氷を溶かす恋。  白薔薇の神殿で交わす誓いは、距離ゼロの愛へと導いてくれるでしょうか?」

処理中です...