全て私が悪かったので許してください!

きららののん

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アレンは、誰にも告げず、数人の護衛だけを連れて、お忍びで共国へと向かった。
王城が、そしてリリアンナが大騒ぎになることは目に見えていたが、今はそんなことを構っていられる心境ではなかった。

馬を走らせ、数日後。
彼は、トーマスから聞き出した、クラム村へとたどり着いた。
粗末な平民の服に着替え、顔をフードで隠し、彼は村の中を歩く。

本当に、何もない、小さな村だった。
けれど、村人たちの表情は皆、明るく、穏やかだ。

彼は、村の外れにある一軒の小屋へと向かった。
ジルとトーマスの話が本当なら、ここに、彼女がいるはずだ。
木の陰に身を潜め、彼は息を殺して、その時を待った。

しばらくして、小屋の扉が開き、一人の女性が出てきた。
日に焼けてはいるが、白い肌。しなやかな体つき。
そして、陽の光を浴びてきらきらと輝く、見慣れた銀色の髪。

クーデリアだった。

彼女は、手際よく籠に洗濯物を入れると、近くの小川へと向かって歩き出す。
その足取りは軽く、どこか楽しげですらあった。
アレンは、ゴクリと喉を鳴らす。
本当に、彼女は、こんな場所で、こんな生活をしているのか。

その時だった。
村の子供たちが、数人、彼女に駆け寄っていくのが見えた。

「リア! 遊ぼう!」

「まあ、あなたたち。わたくし、これからお洗濯なのよ」

クーデリアは、子供たちの目線に合わせてしゃがみ込むと、優しく言った。
その声には、かつての刺々しさは微塵もない。

「えー! 洗濯終わったら、遊んでくれる?」

「ええ、いいわよ。だから、少しだけ待っていてくださる?」

「うん!」

子供たちは、嬉しそうに頷くと、またどこかへ駆けていった。
クーデリアは、その小さな後ろ姿を、慈愛に満ちた目で見送っている。
その顔は、アレンが今まで一度も見たことのない、聖母のような、穏やかな微笑みに満ちていた。

アレンは、衝撃で言葉を失った。
手紙を読んだ時よりも、ジルから報告を受けた時よりも、今、この目で見た彼女の姿が、何よりも雄弁に、彼女の変化を物語っていた。

畑仕事に精を出し、洗濯をし、村人と笑い合い、子供たちに慕われる。
これが、あのクーデリア・アベンティスだというのか。

自分の知らない場所で、彼女は、完全に新しい人間として生まれ変わっていた。
その事実は、アレンの胸に、安堵でも、嫉妬でもない、もっと複雑で、名状しがたい感情を呼び起こした。

それは、畏怖、に近かったのかもしれない。
人間の持つ、変化の力に対する、畏れ。
そして、彼女をここまで変えた何かに対する、嫉妬にも似た感情。

彼は、フードの奥で、唇を噛みしめた。
自分は、これから、どんな顔をして、彼女の前に立てばいいのだろうか。
王太子として? それとも、かつての婚約者として?

いや、違う。
今の自分には、彼女の前に立つ資格など、何もないのかもしれない。
その思いが、アレンの心を重く支配した。
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