全て私が悪かったので許してください!

きららののん

文字の大きさ
28 / 30

28

しおりを挟む
森の入り口には、静寂だけが流れていた。
アレンは、クーデリアの変わりように、ただ立ち尽くすばかりだった。
先にその沈黙を破ったのは、クーデリアの方だった。

彼女は、ゆっくりと、しかし深く、その場に膝をついた。
そして、泥で汚れるのも厭わず、額が地面につきそうなほど、頭を下げた。

「アレン殿下」

その声は、地面に吸い込まれるように、くぐもっていた。

「そして、ここにはおられませんが、リリアンナ様へ。これまでの、わたくしの……数々の非礼、そして、許されざる罪の全てを、心よりお詫び申し上げます」

アレンは、息を呑んだ。
彼女の、そのあまりにも真摯な姿に。

「わたくしは、嫉妬という醜い感情に心を支配され、お二方を深く、深く傷つけました。どんな言葉を尽くしても、償えるものではございません。わたくしのしたことは、それほどまでに、卑劣で、愚かな行いでした」

彼女の肩が、微かに震えている。
泣いているのだろうか。
いや、違う。
それは、後悔と、そして誠意からくる、魂の震えだった。

「全て、私が悪うございました。どうか……どうか、お許し下さいとは、申しません。許しを乞う資格など、わたくしにはございませんから」

クーデリアは、顔を上げないまま、続けた。

「ただ、この謝罪の気持ちだけは、偽りのない、わたくしの本心であると、それだけは、信じていただけたらと……そう、願うばかりです」

その言葉を最後に、彼女は再び、深く、深く、頭を垂れた。
かつての、傲慢でプライドの高かった公爵令嬢の面影は、そこには一片もなかった。
ただ、自分の罪と向き合い、心からの謝罪を捧げる、一人の女性がいるだけだった。

アレンは、胸を締め付けられるような思いがした。
自分は、この女性を、ここまで追い詰めたのだ。
そして、彼女は、その絶望の淵から、自らの力で這い上がり、自分よりもずっと、気高い存在へと昇華していた。

自分の正義とは、なんだったのだろう。
彼女を断罪し、追放した、あの日の自分は、本当に正しかったのだろうか。
その問いが、アレンの心を激しく揺さぶる。

「……顔を、上げなさい。クーデリア」

アレンの声は、自分でも驚くほど、穏やかだった。

クーデリアが、ゆっくりと顔を上げる。
その瞳は濡れていたが、涙は流れていなかった。
ただ、澄み切った、静かな光を湛えている。

「君の謝罪は、受け取った」

アレンは、静かに言った。

「君が、本当に反省し、変わったのだということは、もう、十分にわかった。……いや、君は、私が思っていたよりも、ずっと強い人間だったのかもしれないな」

それは、アレンの本心だった。

「リリアンナにも、伝えよう。君が、心から謝罪していたと。彼女も、きっと、君を許すだろう。彼女は、そういう女性だ」

「……ありがとう、ございます」

クーデリアは、再び頭を下げた。
その声には、安堵の色が滲んでいた。

アレンは、彼女の前にしゃがみ込むと、そっとその肩に手を置いた。

「立てるか?」

「はい」

クーデリアが立ち上がるのを助けながら、アレンは、初めて、心から穏やかな気持ちになっている自分に気づいた。
彼女を許すことで、自分自身もまた、過去の呪縛から、救われようとしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

お母様!その方はわたくしの婚約者です

バオバブの実
恋愛
マーガレット・フリーマン侯爵夫人は齢42歳にして初めて恋をした。それはなんと一人娘ダリアの婚約者ロベルト・グリーンウッド侯爵令息 その事で平和だったフリーマン侯爵家はたいへんな騒ぎとなるが…

〘完結〛わたし悪役令嬢じゃありませんけど?

桜井ことり
恋愛
伯爵令嬢ソフィアは優しく穏やかな性格で婚約者である公爵家の次男ライネルと順風満帆のはず?だった。

聖女はもうのんびりしたいんです【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
魔法の国オルレアン。この国には古代より聖女伝説があり、初代聖女エレノアは生きとし生ける者から愛され従わせる事が出来、万物の声が聞こえた。 オルレアンを建国し、初代女王となったエレノアの没後、1000年経っても恩恵を受け、繁栄した国だった。 しかし、甘い汁に慣れきった、恩恵に味を占めた国民達が増え、衰退していって100年。再び聖女を祀れ、とオルレアン国民が声を挙げると、忽ち我が聖女、とその地位を争う様になる。 そんな中、初代聖女エレノアはその1000年を生まれ変わりながら、オルレアン国を見つめて来ていた1人。彼女は1人嘆き悲しむが、エレノアに頼る事だけを考えては駄目だと教えて来たつもりだったが、堕落した国民には届く事は無かった。 そして、再びオルレアン国に生を受けたエレノアは………

【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜

二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。 処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。 口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る… ※表紙はaiartで生成したものを使用しています。

【電子書籍で販売中】あなたは、親友の恋人だった。〜届かぬ背を追って〜

藤原遊
恋愛
誰よりも強く、美しく、孤独だった彼女。 初めて剣道場で見たあの日から――俺は生涯をかけてその背中を追い続けた。 だが、ある作戦が行われた夜に彼女は爆炎に消え、残されたのは「家がなければ、あなたを気に入っていた」という未完の言葉だけ。 愛と義務、誓いと嘘の狭間で揺れる一人の男の記録。 一途さが痛みに変わるまでを描いた、切なくも熱い恋の物語。 ※Kindleにて、別視点の物語を販売しています。

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~

sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。 ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。 そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。

『白薔薇の神殿で誓うとき ――氷を溶かす三行の言葉――』

柴田はつみ
恋愛
「政略婚約から始まったすれ違い。  舞踏会で耳にした一言が、私の心を凍らせる――。  誤解と嫉妬を越え、三行の言葉で氷を溶かす恋。  白薔薇の神殿で交わす誓いは、距離ゼロの愛へと導いてくれるでしょうか?」

処理中です...