偽りの悪役令嬢は、沈黙の愛に焦がれる

きららののん

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市場での一件から数日後、リリアーナ・ブラウン男爵令嬢は、人目を忍んでヴァイス公爵邸を訪れていた。セレスティーナからの、内密の招待を受けて。

応接室で待つセレスティーナの前に通されたリリアーナは、顔を青ざめさせ、小刻みに震えていた。

「セレスティーナ様……私を、どうなさるおつもりですか……?」

その瞳には、恐怖と罪悪感が渦巻いている。
セレスティーナは、そんな彼女に優しく微笑みかけると、温かい紅茶を勧めた。

「お掛けになって、ブラウン令嬢。貴女を責めるつもりはありません」

「……え?」

意外な言葉に、リリアーナは戸惑いの表情を浮かべる。

「先日の市場での一件。貴女を襲った男たち、ただのチンピラではありませんでした。彼らは、マルティン侯爵家に雇われた者たちです」

セレスティーナの静かな言葉に、リリアーナの肩が大きく跳ねた。

「な、なぜそれを……」

「貴女は、ご家族を人質に取られているのではありませんか?男爵家の財政難に付け込まれ、マルティン侯爵から、私を陥れるよう脅されていた」

セレスティーナは、全てを見通していた。彼女の言葉は、リリアーナの心の最後の壁を、静かに打ち砕いた。

「う……うぅっ……」

リリアーナは、ついに堪えきれなくなり、その場に崩れ落ちて泣き出した。

「申し訳、ありません……!私は、なんてことを……!」

「顔を上げなさい、ブラウン令嬢。貴女が謝るべき相手は、私ではありません」

セレスティーティーナは、泣きじゃくるリリアーナの前に膝をつくと、その肩を優しく支えた。

「貴女もまた、マルティン侯爵の陰謀の被害者。ずっと、お辛かったでしょう」

その温かい言葉と、慈愛に満ちた紫の瞳に、リリアーナはただ嗚咽を漏らすことしかできなかった。
自分が「悪役令嬢」だと信じて疑わなかったセレスティーナが、実は誰よりも優しく、そして全てを理解してくれていた。その事実に、彼女は打ちのめされていた。

「私のせいで、セレスティーナ様はあらぬ疑いをかけられ……私は、もう、どうすれば……」

「貴女に、協力してほしいのです」

セレスティーナは、きっぱりと言った。

「侯爵の悪事を白日の下に晒すために、貴女の力が必要なのです。もちろん、危険が伴います。ですが、このまま侯爵の言いなりになっていても、貴女とご家族に未来はありません」

セレスティーナは、リリアーナの手を固く握った。その手は、驚くほど温かかった。

「……戦う覚悟は、おありですか?」

リリアーナは、涙に濡れた瞳で、目の前の気高い令嬢を見つめた。
その瞳には、もう恐怖の色はなかった。
か弱い少女の仮面を脱ぎ捨てた、一人の人間としての、強い決意の光が宿っていた。
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