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9.平穏は突如奪われるもの
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その日から、十日後ぐらいだっただろうか。僕は激しい立ちくらみを覚え、病院にいく。
医師から告げられたのは、
「半年前から経過を観察していた脳腫瘍が悪化しました。余命は二ヶ月でしょう。」
そう、僕は半年前から脳腫瘍を患っていた。進行速度はさほどはやくなく、抗がん剤治療も必要ないとのことだったので特に気にしていなかった。だがここ数週間で急激に悪化し、もう打つ手はほとんどないとのことだった。残りのご家族との時間を大切にしましょうとかなんとかいう話を聞き流し、僕は彼女のことを考えていた。
うん、彼女には秘密にしとこうってね。伝えたら、彼女が悲しんでくれなかったときが怖いし、僕のために悲しませるのは嫌だった。
二ヶ月後、僕はあっさり死んだ。どっちみち為す術はなかったのだ。アニメや漫画の主人公みたいに蘇生するわけじゃあるまいし――。
「……。」
―っていうか蘇生してるって言えるのかな、この状況?
冥界会社でマントと身体を借りて出発してから、すでに四時間が経過している。ここは、いわゆる『あの世』と『この世』をつなぐ、境界と呼ばれる場所らしい。いくつもの枝分かれしているトンネルのようなここだが、丸く囲む壁はコンクリートではなく虹色の蠢く何かだった。さっきからマントの人工ガイドにしたがって複雑な道を通り抜けているのだが、いっこうに先行きが見えない。
「この道であってるんだよね?」
『はい。』
最初の頃より無機質な声がよりぶっきらぼうに聞こえる。
指示に従い、また右のトンネルをくぐった。
「おいおい、まよってるわけじゃ―。」
『前方、およそ一メートル先に暴風塊がみられます。このままだと巻き込まれます。』
「あ?」
確かに、目の前の光景は変わっていた。黒い台風のような塊が、ものすごい勢いで虹色の壁を削っていた。
「巻き込まれたらどうなる?」
『身体を千切られて冥界に帰還不能、もしくはマントが破れて別次元に放り出されます。』
「え? 今なんて?」
『衝突します。今すぐ停止してください。間に合いません。五秒、四秒、三秒、二秒―。』
「え? うわあああああああ!」
僕は突然ぽっかりと空いた見知らぬ世界にダイブしていくのだった。
医師から告げられたのは、
「半年前から経過を観察していた脳腫瘍が悪化しました。余命は二ヶ月でしょう。」
そう、僕は半年前から脳腫瘍を患っていた。進行速度はさほどはやくなく、抗がん剤治療も必要ないとのことだったので特に気にしていなかった。だがここ数週間で急激に悪化し、もう打つ手はほとんどないとのことだった。残りのご家族との時間を大切にしましょうとかなんとかいう話を聞き流し、僕は彼女のことを考えていた。
うん、彼女には秘密にしとこうってね。伝えたら、彼女が悲しんでくれなかったときが怖いし、僕のために悲しませるのは嫌だった。
二ヶ月後、僕はあっさり死んだ。どっちみち為す術はなかったのだ。アニメや漫画の主人公みたいに蘇生するわけじゃあるまいし――。
「……。」
―っていうか蘇生してるって言えるのかな、この状況?
冥界会社でマントと身体を借りて出発してから、すでに四時間が経過している。ここは、いわゆる『あの世』と『この世』をつなぐ、境界と呼ばれる場所らしい。いくつもの枝分かれしているトンネルのようなここだが、丸く囲む壁はコンクリートではなく虹色の蠢く何かだった。さっきからマントの人工ガイドにしたがって複雑な道を通り抜けているのだが、いっこうに先行きが見えない。
「この道であってるんだよね?」
『はい。』
最初の頃より無機質な声がよりぶっきらぼうに聞こえる。
指示に従い、また右のトンネルをくぐった。
「おいおい、まよってるわけじゃ―。」
『前方、およそ一メートル先に暴風塊がみられます。このままだと巻き込まれます。』
「あ?」
確かに、目の前の光景は変わっていた。黒い台風のような塊が、ものすごい勢いで虹色の壁を削っていた。
「巻き込まれたらどうなる?」
『身体を千切られて冥界に帰還不能、もしくはマントが破れて別次元に放り出されます。』
「え? 今なんて?」
『衝突します。今すぐ停止してください。間に合いません。五秒、四秒、三秒、二秒―。』
「え? うわあああああああ!」
僕は突然ぽっかりと空いた見知らぬ世界にダイブしていくのだった。
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