メサイア

司祭・ミルヤーム

ヨナタンは抑え切れない負の感情に苛まれながら、ついにペルペテュエル・アムの門戸を叩いた。
直前までヨナタンは迷っていた。果たして、こんな行為に意味はあるのかと。メサイアに反抗して何になるのだと。
だが、それでも。
肥大した負の感情はもう、ヨナタンにはどうにもできなかった。
「自分の感情なのに…」
吐き捨てるようにヨナタンは呟いた。弟たちへの嫉妬に狂いそうだった。
救いを求めるように、ヨナタンはペルペテュエル・アムの門を潜る。

「良く来たね。ヨナタン、我が同胞。」
案内された先で、ヨナタンを迎え入れたのは。

そこに居たのは幹部の中でもより高位の司祭だった。司祭の衣装をきちんと身にまとった彼は紳士然とし、ある種の威圧感を放つ。
「君が来るのは知っていたよ。」
静かに、彼は言った。白髪混じりの頭にうっすらと見える顔のしわ、初老の男は両腕を広げ、ヨナタンに歓迎の意を示す。
「貴方は… ミルヤーム司祭。」
ヨナタンは目を見張った。

司祭・ミルヤーム。高位の幹部の中でも、穏健派で知られる人物。能力は回復系と上級幹部必携スキルの精神感応テレパシー。
「貴方が、何故ここに？」
ヨナタンの予想では、幹部クラスが居るのなら武闘派と呼ばれる面子の中の誰かではないかと。
それが。

「私が、このペルペテュエル・アムの生みの親だからだよ。」
穏やかな笑みで、ミルヤームが答える。
「貴方が、組織に叛意を持つなんて…」
「意外かね？」
熱に浮かされたような視線をミルヤームに注ぎながら、ヨナタンは頷いた。
「はは、正直だな。君のそういうところは気に入っている。」
愉快そうに目を細める彼を見つめ、ヨナタンが問う。
「貴方が、僕をここに呼んだのですか？」
「そうだな。」
「何故…？」
ヨナタンは訳が分からなくなった。自らの意思でここに来たのか、ミルヤームのテレパシーで呼ばれてここに来たのかが。今もまだ、確かに弟たちへの嫉妬がこの胸に在るのに。
「私が君を呼んだ理由、この組織を作った理由は… まあ、いずれ。」
意味深な笑みを浮かべ、答えにならぬ答えをし、ミルヤームはヨナタンに言う。
「さあ、おいで。」

闇の中で、声が響く。

さあ、今から世界が動き出す。