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勇者
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「え? 弟? 双子の?」
それまでのごちゃごちゃした感情が吹き飛んで、カインは思わず上ずった声を出した。
「ああ、そうだよ。」
「あ、もしかして、前に離れ離れになったって言ってた…?」
「ああ… もう随分と昔に離れ離れになったままだ。」
微笑んでいるのに、とても悲しそうだ、カインは男を見てそう感じた。
「さて。いつまでもここに居ても仕方がない。落ち着ける場所に移動しようか。」
「え? あ、うん。」
少し、ほんの少しだけ、今まで渦巻いていた負の感情が薄れていることにカインは気付いた。
「それじゃあ…」
銀色の髪の男がそう言うと、いつかのように空間が歪んだ。
カインが驚きの声をあげるより早く、歪みは無くなった。
一瞬の出来事。
回りを見渡すと、つい先ほどまで居た場所とも違う、見たこともない所だった。
一言で言うなら、森の中の開けた場所。そこにはこんこんと清らかな水が湧き出る泉があった。
「ここは…?」
不思議と恐怖は感じなかった。静謐な雰囲気のせいなのか、銀色の髪の男が側に居るからなのかは、カインには分からなかったが。
「異界と繋がる場所、だよ。あの泉が門になっている。」
「異界と?」
「ああ、そうだよ。あの先に、私の… いや、今はまだその話はいい。それよりも、大切な話がある。」
銀色の髪の男は、カインの目をじっと見詰めた。
「…大切な話?」
「そう。…計らずも、君たち兄弟は袂を分かつ事になってしまった。」
その言葉に、カインははっとする。そうだ、行方は分からないままだが兄のヨナタンはメサイアに選ばれ、アベルは勇者だと言う。
なのに、オレは。
カインは爪が食い込むほど拳を強く握り締めた。
「君の兄のヨナタンはアンチ・メサイアに、君の弟のアベルは私の弟に選ばれ彼の勇者に…」
カインの様子に気付きながらも、男は話を続けた。
「…っ、待って、アニキがアンチ・メサイアってどういう…?」
思わぬ情報だった。思わずカインは男の話を遮った。行方の知れなかった兄のヨナタンがアンチ・メサイアとなっている、と彼は言うのだ。
「八年前、君たちは私に会ったことを彼に話したね?」
話を遮られたにも関わらず、機嫌を損ねることもなく彼はカインに問う。
「え? あ、うん。ダメだった?」
誰にも話すなとは言われてなかった、はず、と思いながらもカインは内心やらかしたのだろうかと不安になる。
「いや… ただ、それによって彼は、君たちのどちらかが勇者に選ばれたと知った。それで嫉妬に狂い、叛メサイア組織の門戸を叩いた。」
「え?」
「今や彼はその組織、ペルペテュエル・アムの筆頭にまでなった。組織では、彼のことをアンチ・メサイアと祭り上げている。」
淡々と、男はヨナタンについて説明した。
分かる、気がする。
カインは思った。弟に追い抜かれる、というよりは出し抜かれた感じだったのだろう。今の自分と同じように。オレだって力があったら、その組織に与したに違いない。
「ダメだよ。」
そう、声をかけられカインは男の顔を見上げた。
「あ、の、もしかして、メサイア本部に居た時、頭の中で声がしたけど、あなたの声だった?」
「そうだよ。」
「なんで、ダメって… 何が…」
カインは困惑した顔で、彼に向き合う。
分からないことばかりだ。
「君が、私の選んだ勇者だから。」
それまでのごちゃごちゃした感情が吹き飛んで、カインは思わず上ずった声を出した。
「ああ、そうだよ。」
「あ、もしかして、前に離れ離れになったって言ってた…?」
「ああ… もう随分と昔に離れ離れになったままだ。」
微笑んでいるのに、とても悲しそうだ、カインは男を見てそう感じた。
「さて。いつまでもここに居ても仕方がない。落ち着ける場所に移動しようか。」
「え? あ、うん。」
少し、ほんの少しだけ、今まで渦巻いていた負の感情が薄れていることにカインは気付いた。
「それじゃあ…」
銀色の髪の男がそう言うと、いつかのように空間が歪んだ。
カインが驚きの声をあげるより早く、歪みは無くなった。
一瞬の出来事。
回りを見渡すと、つい先ほどまで居た場所とも違う、見たこともない所だった。
一言で言うなら、森の中の開けた場所。そこにはこんこんと清らかな水が湧き出る泉があった。
「ここは…?」
不思議と恐怖は感じなかった。静謐な雰囲気のせいなのか、銀色の髪の男が側に居るからなのかは、カインには分からなかったが。
「異界と繋がる場所、だよ。あの泉が門になっている。」
「異界と?」
「ああ、そうだよ。あの先に、私の… いや、今はまだその話はいい。それよりも、大切な話がある。」
銀色の髪の男は、カインの目をじっと見詰めた。
「…大切な話?」
「そう。…計らずも、君たち兄弟は袂を分かつ事になってしまった。」
その言葉に、カインははっとする。そうだ、行方は分からないままだが兄のヨナタンはメサイアに選ばれ、アベルは勇者だと言う。
なのに、オレは。
カインは爪が食い込むほど拳を強く握り締めた。
「君の兄のヨナタンはアンチ・メサイアに、君の弟のアベルは私の弟に選ばれ彼の勇者に…」
カインの様子に気付きながらも、男は話を続けた。
「…っ、待って、アニキがアンチ・メサイアってどういう…?」
思わぬ情報だった。思わずカインは男の話を遮った。行方の知れなかった兄のヨナタンがアンチ・メサイアとなっている、と彼は言うのだ。
「八年前、君たちは私に会ったことを彼に話したね?」
話を遮られたにも関わらず、機嫌を損ねることもなく彼はカインに問う。
「え? あ、うん。ダメだった?」
誰にも話すなとは言われてなかった、はず、と思いながらもカインは内心やらかしたのだろうかと不安になる。
「いや… ただ、それによって彼は、君たちのどちらかが勇者に選ばれたと知った。それで嫉妬に狂い、叛メサイア組織の門戸を叩いた。」
「え?」
「今や彼はその組織、ペルペテュエル・アムの筆頭にまでなった。組織では、彼のことをアンチ・メサイアと祭り上げている。」
淡々と、男はヨナタンについて説明した。
分かる、気がする。
カインは思った。弟に追い抜かれる、というよりは出し抜かれた感じだったのだろう。今の自分と同じように。オレだって力があったら、その組織に与したに違いない。
「ダメだよ。」
そう、声をかけられカインは男の顔を見上げた。
「あ、の、もしかして、メサイア本部に居た時、頭の中で声がしたけど、あなたの声だった?」
「そうだよ。」
「なんで、ダメって… 何が…」
カインは困惑した顔で、彼に向き合う。
分からないことばかりだ。
「君が、私の選んだ勇者だから。」
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