メサイア

渡邉 幻月

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ホド:栄光という名の第八の町

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緑に恵まれた土地。それがホドエリアだ。
森林地帯に位置し、様々な果物が豊富に実る。また豊富な木材をイェソドエリアなどに供給しているエリアでもある。カインたちの故郷、セフィラ:κカッパーもこのホドエリアに属する町だ。

「あー… 久しぶりに戻ってきた感じがする。」
鬱蒼と茂る森が視界に入った時、思わずカインは声に出していた。
ヨナタンの行方を確認するために、メサイア本部に向かってから軽く一ヶ月は過ぎただろう。こんなに長く家を離れるとは思ってもみなかった。
「え? 何? ホド出身なの?」
「正確にはホドエリアのセフィラ:κって言う町なんだけどね。ホドの街からは三日くらいかな?」
「じゃあ、今回は実家を拠点にする? 気が楽でしょ?」
「あ、いや、それは止めとく。アベルと離れ離れになった理由とか… 説明しにくいし。」
それに、弟と別れて女の子と一緒の理由も説明し難い。しかも、人間じゃなくて悪魔の女の子だ。包み隠さず説明した時の両親の反応を想像して、カインは首を振った。面倒くさいことになりそうだ。だからと言ってうまい具合の嘘も考えつかないし、リリンの魅了《チャーム》を家族も含めた知り合い全員に使うのは許容出来る気がしない。
「帰んなくて平気なの?」
「取り敢えず、アニキ見つけるまで帰らないって言ってあるから… 大丈夫だと思う。」
「ふうん? それでいいならいいけど。じゃあ、まずは宿を取ろっか。」

十大都市の一つ、ホド。ここもマルクトやイェソドと同じ街の作りになっている。違うところと言えば、マルクトが商業の街、イェソドが職人の街と特色ある街並みだったことだろう。
 そして、ここホドと言えば果物の生産が多く、果物の加工や農産物の生産に特化したエリアと言える。街並みは白い壁にオレンジ色の屋根が印象的だった。
 また、ホドの街の南から東のエリアにかけては田畑が広がっている。街の広さの割には、人口が他の街に比べて少なめなのも特徴だろうか。町全体がのどかな雰囲気に包まれている。
 ちなみにカインたちの出生地でもあるセフィラ:κ《カッパー》も、似たような景色の町だ。

ホドの街の中心近くにある宿を逗留の拠点と決め、チェックインを済ませた二人は部屋に入るが早いかここホドの怪物の出現地図を広げる。
「森林地帯が多いだけあって、森に生息する怪物が多いねぇ。」
地図にさらっと目を通したリリンが言った。カインには割と馴染みのある怪物の姿が並ぶ。
ホドエリアの外壁の外側だが、日当たりの良い南側は開墾され、農地として活用されている。もちろん、農地として利用されているエリアにはメサイアが結界を張って怪物が侵入してこないようにしてある。外側の農地は主に果物が栽培されていた。このホドエリアの特殊なところは、果物の木によって視界が遮られるので、さらに外側に監視塔が建っているところだろう。

「んー、森に入らないと怪物には遭遇しないってことね。」
出現する怪物の種類を確認した後、出現エリアを見てリリンは呟いた。監視塔もあるし、ちょうどいいか、と続ける。
「ん? じゃあ、ここではずっと森に行く感じになるな。」
「そうだねー、トレントはイェソドエリアと同じだから戦闘は無しでいいね。そうするとサル型の猩々とオオカミ型のマナガルム、昆虫型のホーネットと対戦だね。…一番注意しないといけないのはどれだと思う?」
そろそろ怪物との戦闘にも慣れてきた。まだまだ知らない種族の方が多いだろうが、道の怪物に出会った時のためにも予測する能力も身に付けてもらいたいところだと考えているリリンは、カインに問いかける。実践でいきなり問いかけなかったところが、リリンなりの優しさのつもりだ。

「え? …オオカミ強そうだけど、ホーネット? 飛ぶ敵は初めてだよな?」
少し考え込んで、カインが答える。
「せいかーい! まあ、猩々もマナガルムも強敵ではあるけど、キミの言う通りホーネットは飛んでるし… それに、毒があるからね。一撃のダメージは少ない方だけど、この毒が厄介なんだよねぇ。ホーネットの毒は神経系なんだよ。」
正解をはじき出したカインに、リリンは解説をする。
「…ただの物理攻撃しかしてこない分、マナガルムとかの方が戦いやすいってことな?」
「そうなるねー。ブラックドックよりは強いよ? 大型だし、群れを作ってるしで厄介は厄介なんだけど…」
「マナガルムもそういう意味じゃ注意が必要だよな。猩々は?」
「すばしっこさ、と言うか巧い具合に木の枝から枝へと飛び移るとこかな? 狙いを定めにくいと思うよ。ただ、自分の羽で飛ぶホーネットに比べれば動きは限定されるけど…」
「今までのとは違った戦い方が必要になるのか。」
カインの呑み込みの早さに、リリンは満足だ。

「じゃあ、明日以降の予定ね! まずはマナガルムを二日、猩々を三日、ホーネットが… まあ、五日くらいかな? で、その日程で勿論無傷で一撃で倒せるようになる感じで。」
「え? マナガルム二日?」
もう無傷で一撃必殺のくだりには驚かなくなったカインだったが、ブラックドックよりも厄介なマナガルムを二日で攻略と聞いてさすがにリリンに聞き返した。
「攻略自体はブラックドックと同じだよ。ただ、スピードも攻撃力もマナガルムの方が高いってだけで。」
「…つまり、実質一日でマナガルムのスピードに慣れないと攻略できないってことだよな。」
「そうなるね。でもさ、キミ魔法もそこそこ使えるようになったから攻撃力は上がってるんだよ?」
「うぅん… そこ重要かなぁ… スピードが問題なんじゃないのかな…」
カインは腕を組みぶつぶつと何かを呟きながら考え込む。眉間には深くしわが刻まれている。そんなカインをリリンは微笑ましく見守っていた。
「うん。やってみないと分からないし、取り敢えずリリンのスケジュール通りやってみるよ。ダメそうだったら調整してくれるんだろ?」
「もちろん。でも、予定通りこなすことを期待しているよ。」
予想通りの答えに、リリンはにっこり微笑んでカインに答えた。
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