8 / 31
独り立ちをした、運命に逢った ~スピネルサイド①~
しおりを挟む
師匠が剣士の割にインテリだって気付いたのは、弟子になってからもう随分と経ってからのことだ。どっちの親か分からないが、師匠はオレの親の兄弟らしい。らしい、ってのは、まあ師匠との間でそんな話をしないからだ。オレも師匠も、そんな些細なことを気にしないっつうか、興味も無いタイプっつうか。
で。当のオレは双子の片割れで、双子は禍を呼ぶってんで殺されるところだったらしい。それを師匠は自分が育てるからと言って引き取ってくれたらしい。そうして、禍が及ばぬよう、遠く離れた地に移住したそうだ。それが、オレが師匠に弟子入りする切っ掛けだった。…まあ、オレ赤ん坊だったけどな。
多分、それなりの身分だったんだろうことは、師匠の身の回りにあった物を思い出せば、審美眼ってやつを身に着けた今なら判る。が、今のオレにはどうでもいいことだった。
自分の力だけで名を上げたい。
その野望の前には、家柄だのなんだのなんて邪魔なだけだと思っている。
十五になって、そこそこ権能でも上がって自分の身くらい自分で守れるようになった頃、オレは師匠と相談した上で独り立ちすることを選んだ。オレも師匠も淡白なところがあるから、『気を付けるんだよ』『分かった、今までありがとう』と言葉を交わしただけで別れは済んだ。
剣士なんて、いつ死ぬかも分からないような道を選んだ以上、それでいいと思っている。何かに執着して良いことなんてない。
そうして。一人気ままに傭兵稼業で稼ぎながら、武者修行の旅でもしようかと考えたオレは、さっそく実行に移していた。いくつかの戦場を渡り歩いて、そこそこ路銀も溜まったところでさらに腕を磨けそうな場所を求めて旅に出た時、オレは運命に出逢った。
馬の嘶きが聞こえた。切羽詰まったようなそれは、非常事態を…大方、野党か何かに襲われているのだろう事を予測させる。
見て見ぬフリも胸クソ悪ぃんだよな、と考えてオレは助けに行くことにした。野党の割に身形のいい連中を追い払ってみると、そこに残っていたのは子供が一人。馬の嘶きが聞こえたにも拘らず、姿が見えないことから馬車は既に盗まれた後か。親は… 馬車の中なのか、同行していなかったのか、あるいは…
子供の様子を窺がってみる。黒い髪の、綺麗な翡翠色の瞳をした子供。怯えているのに、それでも真っ直ぐで芯が折れていないことが分かる、きれいなきれいな翡翠の瞳にオレは。
胸を、心を射抜かれていた。
「大丈夫か? あんた」
一言も発さないその子に、オレは声をかけた。まだ、恐怖の中にいるのだろうか。こんな子供が、あんな大人に囲まれて刃を向けられていたのだから、仕方のないことだろう。
「…? あれ? 坊ちゃん? 嬢ちゃん?」
少し目つきは鋭い感じがするけど可愛らしい顔立ちで、でもサラサラの黒い髪は短く切り揃えてある。コートは良い生地で仕立てられているけれど、シンプルなデザインと色でそれだけでは男の子なのか女の子なのか、オレには判別できなかった。
「なあ、話せないのか? まぁ… あんたけっこう良いトコの人みたいだしなぁ。怖くて声が出なくなったとか?」
その子供はずっとだんまりで、たった一言も声を出さないでいる。怯えていた目は、今は怪訝そうにオレを見詰めている。少なくとも、恐怖は消えたらしい。怪しまれているようだけど、それはまあ仕方ないだろう。それなりに良いところの子供のようだし、そんな風に教育されているのだろう。師匠もそんな感じだった。オレは今、力尽くでトラブルをねじ伏せられるようになったから、師匠には好きにしろって言われてここに居るけども。
そうこうしているうちに、その子はショックで声が出なくなったらしいことが分かった。オレの質問に地面に文字を書いて答えるその子は、年の割に冷静で頭の回転もよさそうだった。ネーヴェにいる親戚のところに行く予定だったという。この子のことだから、多少の誤魔化しはあるのかもしれないけれど、一人にするのも心配だったから次の町まではオレが同行することにした。後は、親でも親戚でも連絡を取って合流するまで見守ろうかと思う。
ほんの少し、少しだけこの可愛い子と一緒に居たいと思ったのは内緒だ。
困っているなら助けたい。それが一番の理由だった。可愛い子と一緒に居たいと思ったけど、オレは剣士なんだから下心なんで持ったらダメだ、と思い直す。それに、この子は今声を失くすほどのショックを受けているんだから。と、気持ちを切り替えて、まずは近くの町を目指す。
で。当のオレは双子の片割れで、双子は禍を呼ぶってんで殺されるところだったらしい。それを師匠は自分が育てるからと言って引き取ってくれたらしい。そうして、禍が及ばぬよう、遠く離れた地に移住したそうだ。それが、オレが師匠に弟子入りする切っ掛けだった。…まあ、オレ赤ん坊だったけどな。
多分、それなりの身分だったんだろうことは、師匠の身の回りにあった物を思い出せば、審美眼ってやつを身に着けた今なら判る。が、今のオレにはどうでもいいことだった。
自分の力だけで名を上げたい。
その野望の前には、家柄だのなんだのなんて邪魔なだけだと思っている。
十五になって、そこそこ権能でも上がって自分の身くらい自分で守れるようになった頃、オレは師匠と相談した上で独り立ちすることを選んだ。オレも師匠も淡白なところがあるから、『気を付けるんだよ』『分かった、今までありがとう』と言葉を交わしただけで別れは済んだ。
剣士なんて、いつ死ぬかも分からないような道を選んだ以上、それでいいと思っている。何かに執着して良いことなんてない。
そうして。一人気ままに傭兵稼業で稼ぎながら、武者修行の旅でもしようかと考えたオレは、さっそく実行に移していた。いくつかの戦場を渡り歩いて、そこそこ路銀も溜まったところでさらに腕を磨けそうな場所を求めて旅に出た時、オレは運命に出逢った。
馬の嘶きが聞こえた。切羽詰まったようなそれは、非常事態を…大方、野党か何かに襲われているのだろう事を予測させる。
見て見ぬフリも胸クソ悪ぃんだよな、と考えてオレは助けに行くことにした。野党の割に身形のいい連中を追い払ってみると、そこに残っていたのは子供が一人。馬の嘶きが聞こえたにも拘らず、姿が見えないことから馬車は既に盗まれた後か。親は… 馬車の中なのか、同行していなかったのか、あるいは…
子供の様子を窺がってみる。黒い髪の、綺麗な翡翠色の瞳をした子供。怯えているのに、それでも真っ直ぐで芯が折れていないことが分かる、きれいなきれいな翡翠の瞳にオレは。
胸を、心を射抜かれていた。
「大丈夫か? あんた」
一言も発さないその子に、オレは声をかけた。まだ、恐怖の中にいるのだろうか。こんな子供が、あんな大人に囲まれて刃を向けられていたのだから、仕方のないことだろう。
「…? あれ? 坊ちゃん? 嬢ちゃん?」
少し目つきは鋭い感じがするけど可愛らしい顔立ちで、でもサラサラの黒い髪は短く切り揃えてある。コートは良い生地で仕立てられているけれど、シンプルなデザインと色でそれだけでは男の子なのか女の子なのか、オレには判別できなかった。
「なあ、話せないのか? まぁ… あんたけっこう良いトコの人みたいだしなぁ。怖くて声が出なくなったとか?」
その子供はずっとだんまりで、たった一言も声を出さないでいる。怯えていた目は、今は怪訝そうにオレを見詰めている。少なくとも、恐怖は消えたらしい。怪しまれているようだけど、それはまあ仕方ないだろう。それなりに良いところの子供のようだし、そんな風に教育されているのだろう。師匠もそんな感じだった。オレは今、力尽くでトラブルをねじ伏せられるようになったから、師匠には好きにしろって言われてここに居るけども。
そうこうしているうちに、その子はショックで声が出なくなったらしいことが分かった。オレの質問に地面に文字を書いて答えるその子は、年の割に冷静で頭の回転もよさそうだった。ネーヴェにいる親戚のところに行く予定だったという。この子のことだから、多少の誤魔化しはあるのかもしれないけれど、一人にするのも心配だったから次の町まではオレが同行することにした。後は、親でも親戚でも連絡を取って合流するまで見守ろうかと思う。
ほんの少し、少しだけこの可愛い子と一緒に居たいと思ったのは内緒だ。
困っているなら助けたい。それが一番の理由だった。可愛い子と一緒に居たいと思ったけど、オレは剣士なんだから下心なんで持ったらダメだ、と思い直す。それに、この子は今声を失くすほどのショックを受けているんだから。と、気持ちを切り替えて、まずは近くの町を目指す。
0
あなたにおすすめの小説
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
そんなお前が好きだった
chatetlune
BL
後生大事にしまい込んでいた10年物の腐った初恋の蓋がまさか開くなんて―。高校時代一学年下の大らかな井原渉に懐かれていた和田響。井原は卒業式の後、音大に進んだ響に、卒業したら、この大銀杏の樹の下で逢おうと勝手に約束させたが、響は結局行かなかった。言葉にしたことはないが思いは互いに同じだったのだと思う。だが未来のない道に井原を巻き込みたくはなかった。時を経て10年後の秋、郷里に戻った響は、高校の恩師に頼み込まれてピアノを教える傍ら急遽母校で非常勤講師となるが、明くる4月、アメリカに留学していたはずの井原が物理教師として現れ、響は動揺する。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる