【 宇宙人Kと少女Q 】

八御伽遊楽

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第5話:人間様はお足元にご注意下さい。生存競争大変ですし?

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 オセロのコツも満員電車に乗るコツも、角を取ること。押し競まんじゅうに、わたしは勝てない。でも、それって、逃げ場はないってことと一緒だよね。
 わたしは「黒」。角を取ったら引っ繰り返されない。だけど「白」に囲まれて一人きり。どうしたらいい?

 最近の満員電車は、そうでもない。辞書で調べてわかった。犯人は「黒」。わたしと一緒だ。
 わたしと一緒なら、この人も善い人の皮を被った悪い人なのかな。痴漢って悪いことだから、そうかも知れない。
 いつもは善い人でも、悪いときには悪い人。家族には優しい悪者みたいなもの。

 いつも悪いことばかりしてる人なんていない。いつも善いことばかりしてる人なんていない。そんなことわかり切っているのに、日常は「善い人」を押しつける。

 お母さんとか先生とか同級生とか。
 わたし馬鹿だけど知ってるよ? みんな悪いことは隠れてしてるだけ。オセロだって「白」と「黒」は一緒。「白」に見えても裏は「黒」。 みんなも同じ。

 でも勝つのは大勢。日本は民主主義だから? 盤上の、目に見える「白」の多さで「黒」は敗北する。「黒」は見えない。見えないのは「腹の中」。腹黒いって、わたしみたい。おまんじゅうにも似てるよね。

 黒いあんはつぶあん。白い餅に包まれてる。
 今日もお餅みたいにお尻揉まれるのかなって思ってたら、抱き締められた。どういうことだろう? すごい恥ずかしい……。

 線路は続くよどこまでも。わたしは1時間で降りるけど。
 1時間も抱き締められるのって、どう思っていいのかわからない。顔を見ちゃったから、痴漢はやめたのかな。
 お尻なら触ってても良かったのに。

 手のひらはお腹の上。お腹痛いときにこうしてもらえると治りそう。ああ、やっぱりペットなのかな? わたしも子犬のお腹なら触りたいけど。子犬は可愛いし、気持ちいいから。

「…………」

 もしかして、気持ちいいのかな。
 気の持ちよう。「病気なんて気の持ちようなんだから」そう言われて休ませてもらえない学校に行っても、保健室で寝るだけなのに。
 授業を受けなくても出席日数は大事なのかな? きっと違うよね。きっと「鴨川さん家のまた休んでるのね」って言われたくないだけだよね。

 狂る狂る狂る狂る螺旋階段。走れ走れ。それが螺旋ネジだと気付くまで。

 螺旋ネジじゃなくて発条ぜんまいならいいのに。オルゴールっぽいから。曲はワルツ。狂る狂る狂る狂る踊るよ踊る。紳士と淑女。手のひらの上で。

 お腹の上の手のひら。お尻とは違う心地良さ。わたしはペット。わたしは子犬。可愛くはないけれど、ご飯もらえるのなら、お利口さんにはできるはず。

 コテージは小屋かな。人里離れて日常から「さようなら」。新しいペット暮らし。わたしに人間は無理でした。わたしは人間するの下手でした。

 上手に人間できません。人間らしいってなに? 箇条書きにして下さい。やれるだけやってみます。人間らしさを押しつけるのなら。
 でもお母さんも先生も、箇条書きにしてくれませんでした。人間らしさの説明書。説明なしじゃできないよ。

「日常を過ごすこと」「毎日を暮らすこと」「普通にしていること」 わたしには全然わかりません。

 普通ってなんですか? みんなと一緒ってこと? オセロの「白」。勝ったという証明。身の潔白。きれいってこと? 汚れてないということ? 黒くないっていうこと?

 じゃ、わたしはやっぱり人間に向いてません。宇宙人になりたい。遠い星にさらって行って下さい。流れ星に三回願って、七夕にお祈りして、占星術に運命を捧げてみる。
 そうだね、捧げた甲斐あったかも。

 遠い星は無理でもさらってはもらえそう。抱き締められてると、そう思える。わんわん鳴きたくなる。わんわん泣きたくなる。「さようなら」日常。もう愛想笑いしなくていいのかも。

『次は──』次はぁー学校ぉー学校ぉー。人間様はお足元にご注意下さい。生存競争大変ですし?
 人間の皮を被った宇宙人かも知れない人と「さようなら」。明日に楽しみあるって久しぶり。

 ばいばい。じゃーね。また明日。

「…………」

 あれ? 離してもらえない。
『締まる扉に──』ご注意できないよ。遅刻しちゃう。心読まれた? 名残惜しいと思ったから? 遅刻すると先生うるさそう。でも、次の駅まで抱き締めてもらえる? 反対車線の電車に乗って学校まで走ればなんとか。
 あ、だめだ。わたしの定期この駅までだ。お金あったかな? ジュ、ジュース代くらいしか──。

「………っ」

 離してもらえた。
 ドアの締まる直前、背中も押された。
 プシューと締まる扉。ガラスの向こうに意地悪そうな微笑み。からかわれた……?

 ペットはからかわれるより、可愛がられるほうがいいんだよ? そんな顔をしても──まだ笑ってる。

 子犬の気分だったのに、牛になりそうだよ。


「もう」



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