俺の彼女の彼氏は46人いるのでちょっと倒してくる

猫蕎麦

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プロローグ

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 「んへへ……」

 気をつけていても頬が緩んでしまう。こんな状態になったのはいつぶりだろうか。

 12月24日。そう。今日はリア充の日……否、クリスマスイブである。

 そして俺にとっては特別な一日でもある。俺ら、と言うべきか。

 「ほな、18時に梅田のビックマン前な!!遅刻厳禁やで!!」

 「はいよ……毎回遅刻するやつがよう言うわ……」

 そんなやり取りをした翌日。今の時刻は18時34分。思いっきりあいつの遅刻だ。それにしても肌寒いとか考えていると、少し遠くから気配を感じた。早足のヒールの音が近づいてくる。

 「ほんまごめん!!うちまた迷ってしもて……」

 上気した顔から白い息。赤いマフラーはお揃いだ。透けるように綺麗な肌に、丸渕のメガネがよく似合っている。

 彼女の名前は琴咲宇梨ことさきうり。俺の初恋相手でもある、自慢の彼女だ。あ、ちなみに俺は大坂文斗おおざかふみとね。お互い大学生やってます。

 ぎこちない関西弁を使う彼女に申し訳なくて、標準語でいいのに、と言うと、文斗君が好きだから真似したいんだけど……だめ?と聞いてくる。上目遣いで。ほんと可愛すぎかよ。

 そんな訳で俺らは今日、付き合い始めて一年が経つのだ。

 「なぁー、今日はどこ行くんー?」

 そう言って宇梨はハンドバッグを左手に持ち替え、俺の方を向く。見ると、右手が差し出されていた。俺は微笑んで手を繋ぐ。大丈夫かな、にやけてないかな。

 そして俺は予約していたレストランへ急ぐ。つもりだった。

 ーープスッ

 ーーえ?

 首に短い痛みを感じて、俺はすぐに立っていられなくなった。その時皮肉なことに辺りに人気はなかった。ちょうど大通りを曲がった所だったのだ。

 「きゃっ!ちょっと……何するのよ!!やめてくんない?!!」

 何が起こってるのか確認出来なかった。ただただ体が痺れて意識が遠のくことだけを感じる。宇梨のヒールの音が聞こえなくなる。宇梨の悲鳴が聞こえる。そして完全に俺は意識を失った。

 

 ーー目が覚めると俺は、自分の部屋にいた。カーテンの隙間から、朝の光が漏れる。小鳥のさえずりまで聞こえてくる。

 「なんだ、夢か」

 どうやら少しクリスマスイブを楽しみにしすぎたらしい。珍しく寝癖の付いていない頭をかきながら、時計をチラ見して、ベッドを降りる。

 もう1度時計を見直した。うん、三度見した。

 そのデジタルの時計は12月25日を示している。スマホを見てみると、同じく12月25日。子供たちがサンタからのプレゼントを開けている日付だった。

 じゃあ……昨日のは……。

 そこまで考えて寝ぼけた頭をブルブル振ると、机の上に見慣れない端末があることに気がついた。

 「ん?」

 持ち上げると、画面に文字が表示される。

 『あと46人』
 
 「うん???」

 『大阪府の彼氏、大坂文斗君へ』

 大阪府の彼氏?どういうことだろう。

 『琴咲宇梨は僕達が預かっている。取り戻せるのは47都道府県にいる彼女の彼氏のうち、一人だけだ』

 「は……はぁ……っ?!」

 端末に記された意味不明な内容に、口をついて出る声。外では、真っ白い新雪が静かに舞っていた。


 ーーそれは嵐の前の静けさ。そんな言葉がぴったりだった。

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