推理問答部は謎を呼ぶ -Personality Log-

猫蕎麦

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第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]

Log.46 working out

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 戦車はしばらく走り続けた。そのエンジンの轟音が止まったかと思うと、優衣さんが振り向いた。

 「さっきの場所とはちょっと離れたとこに停めたわ。一応化物達あいつらには気づかれない距離だと思うけど、念の為静かにね」

 「わかりました」

 俺は返事をする。美頼の方は緊張しているのか、頷くだけだった。俺の体だけど。

 もうヘッドホンはつけなくていい。俺はそれを外して少しの間、無意識に眺める。ゾンビに噛まれたら死ぬ。そう思うと、ただただ、怖い。

 「じゃあ行くよ」

 優衣さんが言った。そして入口の戸を開ける。陽の光が眩しい。相変わらずの真っ赤な空は気味が悪い。風ひとつ無い大通りの脇で、軍事基地の方を見る。

 先ほどの囮作戦のおかげで、軍事施設の前のゾンビはだいぶ減ったが、それでもまだ大群としか言いようがない。

 俺達は商店街へと続く路地に入って、優衣さんを先頭に、警戒しながら進んだ。

 「止まって」

 優衣さんが小声で言う。動きを止めると、ゾンビのうめき声がすぐ近くから聞こえてくるのがわかった。おそらくちょうど路地の出口脇にいるのだろう。

 「どうします?」

 「今倒しちゃってもいいけど、余計に呼び寄せちゃってもまずいよね」

 「てかわ……お、俺達はどこに向かってるんですか?」

 美頼がたどたどしい口調で口を挟む。確かに、商店街の地下を探すにしても、どこから地下に入れるのか見当もつかない。

 優衣さんは困ったように答えた。

 「うーん……マンホールとか探そうか?」

 「これがゲームなら、もっとヒントみたいなのあるんじゃないですか?端末にもそれらしき情報はないし……」

 横で美頼がうなる。それを見て俺はふと思い出した。

 「そういえばみよ……アキ。あんた軍事施設の中でなんか大きい音でも出した?」

 「ん?別に何もしてないけど?」

 「じゃあ大きい音とか聞こえた?」

 「いや……?さっきからなに?」

 美頼は意味が分からないという様に少しイライラしている。つまりあのゾンビの群れは、音とか関係なくあそこに集まっているということになる。

 なぜ……?

 「つまりアキくんが言いたいのはこういうことね。あそこに何かがあると」

 「はい、そうです。これがゲームなら多分、敵を一掃したら次の段階に進むとかあると思……え?」

 俺の顔の美頼が唖然としている。俺はすぐに違和感に気づいた。

 「優衣さん……?今……」

 「やっぱそっかー!!あんた達、入れ替わってるんでしょ??」

 これで納得がいった、と彼女は続ける。

 「始めっからおかしいと思ってたのよ。だって私、アキくんがいる場所にスポーンするよう設定してたはずなのに、来てみればミヨっちゃんがいるからさ」

 う……。もう誤魔化しきれないか……。美頼と目があったが、すぐ目をそらされた。俺は首を振る。

 「騙すような感じになってすみません……タイミングを見失っちゃって」

 俺は苦い顔になった。優衣さんは少し黙り込んで何か考えている。美頼がため息をついて呟いた。

 「これでやっと気を抜いて話せるよ……」

 「女言葉はやめろよ?きもいから」

 「えぇ~?別にいいじゃない。私女の子だもんっ」

 「てめこのやろ」

 俺は美頼を小突いた。美頼がよろける。よろめいて前にいる優衣さんに倒れこむ。そして優衣さんがバランスを崩して、商店街へ倒れこむ。ゾンビの嬉しそうな声が聞こえてきた。

 「あ……」

 やってしまった。一瞬の気の緩みだ。
とにかく優衣さんを助けなければならない。俺は拳銃を腰から抜くのだが……

 倒れている優衣さんに、ゾンビが両手で襲いかかる。彼女の両肩をがっしり掴み、唾液で糸引く大きな口を開けたその時だった。

 ……一瞬でゾンビの肩周りと両脚にロープが現れ、背骨ごと真っ二つに折れた。

 まるで初めて優衣さんと会った時に、馬鹿でかい怪物が一瞬で背骨ごと折られていたように。

 「あ、あの……優衣さん?」

 俺の声が聞こえる。美頼だ。倒れたまま目の前の光景に目を疑っている。

 「ごめんね。私も騙すような感じになっちゃってさ」

 優衣さんの苦笑い。

 「私、実は人間じゃないんよ」



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