推理問答部は謎を呼ぶ -Personality Log-

猫蕎麦

文字の大きさ
53 / 92
第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]

Log.49 closed manhole

しおりを挟む
 「ん?」

 その時俺が横目で捉えたのは、突然走り出した優衣さん。しかもムカデに向かってならまだしも、商店街に向かって全力疾走している。

 「優衣さん!?何やって……」

 彼女は振り向きもせずに大声でこう言った。

 「逃げるよ!!」

 「へ?!」
 
 え、なに降参するの。まじで?

 とにかく俺と美頼も優衣さんについて行くことにした。だが走りだすと当然、ムカデも身をうねらせながら大量の足音を立てて追ってくる。

 なんとか追いつくと、商店街の角を曲がりながら優衣さんは言った。

 「ごめんね急に。でも、考えがあるのよ」

 「い、いや……でも一体どういう……?」

 「見ての通り私たちは弱い。さっきまで元気だった軍事基地前のゾンビに対抗出来なかったのと同じさ」

 優衣さんの言葉の意図に、俺は気づいた。美頼が全力疾走しながら口をとがらせる。

 「もう何なのもったいぶらずに早く教えなさいよ!!」

 オネエがいる。隣にめちゃくちゃ走ってるオネエがいる。

 「つまり囮作戦ってことだ。さっき美頼と俺が初めて合流した時みたいにな」

 そう言いつつ、俺らは左に曲がる。

 「あ、なるほ……ひゃっ!?」

 冷静に会話しているが、実際には自転車並の速さで走る大ムカデから逃走中だ。そしてもちろん、商店街の中には死に損ないの元人間たちがうろついている。

 要するに今の美頼の悲鳴は、曲がった瞬間にそのゾンビのうちの一体と衝突しそうになったために発せられたものだ。まあ、『衝突しそうになった』というのはつまり実際には衝突を免れたわけで、同時に優衣さんのチートに再び助けられたということでもある。

 次は豆腐屋の角を曲がりながら、美頼は叫ぶ。

 「あ、ありがとうございます、優衣さん!」

 目と鼻の先で、今までと同様、ロープに背骨を折られたゾンビを踏み越えながら。

 案外こいつ、根の部分ではタフだ。

 「いいってことよ。みよっちゃん」

 俺は優衣さんの方を向く。

 「そろそろ、足が、限界です……」

 「何言ってんのそれくらい我慢しなさいよ。あんた男でしょう??……あ、今は女か……」

 「そういうのいいから!!!!」

 「あはは、ごめんごめん。とにかく、二人が囮になって一人がマンホールのとこまで行って開ける。そこに飛び込んですぐマンホールを閉める!どうよ」

 小学生でも考えつきそうな作戦だ。

 でも……

 「問題なさそうですね。やりましょうか!」

 俺がそう言うと、美頼は不安そうな顔になる。

 「わ、私一人はやだよ?」

 「何言ってんだお前今男だろ」

 「そういうのいいから!!!」

 また角を曲がりながら、優衣さんがゾンビを倒した。そして続ける。

 「じゃあアキくんに行ってもらおうかな。みよっちゃんは任せなさいっ」

 やっぱそうくるかー。さっきと違って囮ではないが、また一人だ。

 「自分の身くらい自分で守ります、よっと!」

 そう言いながら、俺も目の前に迫ってきたゾンビヘッドを拳銃で撃ち抜く。頭が派手に吹っ飛んだ。

 「次の角で一周するから、そこで別れようか。ゾンビ達も今走ってる私達、いや、ムカデの音に引きつけられて少なくなってるはず!もう一周する間に開けられる?」

 「余裕っ!」

 「いい返事だ!」

 数メートル先に、商店街の屋根がなくなって日が差している地面が見える。俺は息切れしながらも、覚悟を決めた。

 3……2……1…………!

 視界がひらけた。
 
 「じゃあ任せたよ!」

 「アキ!その、頑張って……」

 「俺の声で変なこと言うなっての」

 俺は角に隠れた。すぐに優衣さんと美頼が通り過ぎて、そして後に続くムカデとウォーキングデッド。

 なんとか彼らには気付かれずに済んだようだ。

 俺はすぐに例のマンホールへ向かった。優衣さんの狙い通り、辺りには生きたゾンビはいなくなっていた。俺はその円盤のくぼみに指を突っ込んで引っ張る。

 そして冷や汗が吹き出てくる。


 「あれ……どうやって開けんのこれ……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わり、転校してきたのは、初恋の相手だった——。 鬱々とした気分で二学期の初日を迎えた高須明希は、忘れかけていた記憶と向き合うことになる。 名前を変えて戻ってきたかつての幼馴染、立石麻美。そして、昔から気になっていたクラスメイト、河西栞。 親友の田中浩大が麻美に一目惚れしたことで、この再会が静かに波紋を広げていく。 性と欲の狭間で、歪み出す日常。 無邪気な笑顔の裏に隠された想いと、揺れ動く心。 そのすべてに触れたとき、明希は何を守り、何を選ぶのか。 青春の光と影を描く、"遅れてきた"ひと夏の物語。   前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章 後編 「青春譚」 : 第6章〜

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

処理中です...