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第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]
Log.56 revived deliverer
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流石にもう飽きてきたぞこのゲーム。
死と隣り合わせだっていうのに、俺はそんなことを考えていた。ここが現実ではないという感覚に、少し慣れてきたのかもしれない。
だっておかしいでしょ?!敵のステータスとこっちのステータスのバランスが悪すぎて、運ゲー要素半端ないでしょ!?
せめて効き目のある武器が欲しい。
「ウハィハィヒァッッ!シャマケシチフライガ」
何を言ってるんだ。社負け7フライ?
この密室で、大型ムカデと共に閉じ込められている。どう行動するのが正しいのだろう。
「まずはここから出るべきか。武器もないし……」
拳銃の弾も、ショットガンの弾も、優衣さんのところへ置いてきてしまった。今思えばあそこで気負わずに貰うべきだった。
「ムカデの力なら出口も開けられるか?」
咲夜は中央のモニター中心に、グルグルと渦巻いている。その勢いで早速向かってきたムカデの顔に、俺は刀を突き立てながら回避した。少し肩をぶつけてしまう。結構痛い。
だが咲夜の方も、断末魔のような金切り声を上げている。そのまま断末魔となって欲しいところだ。
俺が今確認出来る限り、この部屋から外へ通じる道は一つしかない。ここに入ってきた時の入口だ。モニターを見れば抜け道も分かったかもしれないが、その前に壊してしまったのが、今裏目に出ている。
とにかくあそこを出口として、咲夜に突き破って貰うのが妥当じゃないだろうか。最悪マンホールのところまで戻って、初っ端の病院でやったように、ムカデ同士で戦って貰うことも出来るかもしれない。
安直な考えだが……そんな念密に練ってる余裕もない。
「ほーら!どこ見てんだよ!こっちだこっちー!馬鹿かよー!」
例の電子ドアの前まで行って、美頼のハイトーンボイスで挑発してみる。
思考も少し退化しているのだろうか。一直線に咲夜の頭が突撃してくる。
それを俺はさっきの要領で避ける。
──ドゴーンッッ
「どうだ!?」
砂煙が立ち込める。俺が少し咳き込む間にも、ムカデの足が周期的な金属音を立てている。
出口の方向に目を凝らすと、見事に穴が空いていた。そして……
「え?」
出口の先に、またゲームクリアへの道が見えた。混乱するとかではなく、普通に喜んだ。
だが喜んだのもつかの間、ムカデの姿が見えないことに気がついた。
「どこだ……?」
小声で俺はつぶやく。微かに聞こえる、カタカタカタという足音。それがどこから聞こえてくるのか、理解した時にはもう、手遅れだった。
「……!上か……?!」
見上げた瞬間に、視界が回った。ムカデの前脚に掴まれて、持ち上げられたことが分かった。
「残念だったねぇ。今度こそ、終わりにしようかぁ」
「お前、喋れるのか!?わざとバカになった振りをしたのか」
昨夜は嬉しそうに笑い声をあげる。
「はっ。俺の演技もぉ捨てたもんじゃないだろぅ?」
俺を持つムカデの脚が振り上げられる。振り上げられて、振り下ろされる。
美頼、麻尋、そして俺。俺に3人分の命は、重すぎた。いや、もうひとつの人格を含めたら、4人分か?
俺が死んだら、みんな死ぬ。
──いや。
だめだ。死んでたまるか……!
「優衣さん!!!!」
「まっかせなさーいっ」
出口に空いた穴から、聞き慣れた声がする。
出口の先に現れたゲームクリアへの道。俺が混乱しながら喜んだそれ。
血で汚れてこそいるが、彼女は紛れもなく、正真正銘の、優衣さんだったから。
案の定咲夜の動きが止まる。優衣さんの方向に顔を向けて。彼は混乱していた。
そして響き渡る銃声とともに、咲夜の額に大量の風穴が開く。
「アキ君が取らずに置いてってくれたおかげよ」
そう言って彼女は、上空5メートルほどの高さで、咲夜の脚から落ちてきた俺を、しっかりと受け止めてくれた。
これは単なる偶然だったが、銃弾を取らないで、本当によかった。
俺が優衣さんに抱き抱えられている横で、咲夜が大きな音を立てて倒れ込む。床のホコリが宙に舞った。コンマ1秒の形勢逆転により、チェックメイト、いや、王手する時間もないまま、デスゲーム『将棋』はとうとう終わったのだった。
先程のムカデと、今回のムカデの違いは、動きを止められたことだ。
「動いてる対象を撃ち抜くのって、とにかくムズいんよね。また囮になってもらっちゃったけど、上手くいってよかったわ」
俺の体をゆっくりと下ろしながら、優衣さんは優しく笑った。
絵面としてはか弱い女子高生が救世主的な女性に助けられたシーンではあるが、中身男な面、少し恥ずかしい気もする。
さっき穴が空いた時、優衣さんがいて驚きはしたが、静かにするようジェスチャーされて、声を上げることは無かった。動きを止めるよう言われて咄嗟に囮になった訳だが……囮役も板についてきたな。
「それにしてもなんで……」
そう俺が尋ねると、優衣さんは髪をこう、なんだ。バサッとやった。
「言ったろう?私は君達みたいに死ぬことは無いってさ」
そして今度は得意げに、彼女は微笑んだ。
死と隣り合わせだっていうのに、俺はそんなことを考えていた。ここが現実ではないという感覚に、少し慣れてきたのかもしれない。
だっておかしいでしょ?!敵のステータスとこっちのステータスのバランスが悪すぎて、運ゲー要素半端ないでしょ!?
せめて効き目のある武器が欲しい。
「ウハィハィヒァッッ!シャマケシチフライガ」
何を言ってるんだ。社負け7フライ?
この密室で、大型ムカデと共に閉じ込められている。どう行動するのが正しいのだろう。
「まずはここから出るべきか。武器もないし……」
拳銃の弾も、ショットガンの弾も、優衣さんのところへ置いてきてしまった。今思えばあそこで気負わずに貰うべきだった。
「ムカデの力なら出口も開けられるか?」
咲夜は中央のモニター中心に、グルグルと渦巻いている。その勢いで早速向かってきたムカデの顔に、俺は刀を突き立てながら回避した。少し肩をぶつけてしまう。結構痛い。
だが咲夜の方も、断末魔のような金切り声を上げている。そのまま断末魔となって欲しいところだ。
俺が今確認出来る限り、この部屋から外へ通じる道は一つしかない。ここに入ってきた時の入口だ。モニターを見れば抜け道も分かったかもしれないが、その前に壊してしまったのが、今裏目に出ている。
とにかくあそこを出口として、咲夜に突き破って貰うのが妥当じゃないだろうか。最悪マンホールのところまで戻って、初っ端の病院でやったように、ムカデ同士で戦って貰うことも出来るかもしれない。
安直な考えだが……そんな念密に練ってる余裕もない。
「ほーら!どこ見てんだよ!こっちだこっちー!馬鹿かよー!」
例の電子ドアの前まで行って、美頼のハイトーンボイスで挑発してみる。
思考も少し退化しているのだろうか。一直線に咲夜の頭が突撃してくる。
それを俺はさっきの要領で避ける。
──ドゴーンッッ
「どうだ!?」
砂煙が立ち込める。俺が少し咳き込む間にも、ムカデの足が周期的な金属音を立てている。
出口の方向に目を凝らすと、見事に穴が空いていた。そして……
「え?」
出口の先に、またゲームクリアへの道が見えた。混乱するとかではなく、普通に喜んだ。
だが喜んだのもつかの間、ムカデの姿が見えないことに気がついた。
「どこだ……?」
小声で俺はつぶやく。微かに聞こえる、カタカタカタという足音。それがどこから聞こえてくるのか、理解した時にはもう、手遅れだった。
「……!上か……?!」
見上げた瞬間に、視界が回った。ムカデの前脚に掴まれて、持ち上げられたことが分かった。
「残念だったねぇ。今度こそ、終わりにしようかぁ」
「お前、喋れるのか!?わざとバカになった振りをしたのか」
昨夜は嬉しそうに笑い声をあげる。
「はっ。俺の演技もぉ捨てたもんじゃないだろぅ?」
俺を持つムカデの脚が振り上げられる。振り上げられて、振り下ろされる。
美頼、麻尋、そして俺。俺に3人分の命は、重すぎた。いや、もうひとつの人格を含めたら、4人分か?
俺が死んだら、みんな死ぬ。
──いや。
だめだ。死んでたまるか……!
「優衣さん!!!!」
「まっかせなさーいっ」
出口に空いた穴から、聞き慣れた声がする。
出口の先に現れたゲームクリアへの道。俺が混乱しながら喜んだそれ。
血で汚れてこそいるが、彼女は紛れもなく、正真正銘の、優衣さんだったから。
案の定咲夜の動きが止まる。優衣さんの方向に顔を向けて。彼は混乱していた。
そして響き渡る銃声とともに、咲夜の額に大量の風穴が開く。
「アキ君が取らずに置いてってくれたおかげよ」
そう言って彼女は、上空5メートルほどの高さで、咲夜の脚から落ちてきた俺を、しっかりと受け止めてくれた。
これは単なる偶然だったが、銃弾を取らないで、本当によかった。
俺が優衣さんに抱き抱えられている横で、咲夜が大きな音を立てて倒れ込む。床のホコリが宙に舞った。コンマ1秒の形勢逆転により、チェックメイト、いや、王手する時間もないまま、デスゲーム『将棋』はとうとう終わったのだった。
先程のムカデと、今回のムカデの違いは、動きを止められたことだ。
「動いてる対象を撃ち抜くのって、とにかくムズいんよね。また囮になってもらっちゃったけど、上手くいってよかったわ」
俺の体をゆっくりと下ろしながら、優衣さんは優しく笑った。
絵面としてはか弱い女子高生が救世主的な女性に助けられたシーンではあるが、中身男な面、少し恥ずかしい気もする。
さっき穴が空いた時、優衣さんがいて驚きはしたが、静かにするようジェスチャーされて、声を上げることは無かった。動きを止めるよう言われて咄嗟に囮になった訳だが……囮役も板についてきたな。
「それにしてもなんで……」
そう俺が尋ねると、優衣さんは髪をこう、なんだ。バサッとやった。
「言ったろう?私は君達みたいに死ぬことは無いってさ」
そして今度は得意げに、彼女は微笑んだ。
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