推理問答部は謎を呼ぶ -Personality Log-

猫蕎麦

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第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]

Log.55 formidable antagonist

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 今の咲夜にとって、美頼が王将で、俺が捨て駒だ。

 俺が咲夜と一戦交えて、その間に美頼がどこかに逃げようとして転ぶ。そこで俺がわざとやられたフリをして身を引けば、あいつは美頼を斬りに行くはずだ。

 「そぉろそろ作戦会議は終わったかい?流石にもう時間は与えられないからねぇ。暇で仕方が無いんだから」

 咲夜の声がすぐそばで聴こえる。美頼と2人、急いで机の陰から離れると、にやけ顔の咲夜がこちらを見据えていた。

 「わ、わざわざ待っていてくれたのか。それはありがたいな!」

 美頼が言った。とてつもなく棒読みで。

 「そんな緊張してて王将が務まるのかぁ?秋君、君にゃあ少しがっかりだぁ」

 舐め腐ってやがる。俺は小声で美頼に話しかける。

 「これから俺が咲夜を斬りに行く。その横をお前は逃げて、転べ。つまり囮になるんだ」

 ゾンビの時の俺みたいに。そう言うと、美頼はしっかりと頷いてくれた。こういう時、長年の付き合いからくる信頼感は格段に違う。

 「はっ、めんどくせぇ。まとめて切り刻んでやるよぉ」

 「こっちよ!!」

 俺必死の美頼アピール。まんまと俺の刃に咲夜の刃がぶつかって、本物の美頼がフリーになる。

 美頼が脇を逃げようとするのを見て、咲夜は鼻で笑った。

 「意味がわからないなぁ。せめてさぁ、場所を把握できない状態で挟み撃ちとかじゃぁないのかい」

 「それはどうかな。私達にも考えはあるのよ?」

 俺も笑みを浮かべてやると、咲夜の表情が一瞬曇った。

 俺が刃を跳ね返して、わざと突きを外す。そこに咲夜は案の定斬りかかってきて、俺は避けるので精一杯だった。尻餅をついて下半身に痺れる痛みが走った。

 そこで段取り通り、美頼が大胆に転んだ。なにもないところで。

 「おやまぁ、こんな勝ち方でいいのかぃ。つまらないねぇ」

 そう言いながらも咲夜は、容赦なく美頼に向かっていった。見た目は仲山秋の美頼に。

 「ち、ちくしょおーっ」

 美頼の大根役者ぶりに、ばれないかヒヤヒヤする。

 仰向けのまま、彼女は咲夜の刃を短刀で受け止めている。が、明らかに劣勢。短刀がはじき飛ばされるのも、時間の問題だった。

 「チェックメイトだぁ」

 だからそれチェスだって。

 とにかく、そう言った直後、美頼は心臓の辺りをブスリと刺された。咲夜が刀を引っこ抜くと、辺りに血しぶきが舞う。グロい。本当にリアルだ。自分の死を眺めているようで、嫌な気分になる。

 同時に、こんなリアルなゲームを、世界を作り上げた蒲通咲夜は、本当に天才プログラマーだ。そんなことを少し考えた。

 「うがぁぁぁぁー」

 「アキ!!!!」

 変な叫び声をあげる美頼に、俺はとりあえず叫んだ。彼女はこっちを向いて言う。

 「あとは、頼んだから……!」

 「はっ、お前が死んだら皆殺しだっつってんのになぁ。こんな馬鹿だったのかこいつぁ」

 未だに全く疑っていない咲夜。彼の目の前で、仲山秋が今、死んだのがわかる。だがそれはゲーム内の死だ。

 彼はちょうどこちらに背を向けている。もう死んだはずの俺、美頼の体に、警戒もしないで。

 「あっけなかったなぁ。まー楽しめたっちゃぁ楽しめたがぁ……これで終わりかぁ……ぐぁ!?」

 「馬鹿はお前だ!!!!」

 呑気に独りごちる咲夜に、俺は刀を突き立てた。それはゆっくりと、真っ直ぐにその心臓を貫く。信じられないとでも言うように、咲夜はこちらを振り返った。

 「どう……してぇ……!」

 「お前みたいなやつに……この俺が簡単にやられると思ったか!!!」

 それっぽくカッコつけてみる。その一言で、彼は察したようだった。

 「なっ……そんな……まさか入れ替わって……?!」

 刀身を引き抜くと、返り血を浴びた。生暖かい感触が気持ち悪い。

 そのまま咲夜は倒れる。

 正直俺はその時、油断していた。ここがどういう世界なのか忘れていた。

 ──奴のを狙うべきだった。

 「はっ……まぁいい。1回戦は俺の負けだぁ……がっ」

 「1回戦?」

 その時俺は見た。こんな状態でも、咲夜は笑っていたのだ。刀を持つ手とは逆の手に、何か注射器のようなものを持って。

 「……!まさか」

 「もう遅いぞぉ……うひゃひゃ……うひゃ……」

 注射針から得体の知れない液体が、咲夜の体に侵入する。と共に、彼の体は膨張を始めた。

 ゾンビ系にはよくある展開だった。ボスがゾンビ化するっていう……俺はそれに気づけなかった。

 目の前で背骨が曲がり、伸び、そして体のそこらじゅうから何かが生えてくる。顔の周りは何かに覆われて、どんどんとそれは大きくなって……。

 「まじかよ……」

 目の前の、見覚えのある光景に、絶望しかなかった。

 それは咲夜の顔をした、大きな大きなムカデだった。


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