推理問答部は謎を呼ぶ -Personality Log-

猫蕎麦

文字の大きさ
74 / 92
第3章>毒蛇の幻像[マリオネット・ゲーム]

Log.68 マンインコース

しおりを挟む

 *

 辻堂桃羽と古戸霧レイが入部に来たのは、5月1日のことだった。そして今日は5月5日。ゴールデンウィーク真っ只中だ。

 辻堂の話は、次のようなものだった。

 「私の祖父は代々人形師をやってきた家系で、からくり人形を作ることを専門としていたわ。毎日人形を作って、私と遊んでくれた」

 個人的に作る人形はいつの日か千体を超える量になっていた。そこで彼は人形だけのために、家を建てたのだという。

 「『人形の家』と、私達はそのまま呼んでいる。ただそれ自体も、からくり屋敷だったのよ。人形達がまるでそこで暮らしてるかのような動きをするの」

 カーテンが勝手に開いたり、電気がついたり。人形がひとりでに廊下を歩き回ることもあるという。かと言ってそういう現象のことはさほど問題では無かった。辻堂の祖父はそれだけ実力のある人形師らしいからだ。

 「謎っていうのは……祖父が亡くなってから最近その家で発見したことなんだけれど」

 からくり人形という興味深い内容に、既にみんな聞き入っていた……一人だけ古戸霧は理解が難しいのか天井を眺めていたが、まあみんな聞き入っていた。

 「会話できるのよ」

 「え?」

 少し想像と違ったため、反射的にそんな声が俺の口から出た。辻堂は真顔でもう一度言った。

 「からくり人形と会話ができるのよ」


 


 ────それにしても休日というものは。


 電車に揺られながら、俺はうんざりしていた。ぺちゃくちゃ喋るJKや、一方的に雑学を話し続ける茶髪男子。読書に夢中で周りを見ない女もいれば、窓の外を見てはしゃぐ男のもいる。

 ……全員俺の部員じゃねえか。

 といってもこれは部活の遠征というよりは、ただの旅行だ。学校の先生は全く関与していない。

 千夜の話を聞きながら電光掲示板を眺めていると、まもなく駅に着くという表示に切り替わった。ちなみに俺らが降りる駅まではまだ三駅ほどある。特別快速なのでそれぞれの駅の間は10分強だ。とにかく長いってことが伝わってほしい。

 「うわー、めっちゃ人いるねこの駅」

 美頼がホームを見て声を上げる。千夜がそれに続き口を閉じて、満員電車に備えて端に寄った。俺らは開くドアのちょうど反対側のドアの前に集まっている感じだ。

 そして扉が開いた瞬間、戦が始まった。まず降りようとする人の流れ。その流れに逆らって一人だけ扉の真ん中で頑張る人がいる。だがその努力も虚しくあっという間に外に流されてしまった。次は入ってくる人の波だ。押し寄せてくるのは、降りた人の倍はあると思われる人の量。あっという間に車内はぎゅうぎゅう詰めになってしまった。

 美頼と麻尋、そして古戸霧がドアに押し付けられて、ドアの脇の両側にそれぞれ辻堂と千夜が配置された。俺は行き場をなくして千夜と美頼の間に挟まれている。失敗したなと、ついつい憂鬱な顔になる。

 「そんな顔するなよ。僕は2人の邪魔なんかしないよ」

 「お前はいつの間に俺と美頼がいい感じの設定を作り上げたんだ」

 「窮屈すぎてこっちはそれどころじゃ無いんですけど?」

 美頼がこっちを睨みつけてくる。千夜の発言なのに俺まで非難することないじゃないか。目をそらすと、麻尋の顔が目に入った。それは目を細めながら何かに耐えている表情に見えた。俺は率直に尋ねた。

 「どうしたんだ薪原」

 「え、いや……ちょっとね」

 あからさまに口数が少なくなっている。だが彼女の周囲にはこれと言って特筆すべきことは無いのだ。辻堂も読書はやめて様子を伺っている。隣の古戸霧は心配そうに麻尋の顔を覗き込んだ。

 「大丈夫ですか?」

 「あー、うん。ありがと……レイちゃん」

 だが次の瞬間、電車の振動とともに麻尋の体は大きく揺れた。

 「あ……ごめ、やっぱむり」

 「マヒロン!?」

 崩れ落ちながら古戸霧に支えられる麻尋。彼女は多分その時気を失っていた。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わり、転校してきたのは、初恋の相手だった——。 鬱々とした気分で二学期の初日を迎えた高須明希は、忘れかけていた記憶と向き合うことになる。 名前を変えて戻ってきたかつての幼馴染、立石麻美。そして、昔から気になっていたクラスメイト、河西栞。 親友の田中浩大が麻美に一目惚れしたことで、この再会が静かに波紋を広げていく。 性と欲の狭間で、歪み出す日常。 無邪気な笑顔の裏に隠された想いと、揺れ動く心。 そのすべてに触れたとき、明希は何を守り、何を選ぶのか。 青春の光と影を描く、"遅れてきた"ひと夏の物語。   前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章 後編 「青春譚」 : 第6章〜

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

処理中です...