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第3章>毒蛇の幻像[マリオネット・ゲーム]
Log.69 サイナンロード
しおりを挟む──「ウチさ、実は閉所恐怖症で……」
麻尋が倒れてから次の駅で俺たちは降りた。そこでなんとかベンチに座らせると、彼女は目を覚ました。その説明に、みんな納得だった。
「動けなくなると怖くてパニクっちゃって。直したいんだけどね」
「生まれつき?」
美頼が水を渡しながら聞いた。
「ううん、小学生の時にね。誘拐されたことあんのよ。ほら、ウチってお金持ちの家じゃんか。そこで閉じこめられたのが残ってて」
美頼は気まずそうな顔をした。そんなことがあったのかと、つい場の空気が重くなってしまう。それを感じたのか、水を口にした麻尋は慌てて続けた。
「いや、みんなは気にしなくていいよ!?ただウチがトラウマが克服できてないってだけで……言いそびれてて倒れちゃったウチが悪いし」
「でも辛かったよね、ごめんね」
美頼がみんなの意見を代弁してくれる。背を向けて無言だった辻堂は、スマホをタップして言った。
「ここからでも歩けなくはないわ。歩く?」
「ちょっと、お願いしちゃおうかな……」
あはは、と麻尋は力ない笑顔を浮かべた。誰も反対するわけがなかった。……そんなこんなで今は山道を歩いている。
柵はロープが引かれてるだけの獣道。茶色くなった桜の花びらが石畳に散らばっているから、ここら辺の木は桜だろう。緑がまばらな木々の下、俺ら部員はゆっくりと歩いていた。
「辻堂さん、あと何分くらいで着く?」
千夜が尋ねる。
「15分、てところかしら」
辻堂は素っ気なく答えた。みんな汗だくだ。夏が近づいたからか、外気の温度も上がってきた気がする。一応パーカーに八分丈のズボンという軽装できたから徒歩には向いているが、道をはみ出た草木が時たま足に切りかかってくる。山道には向いてなかったなと、少し後悔した。
その時、先頭にいた辻堂が立ち止まった。すぐ後に続いていた美頼が止まりきれずにぶつかる。
「ぶわぁっ」
既視感。
「誰……?」
辻堂の声だ。その目線を追うと、狭い山道のど真ん中に大きな影が見えた。それは人影だが、明らかに大きさがおかしかった。2メートルはある。そんな何かが、立ちはだかっているのだ。
「ジュウイチネンマエ……」
わずかに機械的な男の声だ。
「……逃げるわよ」
「え?」
振り返った辻堂は小声でそう言った。やけに焦っているその声に、千夜が反応する。一番後ろだった俺は、あまり前が見えなかった。ただ、緊迫感だけは伝わってきた。
「や、やばいよこれ!」
美頼が何を見たのか落ち着かない声を上げる。気が動転しているのかその声は裏返りまくっている。その後ろの麻尋はこちらを向いて逃げようとする。そのまま古戸霧は相変わらずよくわかってない顔でぶつかられる。
俺もとりあえず踵を返して走り出すが、目の前に例の人影が降りてきた。逃げ場はなくなる。
「な、嘘だろ……」
振り返ったが先程の場所にはもう人影はない。宙を飛んできたようだ。
そしてそこから、俺の記憶はない。
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