推理問答部は謎を呼ぶ -Personality Log-

猫蕎麦

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第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]

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 「なんだ……ゲームの世界だったのか。よかった……」

 俺がそう呟くと、優衣さんは真剣な顔になる。

 「いや、安心しちゃダメだよ。この世界で死んだら現実世界での君も死んじゃうからね」

 「はい!?」

 願ってもみない展開だ。そんなゲームは漫画やアニメの中だけにしてもらいたい。

 「どういう事ですか?」

 「自分の身体をつねってごらん?痛みを感じるだろ?」

 俺は言われた通りにしてみる。痛みはあった。そういえばこの病院で目覚めた時にも自分の頬をつねっていたのを思い出した。あの時と同じ痛み、ピリピリした鋭痛だ。

 痛みに顔をしかめる俺を見て、優衣さんは説明を再開する。

 「実はね。このゲームの本体は、棺桶型になってんのよ。ミヨっちゃんの身体は今丸ごと機械の中に入ってるものと考えた方がいいわ」

 俺はヘルメット型のものを想像していたが、違うようだ。優衣さんによれば、機械の内側は体全体に触れるようになっていて、痛みを感じるコマンドが送信されるとそこに電流が流れるらしい。

 電流の強さは10段階に分かれていて、痛みに応じて強さは変わるという。

 「つまり、致命的な怪我を負えば身体に強力な電流が流れるってことですか」

 「その通り。さっきみたいな怪物に心臓を一突きされれば、実際の胸部にも10の電流が流される。致死量の電流がね」

 ぞっとしない話に、俺はぞっとした。よく今まで生きてられたな……。となると、麻尋や美頼……美頼は多分俺の体に入っているのだろうが、彼女達の安否がとてつもなく心配だ。

 「そうだ、電話……」

 スマホをポケットから出すと、ミッション完了の通知と、次のミッションが表示されていた。

 [ミッション3:柊木美頼と合流しろ]

 電波の棒を見ると、1本だけ棒が立っている。圏外ギリギリというところだ。

 優衣さんは辺りを見回しながら、俺の動きに気がつく。

 「友達に電話するの?多分電波はまだ通じると思うわ。電線は壊れてるけど、人工衛星とか経由で電波が来てるはず。その設定のはずだから」

 今のうちにかけちゃいな。私が見張っといたげる。と、彼女は言って、銃を手に警戒態勢に入った。

 俺はスマホを開いて、電話帳を見る。何人かの中に、アキの名前もあった。多分これにかければいいはずだ。

 「出てくれ。頼む……」

 しばらくの間のあと、プルルルルと呼び出し音が鳴る。一応電話はかかったようだった。

 『はーい、もしもーし……』

 低めの声が囁いていた。それは紛れもなく俺自身の声だ。

 「みより?美頼か?」

 俺は優衣さんには聞こえないように声をひそめる。すると、電話越しにため息が聞こえた。俺はこいつが美頼だと確信した。

 「やっと連絡が取れたのにいきなりため息はないだろ」

 「だって安心するよりも先に本当に体が入れ替わってるって事実にたどり着いたんだもん」

 口調や雰囲気は美頼だが、声色は俺のままだ。こんなのと合流なんて気味が悪いったらありゃしない。

 「でもよかった。無事なんだな」

 「そうね。とりあえず今は鍵かけて戦車の中に隠れてるわ」

 「なんだそれ。これ以上ないくらい頑丈な……え?戦車?」

 「そう、戦車」

 「お前今一体どこにいるんだ??」

 声量を下げるのも忘れて、素の口調になってしまった。案の定優衣さんが怪訝な顔で振り向いたので、苦笑いで誤魔化した。

 「なんかどっかの軍隊の基地みたい。名前はよくわからないけど……それよりこれ、どういう状況なのか教えなさいよ!!!アキは見てないの??あの……」

 「ゾンビでしょ。見たよ。それにもっとおっかない怪物もいた。で、絶体絶命の所を優衣さんに助けてもらったの」

 流石にそろそろ怪しまれそうなので、普通の声で話すことにした。これまでの経緯を美頼に説明する。

 「まあ、そういうわけよ」

 「どういうわけでそんなキモい口調なのよ。じゃあなに、その優衣さんって人と今いるわけ?」

 「そうそう。今代わるね」

 「は!?ちょっ、まっ……」

 優衣さんが俺の電話に聞き耳を立て、手を差し出していたので、代わることにした。だが、美頼の不意を打ってしまったようだ。代わった直後に優衣さんが遠慮ない笑い方をする。

 そういえば俺の声だったから忘れていたが、あいつはコミュ障だった。申し訳ないことをしたな、とちょっと思った。ちょっとだけ。

 優衣さんは美頼としばらく話していたが、そして電話を切ってしまった。まだ聞きたいことはいくつかあったのだが……

 「これからどうするんですか?優衣さん」

 「もちろん、アキ君を助けに行くに決まってるでしょう?運のいいことに例の基地の場所には心当たりがあるのよ」

 得意げにウインクしながら、彼女は笑みを浮かべる。

 空はまだ赤い。
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