眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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ヴァンパイアポリスの事件ファイル ②

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小部屋では、何人かのコスモスグループのスタッフが待ちかまえていた。
俺とアヤメ。杉山さんと灰野、各々に担当スタッフが付く。

「こんばんわ。君たちは恋人同士?」

「そうです。」

(えええええっ!)

俺が否定するより早く、アヤメが答える。

(恋人でいいのか、、。友達のほうが良くないか?)

「私は、君たちの担当スタッフの白鳥しらとりです。よろしくね。それで、君たちはなんでコスモスグループの事を知ったのかな?」

「私の友だちの友だちが、最近こちらのグループのミーティングに参加して。それで。」

「ああ、そうなんだ。それはラッキーだったね。これから、一緒に幸せになろうね。」

(けっ。何が一緒に幸せだよ。)

「コスモスグループの商品は知ってる?」

「良く知りません。友達から、やったらやっただけ儲かる素晴らしいシステムって聞いただけだから。」

「そうなんだよね。それが、このグループの一番のポイント。資格や能力はいらない。いるのはやる気とほんのちょっとの投資だけ、」

「投資?ですか。」
俺が聞き返す。

「ああ、心配しないで。現金がなくってもローンが組めるから。それに、さっきの佐々木さんの話。聞いたでしょ。コスモスAの効果。あれはホントにすごいんだ。うちの薬箱には、コスモスAしか入ってないんだけど。ほとんどの体の不調は、コスモスA一粒でで治っちゃうんだから。それと、お兄さん、ずいぶんと痩せてるみたいだけど、マッチョになってみたくない?この写真見て!」

そう言って白鳥が一枚の写真をテーブルに置いた。
写真には、100キロオーバーと思われる巨漢の男が笑顔で写っている。

「これ誰だと思う?実はこれ、私なんですよ!」

確かに、この写真の男と白鳥はどこか似ている。

「コスモスAを飲み始めたら、自然とスッキリ痩せちゃって。すごいでしょ。この他にも、女の子には美肌効果やしわやシミ防止の効果もあるらしいよ。まぁ、彼女さんは、すごくキレイだから必要ないかな~。」

白鳥はしゃべり続ける。

「さて、君たちは、お金が欲しいんだったよね。どうして?」

「私たち、同棲したいんです。」
アヤメが口から出まかせを言う。

「でも、私の家族から反対されていて。親の援助は望めないし。それに、彼の稼ぎでは同棲しても長くは持たないから。それで、何か割のいい仕事はないかなって探してたんです。それに、この仕事だったら、二人でできるから愛する彼といつも一緒にいられるでしょ。」

アヤメの口からポンポンと嘘が飛び出す。
にしても、「愛する彼」は言い過ぎじゃないか???俺はアヤメのウソに赤くなるのを感じてうつむいた。

「そういう事情だったのか。大変だね。もう安心して、コスモスグループが君たちを全力でバックアップするから。」

「それで、会員になるにはどうすれば。」

「まず。最初に販売するための商品をまとめて購入してもらう必要があるんだよね。新商品のコスモスEX90粒入りを100本買い取ってもらうんだけど。100本で48万円。これを一本6千円で販売するから、1本につき、1200円の儲け。100本だと12万の儲けになるよ。これだけ良い商品だから、すぐに売り切れて、すぐに追加で購入することになると思うけど、その時は10本単で購入できるから、お金がかかるのは最初だけ。自分で販売する分を売るだけでも、十分な儲けが出ると思うけど、さっきの説明会で金ケ瀬さんが説明したように、君たちが勧誘した誰かがコスモスグループに入会した場合、その入会者の売り上げの一部が君たちにも入るって素晴らしいシステムなんだ。君たちが入会させた会員が入会させた会員の売り上げも君たちに入るんだよ。だから、君たちみたいに、お金が欲しいのであれば、自分たちで販売するよりも。勧誘の方に力を入れることを勧めるよ。」

「48万、、。」

「48万円のほかに、会員登録の為に事務手続きの初期費用が2万円。あわせて50万が最初にかかるお金です。現金の持ち合わせがなかったら、金利の安いローンもあるけど。」

「いいえローンは結構です。彼と同棲するために貯金していたお金が、そのくらいならあります。」

「君ぃ、いい彼女じゃない。美人だし、しっかり者だし。」
白鳥が俺にお世辞を言う。確かに、アヤメは美人だし。しっかり者だ。彼女じゃないけどね。

「じゃ、この同意書をよく読んで、同意書の一番下にあるここにサインしてね。どちらか一人の名前でOK。彼女さんの貯金を使うんだから彼女さんがサインしたほうがいいかな。」

アヤメは同意書を読み、偽名でサインを済ませた。

「じゃ、お金は次回の集会に持ってきてくださいね。それと、サンプルに新商品のコスモスEXを1瓶あげるからぜひ試してみて。みんなで幸せ~!」

(新興宗教かよ!みんなで幸せ~って。マジキモイ。)

その後、杉山さんもサインを済ませ、サンプルと入会案内を受け取り、4人で車に戻る。

「杉山さんの方はどうだった?」

「私たちは、姉弟きょうだいという設定にしました。たぶん疑われてはいないと思います。お二人の次回のミーティングの日時はいつですか?」

俺は、白鳥から渡されたミーティング表を杉山さんに渡す。

「大丈夫です。次回も同じ日、3日後の金曜日です。今回貰ったサンプルを科捜研に回すので、回収します。」

俺はカバンの中から、コスモスEXを取り出し杉山さんに渡す。杉山さんはカバンから証拠保管袋を取り出し、中にコスモスEXを淹れチャックを閉じた。

ヴァンパイアポリスに到着する。
杉山さんが早速サンプルを科捜研に持っていき、残りの3人は報告のため主任室に向かう。

コンコン。

「はいりなさい。」

アヤメを先頭に、灰野、俺が続く。

「お疲れ様だったね。それで、どうだったかな。」

「怪しい薬を扱っているのは事実でした。サンプルは、今、杉山さんが科捜研に持っていきました。それと、その販売方法にも問題があります。ねずみ講って言うんですか?なんか、新興宗教っぽくって気持ち悪かったです。」
アヤメが代表して報告する。

「はははは、そうか。気持ち悪かったか。じゃ、報告書を各チームごとに提出するように。ごくろうさん。」

俺たちは、主任室を出て事務所に向かう。
事務所では、留守番のチームが興味津々で待ちかまえており、既に科捜研から戻っていた杉山さんの周りに集まっていた、ノエルが俺を見つけて近寄ってくる。

「一宇、どうだったの?杉山さん何にも教えてくれないんだよ。「報告書に詳しく書きますので、それを見てください。」とか言っちゃってさ。情報共有って大事じゃん。ノエルはそう思うよ。」

「どうって、新興宗教っぽいハッピーな奴らが、怪しい販売方法で、怪しい薬を売ってた、、、。かな。」

「えええ、うける、何それ。面白そう!ノエルも行きたかったなぁ。わかりやすい説明だったけど、報告書にそんなこと書いちゃだめだよ。報告書は事実を端的に書いてください。はははは、これ杉山さんの真似ね。」

俺はパソコンを立ち上げ、報告書のテンプレートを立ち上げる。

「事実を、端的に、、、、か。」

俺は今夜あったことをできるだけ詳しく、時系列に入力していく。
入力しながら、今夜あの会場にいた人々の異様さを思い出す。

それと、アヤメが言った「愛する彼」をいう嘘を思い出して、また顔が赤くなった。

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