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ヴァンパイアポリスの事件ファイル ①
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「みなさまこんにちは。奥様テレビショッピングのお時間です。」
「日下アナは、身の回りにヴァンパイアの知り合いやお友達はいますか?」
「ご近所に、ヴァンパイアのカップルが住んでいますし、この「伊達テレビ局」でも深夜帯には、たくさんののヴァンパイアスタッフが勤務していますから、たくさんいる方だと思います。」
「ヴァンパイアは他人の考えが読める能力があることをご存知ですか?」
「知ってます、知ってます。ですから、ヴァンパイアの同僚と話をしたりするとき、読まれてるんじゃないか気になってしまって。会話が楽しめなかったり、すごく残念なことだと思うんですよ。」
「そこで、本日ご紹介したい商品がこちらです。”貼るだけ簡単!考え読ませませんパッチ!”」
「パッチですか?こんなシールみたいなもので、本当に考えを読まれないんですか?」
「はい。そうなんです。特許取得のこの小さいパッチは、耳の後ろや首などの頭のちかい部分に貼るだけでヴァンパイアに考えを読まれない画期的商品なんですよ。」
「これなら、安心してヴァンパイアの同僚や友人と話ができます。それに、パッチの色も肌色で目だたないですね。」
「しかも効果は、24時間。防水加工ですから、プールやお風呂も安心です。」
「これは、パッチをつけてる人の体や、話相手のヴァンパイアの体に悪影響は出ないんですか?」
「はい、このパッチにしみこませてある薬効成分は、すべて天然のハーブなんです。ちょっと匂いを嗅いでみていただけますか。」
「ほんのりと良い香りがしますね。」
「今回は、特別にこのパッチの持ち運びに便利なこちらのケースをお付けして、180枚、約6か月分が5,400円で購入できるんです。1日に換算するとたったの30円。コンビニのコーヒー1杯よりお安いんですよ。」
「うわー。私も早速、使ってみたいです。それで、注文方法は?」
「ご注文は、通話料無料のフリーダイアル0120-〇▽□ー4649まで。フリーダイアル 〇▽□番のヨロシクまで。今回、定期コースをお申込みいただきますと、定価より20%お安い、特別価格でご購入いただけます。詳しくはオペレーターにお問い合わせください。」
職場の同僚に「ちょんまげランド」の土産を持ってきた。だれでも自由に食べてよいお菓子のコーナーに「ちょんまげサブレ」を置く。
コーヒーサーバーから熱いコーヒを注いでいると常盤さんが走ってきた。
「本田さん。夕べは、ごめんなさい。」
「え?ごめんなさいって何が?」
「ちょんまげランドで、、、、。」
「あああ。赤目と常盤さんも遊びに行ったんだね。デート?」
「違うんです。赤目様が私の頭の中を読んで、本田さんとアヤメ様が「ちょんまげデート」するって知って、追いかけたんです。私がうかつでした。赤目様はアヤメ様の事になると見境が無くなるというか、、、。」
「常盤さん。気にしなくっていいよ。何にもなかったんだし。」
「いいえ。そういうわけにはいきません。私、赤目様に怒ってます。これ見てください。」
そう言って常盤さんは、うなじを見せる。うなじには丸い絆創膏のようなものが貼ってある。
「それ何?」
「本田さん知らないんですか?これ今、通販や雑誌で話題なんですよ。ヴァンパイアに思考を読まれないためのパッチです。」
「へぇ~。そんなのあるんだ。」
「私、今まで赤目様を信じてたから、こんなの貼るつもりはなかったんです。でも、本田さんにこんなご迷惑をお掛けしてしまったからには、そうも言ってられません。」
「まぁ、赤目も悪気があったわけじゃないだろうし、ほどほどで許して、、、。」
「アヤメっちぃ~。」
赤目が事務所に入ってくる。
「どうして、あんな貧乏くさい男とちょんまげランドに行ったの?ちょんまげランドに行きたいなら、僕が貸し切りで連れて行ってあげたのに。」
「お断りします。」
相変わらず、アヤメは赤目につれない。
「また、そんな冷たいこと言って~。アヤメっちのお姫様姿が可愛かったから、僕、いっぱい写真撮ったんだよ。」
赤目が、ポケットから写真の束を取り出す。
俺は後ろか赤目に近づき、その写真の束を取り上げた。
「、、って、全部俺は見切れてんじゃねぇかよ!ふざけんな。没収!」
俺はポケットに写真の束をしまう。
「返せよ!僕の写真だぞ。それに、僕はお前の写真なんかいらないんだよ!」
「お前は、ストーカーか。没収だよ没収。」
俺たちがもみ合っていると半沢主任が事務所に入ってくる。
「おーい、みんな静かにしろ。ちょっと集まってくれ。」
主任の元に全員が集合する。
「ヴァンパイアが人間に脱法ドラッグを売りつけていると通報があった。今夜、その団体が集会を開いているらしい。今から、刑部と本田、杉山と灰野の4人で通報のあった集会場所へ向かって確かめてきてくれ。それと、現場にはヴァンパイアポリスだとばれないように、私服で向かってくれ。場所は仙台市若林区、、、、、。」
「脱法ドラッグですか。今どきそんな前時代的なものがあるんですね。」
現場に向かう車の中で、杉山さんががつぶやく。
「脱法ドラッグって、なんですか?」
灰野が聞く。
「脱法ドラッグてというのは、2010年ごろ。日本で問題になった薬物で、既存の麻薬の化学構造を少しだけ変えて、法の網をくぐって販売されていた薬物です。危険ドラッグとか、脱法ハーブいろいろな名前で呼ばれていました。脱法ドラッグに関係した事故や、暴力事件が多発。それに、脱法ハーブを吸った人が急死したりして当時は大問題だったようです。結局はそれらを包括して取り締まれる法律ができて、日本からはなくなったはずなんですけど。」
俺たちは、通報者から教えられた場所に到着する。
意外にも、その場所は「若林区民センター」だった。
ヴァンパイアとの共存開始以降、市民センターや図書館などの公共施設も、深夜まで解放されている。このセンターは1時間単位で料金を支払えば、だれでも利用できる。
(えええええ、区民センターで脱法ドラッグの販売?)
受付で聞くと、今夜使われているのは二階の会議室1室だけ。さっそく俺たちは2階の会議室に向かった。
二階会議室の前には、「すべての人に健康を!健康食品 コスモスクラブ研修会 会場」と張り紙がしてあった。
中に入ると、受付の若い女性が、
「もう始まってますよ。急いで、初めての方には、後でサンプルも差し上げますからね。」
と言って後ろの席に僕らを案内した。
中は、塾の教室のような感じで、壇上では金ケ瀬という金髪に金のネックレスを付けたチャラい男がマイクを手にして熱弁をふるっている。
「我がコスモスグループは、企業の利益だけを考えた、従来の企業の体制を真っ向から否定します!ここにいる皆様一人一人が一緒に幸せになる。それがコスモスグループの企業理念なんです!」
「キャー竜ちゃん、素敵!」
会場から、黄色い歓声と拍手が巻きおこる。
研修会に参加している人々の異様な熱気が会場には充満していた。
「佐々木さん。ちょっと、こっちに来てください。」
指名された地味な女性が、壇上に上がる。
「この高橋さんは、3か月前まで普通のOLとして会社に勤めていたんです。でも、会社のリストラにあって困っていた時に、友人からの紹介でこのコスモスグループに入会されました。じゃ、後は自分で話してくれるかな。」
マイクがチャラ男から地味な女性に渡される。
「皆さん。こんばんわ。」
「こんばんわー!」
会場が一斉に挨拶する。
「以前の私は、何のとりえもないOLでした。会社からリストラされて困っていた時に、中学の時の同級生から電話があって、このコスモスグループを知りました。最初は怪しいな、って思ったんです。その友人は、中学の時はほとんど話したことがない人でしたから。でも、集会に参加して。コスモスグループの素晴らしさを知りました。最初に参加した時に「コスモスA」の試供品を頂いて。あの。私、当時ひどい頭痛に悩まされていたんです。それで、試しに飲んでみたら。十数年悩まされてきた頭痛がウソのように治って。それで私は、コスモスグループを信頼し、友人や知人に商品を勧め、自分の幸せのために、そしてここにいる仲間の幸せのために頑張りました。」
涙ぐんでいるようで声が詰まる。
「頑張れー!」
会場から応援の声があがる。
「家族や親せき、友人に、コスモスグループの商品を勧め地道に活動した結果、コスモス・ゴールド会員に昇格しました。」
彼女は誇らしげに胸の金色のバッジを指さす。
「私の紹介で、コスモスグループに入った友人も、みんな私に感謝しています。グループの勧誘に後ろめたさを感じている人はいませんか?それは、間違いです。みんなが幸せになれる!それがコスモスです!みんなで幸せ!みんなで幸せ!みんなで幸せ~!」
最後の方は、ほぼ絶叫に近かった。
会場は拍手の渦に包まれる。
「気持ち悪いわね。なんなのこの茶番劇は。」
隣でつまらなそうに話を聞いていたアヤメが小声で毒づく。
「佐々木さん、ありがとう。」
マイクが再び竜ちゃんと呼ばれるチャラ男に戻る。
「さっき。佐々木さんの酷い頭痛を魔法のように治したのが、この「コスモスA」です。このコスモスAの有効成分を大幅にアップした新商品が発売になります。それがこれ。コスモスEXです。これは、頭痛や風邪、神経痛や関節の痛みなどの身近なものから、癌や白血病などの重い病気にも効く万能治療薬なんです!」
「おおおおお。」
会場の聴衆がどよめく。
男はホワイトボードを使いながら説明する。
「あなたの紹介で入会した会員が販売した商品の代金から、あなたにボーナスが入る。その会員が紹介で入会した人が販売した商品の代金からも、あなたにボーナスが入る。これを私たちは”幸せの連鎖”と呼んでいます!」
男はホワイトボードにピラミッドのような絵を描き始める。
「つまり、このピラミッドの頂点にいるのがあなたで、この一番下の段にいる人たちが販売した商品からも、あなたにボーナスが入ります!」
「立派な、ねずみ講ですね。これも前時代的です。」
杉山さんが小声でつぶやく。
「わが社、コスモスコーポレーションは、一般店舗での販売や、通販などを一切行っておりません!あなたが、この素晴らしい薬を世間に知ってもらうための唯一の広告ツールなのです!さぁ、立ってください。みんなでご一緒に!みんなで幸せ!、、、。」
「みんなで幸せ!」「みんなで幸せ!」、、、。
会場のすべての人が立ち上がり、「みんなで幸せ」を大合唱している。
会場の盛り上がりは最高潮に達していた。
(なんだよ、こいつら気持ち悪ぃな。)
「これで説明会は終了です。この後、各ランク別にミーティングを行います。初めて参加された方で紹介者がいない人は、こちらに集まってください。」
受付にいた女性に促され、俺たち4人は、初めて参加した「紹介者なし」の列に並ぶ。老若男女、参加者は様々だがすべて人間のようだ。
「私たちは、このグループに興味があって参加した、一般人です。忘れないでください。」
杉山さんから指示がある。
「分かってるわよ。大人しくこの茶番に付き合えばいいんでしょ。」
アヤメが不満げに答える。
「刑部さんが一番心配なんですけどね。」
杉山さんが付け加えた。
俺らを含めたコスモスグループ新人参加者は、会議室につながっている隣の部屋へ移された。
「日下アナは、身の回りにヴァンパイアの知り合いやお友達はいますか?」
「ご近所に、ヴァンパイアのカップルが住んでいますし、この「伊達テレビ局」でも深夜帯には、たくさんののヴァンパイアスタッフが勤務していますから、たくさんいる方だと思います。」
「ヴァンパイアは他人の考えが読める能力があることをご存知ですか?」
「知ってます、知ってます。ですから、ヴァンパイアの同僚と話をしたりするとき、読まれてるんじゃないか気になってしまって。会話が楽しめなかったり、すごく残念なことだと思うんですよ。」
「そこで、本日ご紹介したい商品がこちらです。”貼るだけ簡単!考え読ませませんパッチ!”」
「パッチですか?こんなシールみたいなもので、本当に考えを読まれないんですか?」
「はい。そうなんです。特許取得のこの小さいパッチは、耳の後ろや首などの頭のちかい部分に貼るだけでヴァンパイアに考えを読まれない画期的商品なんですよ。」
「これなら、安心してヴァンパイアの同僚や友人と話ができます。それに、パッチの色も肌色で目だたないですね。」
「しかも効果は、24時間。防水加工ですから、プールやお風呂も安心です。」
「これは、パッチをつけてる人の体や、話相手のヴァンパイアの体に悪影響は出ないんですか?」
「はい、このパッチにしみこませてある薬効成分は、すべて天然のハーブなんです。ちょっと匂いを嗅いでみていただけますか。」
「ほんのりと良い香りがしますね。」
「今回は、特別にこのパッチの持ち運びに便利なこちらのケースをお付けして、180枚、約6か月分が5,400円で購入できるんです。1日に換算するとたったの30円。コンビニのコーヒー1杯よりお安いんですよ。」
「うわー。私も早速、使ってみたいです。それで、注文方法は?」
「ご注文は、通話料無料のフリーダイアル0120-〇▽□ー4649まで。フリーダイアル 〇▽□番のヨロシクまで。今回、定期コースをお申込みいただきますと、定価より20%お安い、特別価格でご購入いただけます。詳しくはオペレーターにお問い合わせください。」
職場の同僚に「ちょんまげランド」の土産を持ってきた。だれでも自由に食べてよいお菓子のコーナーに「ちょんまげサブレ」を置く。
コーヒーサーバーから熱いコーヒを注いでいると常盤さんが走ってきた。
「本田さん。夕べは、ごめんなさい。」
「え?ごめんなさいって何が?」
「ちょんまげランドで、、、、。」
「あああ。赤目と常盤さんも遊びに行ったんだね。デート?」
「違うんです。赤目様が私の頭の中を読んで、本田さんとアヤメ様が「ちょんまげデート」するって知って、追いかけたんです。私がうかつでした。赤目様はアヤメ様の事になると見境が無くなるというか、、、。」
「常盤さん。気にしなくっていいよ。何にもなかったんだし。」
「いいえ。そういうわけにはいきません。私、赤目様に怒ってます。これ見てください。」
そう言って常盤さんは、うなじを見せる。うなじには丸い絆創膏のようなものが貼ってある。
「それ何?」
「本田さん知らないんですか?これ今、通販や雑誌で話題なんですよ。ヴァンパイアに思考を読まれないためのパッチです。」
「へぇ~。そんなのあるんだ。」
「私、今まで赤目様を信じてたから、こんなの貼るつもりはなかったんです。でも、本田さんにこんなご迷惑をお掛けしてしまったからには、そうも言ってられません。」
「まぁ、赤目も悪気があったわけじゃないだろうし、ほどほどで許して、、、。」
「アヤメっちぃ~。」
赤目が事務所に入ってくる。
「どうして、あんな貧乏くさい男とちょんまげランドに行ったの?ちょんまげランドに行きたいなら、僕が貸し切りで連れて行ってあげたのに。」
「お断りします。」
相変わらず、アヤメは赤目につれない。
「また、そんな冷たいこと言って~。アヤメっちのお姫様姿が可愛かったから、僕、いっぱい写真撮ったんだよ。」
赤目が、ポケットから写真の束を取り出す。
俺は後ろか赤目に近づき、その写真の束を取り上げた。
「、、って、全部俺は見切れてんじゃねぇかよ!ふざけんな。没収!」
俺はポケットに写真の束をしまう。
「返せよ!僕の写真だぞ。それに、僕はお前の写真なんかいらないんだよ!」
「お前は、ストーカーか。没収だよ没収。」
俺たちがもみ合っていると半沢主任が事務所に入ってくる。
「おーい、みんな静かにしろ。ちょっと集まってくれ。」
主任の元に全員が集合する。
「ヴァンパイアが人間に脱法ドラッグを売りつけていると通報があった。今夜、その団体が集会を開いているらしい。今から、刑部と本田、杉山と灰野の4人で通報のあった集会場所へ向かって確かめてきてくれ。それと、現場にはヴァンパイアポリスだとばれないように、私服で向かってくれ。場所は仙台市若林区、、、、、。」
「脱法ドラッグですか。今どきそんな前時代的なものがあるんですね。」
現場に向かう車の中で、杉山さんががつぶやく。
「脱法ドラッグって、なんですか?」
灰野が聞く。
「脱法ドラッグてというのは、2010年ごろ。日本で問題になった薬物で、既存の麻薬の化学構造を少しだけ変えて、法の網をくぐって販売されていた薬物です。危険ドラッグとか、脱法ハーブいろいろな名前で呼ばれていました。脱法ドラッグに関係した事故や、暴力事件が多発。それに、脱法ハーブを吸った人が急死したりして当時は大問題だったようです。結局はそれらを包括して取り締まれる法律ができて、日本からはなくなったはずなんですけど。」
俺たちは、通報者から教えられた場所に到着する。
意外にも、その場所は「若林区民センター」だった。
ヴァンパイアとの共存開始以降、市民センターや図書館などの公共施設も、深夜まで解放されている。このセンターは1時間単位で料金を支払えば、だれでも利用できる。
(えええええ、区民センターで脱法ドラッグの販売?)
受付で聞くと、今夜使われているのは二階の会議室1室だけ。さっそく俺たちは2階の会議室に向かった。
二階会議室の前には、「すべての人に健康を!健康食品 コスモスクラブ研修会 会場」と張り紙がしてあった。
中に入ると、受付の若い女性が、
「もう始まってますよ。急いで、初めての方には、後でサンプルも差し上げますからね。」
と言って後ろの席に僕らを案内した。
中は、塾の教室のような感じで、壇上では金ケ瀬という金髪に金のネックレスを付けたチャラい男がマイクを手にして熱弁をふるっている。
「我がコスモスグループは、企業の利益だけを考えた、従来の企業の体制を真っ向から否定します!ここにいる皆様一人一人が一緒に幸せになる。それがコスモスグループの企業理念なんです!」
「キャー竜ちゃん、素敵!」
会場から、黄色い歓声と拍手が巻きおこる。
研修会に参加している人々の異様な熱気が会場には充満していた。
「佐々木さん。ちょっと、こっちに来てください。」
指名された地味な女性が、壇上に上がる。
「この高橋さんは、3か月前まで普通のOLとして会社に勤めていたんです。でも、会社のリストラにあって困っていた時に、友人からの紹介でこのコスモスグループに入会されました。じゃ、後は自分で話してくれるかな。」
マイクがチャラ男から地味な女性に渡される。
「皆さん。こんばんわ。」
「こんばんわー!」
会場が一斉に挨拶する。
「以前の私は、何のとりえもないOLでした。会社からリストラされて困っていた時に、中学の時の同級生から電話があって、このコスモスグループを知りました。最初は怪しいな、って思ったんです。その友人は、中学の時はほとんど話したことがない人でしたから。でも、集会に参加して。コスモスグループの素晴らしさを知りました。最初に参加した時に「コスモスA」の試供品を頂いて。あの。私、当時ひどい頭痛に悩まされていたんです。それで、試しに飲んでみたら。十数年悩まされてきた頭痛がウソのように治って。それで私は、コスモスグループを信頼し、友人や知人に商品を勧め、自分の幸せのために、そしてここにいる仲間の幸せのために頑張りました。」
涙ぐんでいるようで声が詰まる。
「頑張れー!」
会場から応援の声があがる。
「家族や親せき、友人に、コスモスグループの商品を勧め地道に活動した結果、コスモス・ゴールド会員に昇格しました。」
彼女は誇らしげに胸の金色のバッジを指さす。
「私の紹介で、コスモスグループに入った友人も、みんな私に感謝しています。グループの勧誘に後ろめたさを感じている人はいませんか?それは、間違いです。みんなが幸せになれる!それがコスモスです!みんなで幸せ!みんなで幸せ!みんなで幸せ~!」
最後の方は、ほぼ絶叫に近かった。
会場は拍手の渦に包まれる。
「気持ち悪いわね。なんなのこの茶番劇は。」
隣でつまらなそうに話を聞いていたアヤメが小声で毒づく。
「佐々木さん、ありがとう。」
マイクが再び竜ちゃんと呼ばれるチャラ男に戻る。
「さっき。佐々木さんの酷い頭痛を魔法のように治したのが、この「コスモスA」です。このコスモスAの有効成分を大幅にアップした新商品が発売になります。それがこれ。コスモスEXです。これは、頭痛や風邪、神経痛や関節の痛みなどの身近なものから、癌や白血病などの重い病気にも効く万能治療薬なんです!」
「おおおおお。」
会場の聴衆がどよめく。
男はホワイトボードを使いながら説明する。
「あなたの紹介で入会した会員が販売した商品の代金から、あなたにボーナスが入る。その会員が紹介で入会した人が販売した商品の代金からも、あなたにボーナスが入る。これを私たちは”幸せの連鎖”と呼んでいます!」
男はホワイトボードにピラミッドのような絵を描き始める。
「つまり、このピラミッドの頂点にいるのがあなたで、この一番下の段にいる人たちが販売した商品からも、あなたにボーナスが入ります!」
「立派な、ねずみ講ですね。これも前時代的です。」
杉山さんが小声でつぶやく。
「わが社、コスモスコーポレーションは、一般店舗での販売や、通販などを一切行っておりません!あなたが、この素晴らしい薬を世間に知ってもらうための唯一の広告ツールなのです!さぁ、立ってください。みんなでご一緒に!みんなで幸せ!、、、。」
「みんなで幸せ!」「みんなで幸せ!」、、、。
会場のすべての人が立ち上がり、「みんなで幸せ」を大合唱している。
会場の盛り上がりは最高潮に達していた。
(なんだよ、こいつら気持ち悪ぃな。)
「これで説明会は終了です。この後、各ランク別にミーティングを行います。初めて参加された方で紹介者がいない人は、こちらに集まってください。」
受付にいた女性に促され、俺たち4人は、初めて参加した「紹介者なし」の列に並ぶ。老若男女、参加者は様々だがすべて人間のようだ。
「私たちは、このグループに興味があって参加した、一般人です。忘れないでください。」
杉山さんから指示がある。
「分かってるわよ。大人しくこの茶番に付き合えばいいんでしょ。」
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