眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

文字の大きさ
37 / 166

プロフェット(預言者)①

しおりを挟む
「昨夜、仙台市青葉区に本社を置く、健康食品販売会社コスモスが、ヴァンパイアポリスの一斉摘発を受けました。ヴァンパイアポリスの発表によりますと、コスモス社が販売していた健康食品、「コスモスA」「コスモスEX」には、ヴァンパイアの血液成分が含まれており、人体に及ぼす影響は不明です。これらの、違法な健康食品を販売していたのは、ヴァンパイアの我妻聡容疑者です。今回の摘発で、コスモスはヴァンパイア市民を不当に使役し、原料の血液を確保するためにヴァンパイアを多数飼育していたということです。我妻容疑者は、ヴァンパイアマフィアVMのトップという裏の顔も持っていました。ヴァンパイアポリスはコスモスA、コスモスEXの回収を行っております。もし、お手元にこれらの薬品をお持ちの方は、最寄りのヴァンパイポリス、および保健所まで商品をお持ちください。更なる事件の解明が待たれます。」
このニュースが流れたあと、オークションサイトでコスモスAやコスモスEXが高値で取引され、それらの摘発は警察に任せることで落ち着いた。

テレビの音で目がが覚める。テレビをつけたまま寝落ちしていたらしい。
ニュースでは、朝から繰り返し昨夜の事件の報道をしていた。

昨夜の摘発の興奮と、事務所で半沢主任、高木班長から聞いた話による漠然とした不安で、なかなか寝付くことが出来ず、寝てからは、悪夢に悩まされるはめになった。

コン、コンッ。

アパートのドアを誰かがノックした。誰だろう?
築70年のボロアパートにも良い点が3つある。DMダイレクトメールがこない、訪問販売がこない、保険の勧誘が来ないことだ。なぜか宗教勧誘だけは、神の名のもとに平等にやってくる。

この時間だと宗教勧誘か?でも、彼らを追っ払うすべは心得ている。

玄関を開けると、ケンタロウが立っていた。

「ケンタロウ?どうした?」

「一宇に相談があって。」

「まぁ、入れよ。あ、そうだ、冷蔵庫に昨日、高梨さんから貰った手作りパンとチーズが入ってるから食うか?」

「いらない、、、。」

(!!!!!!)

「ケンタロウどうした?!お前が食い物を辞退するなんて、具合でも悪いのか?」

そこで、改めてケンタロウを見ると、以前よりだいぶほっそりしている。しかも、顔は青ざめ、髪が逆立ってくしゃくしゃだ。

「お前いつから、食ってないんだよ。」

「1週間くらい。」

「1週間!?それは駄目だ。いくらお前の体に脂肪の貯えがあってもだ。お前、なんか悩みがあるんだろ。俺がお前の悩みを一緒に解決してやる。だから、お前は大船の乗った気持ちで俺の朝飯に付き合え。わかったな。」

心なしか、ケンタロウの青ざめた顔に赤みが差してきたように見えた。

俺たちは、すきっ腹の豚のようにガツガツとパンとチーズとコーヒーの朝食をとる。

「ケンタロウ、そこの鏡のところにブラシがあるから髪ぐらいとかせよ。」
俺は、箪笥の上の鏡を指さす。

「無駄だよ。これ、寝ぐせじゃないから、髪の毛が逆立ってるんだ。」

「逆立ってる?どうして?いつから?」

「1週間前からだよ。一宇って犬飼ったことある?」

「ないけど。なんで?」

「犬って、仲間の匂いを嗅ぐと毛が逆立つんだよ。」

「へぇ~。知らなかった。じゃ、お前も仲間の匂いをかぎ取ったってことか?」

「うん。一宇は。僕が絶滅危惧種なのは知ってるよね?僕、生まれて初めて仲間の匂いを嗅いだんだ。しかも、女の子の匂いをね。」

「へっ?女の子?そこまでわかるんだ。」

「うん。それから、ご飯も食べられない。夜も寝れない。助けてよ一宇。」

「じゃあ、お前、やっぱり病気じゃん。医者でも治せない「恋の病」ってやつだよ。」

ケンタロウの顔が真っ赤になる。

「恋の悩みなら、俺に任せろ!」

「一宇は恋愛経験あるの?」

「ないけど。」

「彼女いない歴何年?」

「18年!」

ケンタロウの顔にみるみる落胆の色が広がる。

「カヲルさんには、相談したのか?」

「するわけないじゃん!前にカヲルちゃんは、僕とパグをくっつけようとしたんだよ!」

カヲルさん、、、、。

「一宇、スマホ持ってる?」

「あるけど。ほら。」

ケンタロウはスマホで何やら検索を始める。

「あ、あった。これ。これ見て!」


今世紀最大の占い師、プロフェット(預言者)仙台の父 大特集!

「仙台の父?なんじゃそりゃ。」
俺は特集記事をスクロールしながら、ざっと目を通す。

仙台の父と呼ばれるその爺さんは、大物政治家や芸能人にも多くのファンを持つ占い師だが、本人の趣味で夜の街に立ち、辻占いをやっている。ただし、偏屈で気に入らない客は占わない。占いが当たると評判で、いつも行列ができているらしい。

「占い?」

「うん。僕、お手上げだからさ。オカルト頼みだよ。」

「それで?俺にどうしろっていうんだよ。」

「一宇、今夜、お休みでしょ一緒に行こうよ~。」

「ええええ。占いなんか、並んでるのも女ばっかだろ。いやだよ。恥ずかしいよ。」

ケンタロウが、がっくりと肩を落とす。
考えてみれば、こいつにはいろいろと世話になっている。バイクのパーツを盗まれた時も。洋服が必要な時も。受けた恩は必ず返す!それが俺の人生の決め事じゃなかったのか。

「わかったよ。付き合うよ。」

「ほんと?一宇!ありがとう!ありがとう!。それと、冷蔵庫に入ってる”ちょんまげサブレ”食べていい?」

げんきんな奴め。言うが早いか、ケンタロウはちょんまげサブレを食べ始めた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇  

設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

処理中です...