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奇妙な電話から始まる物語 ①

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ヴァンパイアポリスに奇妙な1本の電話がかかってきた。

困ったことに、その奇妙な電話を受けたのは俺だった。事務所には眷属隊の5人しかいない。
ヴァンパイア捜査官は全員会議中だった。

俺が、山のような書類をパソコンに入力する作業に飽き飽きした時に電話のベルが鳴った。
発信元は、「公衆電話」と表示されている。

まるで、種類の山からの逃避のように、受話器を取る。

「もしもし。」

「もしもし。ヴァンパイアポリスだよね?あんたらは、ヴァンパイアが危険な目にあってたら助けるんだろ?」
若い男の声だ。

「ええ、まぁ。一応そうなります、、かね。」

「おい、はっきりしろよ。ヴァンパイアが危ない目にあってたら助けるんだろ!」
男はイラついている。

「助けますけど、お話が見えないんですよ。あなたのお名前を教えていただけますか?」

「ヴァンパイアの婆さんが、悪い奴に狙われてるんだ。金を取る計画だけど、婆さんを狙ってるやつらは悪い奴らだから、婆さんが怪我をするかもしれない。なぁ、兄ちゃん頼むよ。婆さんを助けてやってくれよ。」
男は俺の話は聞いていないらしい。男は名前を名乗らず用件を話し出しす。

「ちょっと待ってください。今、電話してる方のお名前、つまりあなたのお名前と被害にあっておられる方のお名前を教えてください。」

「被害者は、片沼キヨさん。住所は仙台市太白区青葉町32-1。わかったか?書きとめたか?」
そう言われて、俺はテーブルの上にあったメモ用紙に、慌てて被害者の女性の名前と、住所を書き留める。

「それで、あなたのお名前は?」

「俺の名前はいいよ。頼むから早く行ってくれ。な、今から行けるか?」
(いいよじゃないよ。まったくもう。)

「今からは無理です。今、捜査官が席を外しているので、、、。」

「じゃあ、兄ちゃんは何なんだよ。」

「俺は、、。ははは。電話番かな。」

「電話番だぁ。使っかえねぇな。じゃあ、捜査官に代われよ。」

「だからぁ、今は席を外してますって言ったじゃないですか。」

「わかったよ。じゃあ兄ちゃん、よく聞けよ。捜査官ってのが戻ったら、キヨさんが危ないってことと、キヨさんの住所を捜査官ってのに必ず伝えろ。わかったな。頼んだぜ。」

男は言いたいことを言って電話を切る。
口は悪いが、キヨさんと言うおばあさんを本気で心配している事は伝わってきた。

俺はどうしていいのか分からず。とりあえず捜査官が事務所に戻るのを待った。

待つこと30分。捜査官たちが事務所に戻ってくる。
俺は、迷うことなく杉山さんのデスクへ向かった。

「あの~。杉山さん。」

「本田さん。どうしましたか?」

「実は、皆さんが会議の間に変な電話がかかってきまして、、。」

「変な電話ではわかりません。具体的に話してください。」

俺はさっきメモした髪を杉山さんに渡す。

「若い男からの電話で、その住所に住んでいるヴァンパイアのお婆さんが、悪者に狙われているから、助けてほしいと、、、。」

「わかりましたが、その通報者は、この片沼さんではないんですね。」

「はい、通報してきたのは若い男で、名前を聞いたんですが名乗らないんです。」

「じゃあ、誰かわからない若い男性が、ヴァンパイアのお婆さんが危険な目にあっているから助けてほしいと通報してきた、という事でしょうか?」

「その通りです。」

「それで、なにが危険と言っていましたか?」

「お金を取る計画だと言っていました。その連中は危ない奴らだからキヨさんに怪我をさせるかもしれないとも言ってました。」

「困りましたね。どこの誰かもわからない通報者の不確かな情報で、私たちが動くわけにはいきません。一応、片沼さんには、電話で確認をとってみますが、それでいいですか?」

「はい。お願いします、」

杉山さんの言うことはもっともだ。電話で確認してくれるならキヨさんと言うお婆さんに、注意も促してくれるだろう。
俺は電話番としての役目を果たしたよな。

でも、頭の中にあの口の悪い若い男性の切羽詰まった声が、しこりのように残っているような気がした。

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