眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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家族の秘密 ④

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母の話は確かに衝撃的だった。

でも、プロフェット(預言者)の爺さんが言っていたのは、人生が変わるような事実を知るという事だった。父親がヴァンパイアと人間のハーフだった事実には、確かにビックリした。でも、それ以上の事はない。俺がヴァンパイアの特性を持っていないことも、相変わらず非力であることにも、変わりはない。父の手紙は気になったが、次の休みはまだ先だ。このことは今思い悩んでも仕方ない。出たとこ勝負だ。

「一宇。お母さんは帰られたの?」
アヤメが聞いてきた。

「ああ、お袋、看護師で忙しいからあの日のうちに帰ったよ。あ、そう言えば、俺がアパートに帰った時お袋、アヤメから借りた「金太郎侍」見ててさ、面白いから今度貸してくれって言ってたよ。」

アヤメの目がきらりと光った。なんか嫌な予感がする。

「それで、なんでそんな浮かない顔してるのよ。」
説明が難しい、、、。難しいうえに、俺自身、今現在。全てが分かっているわけじゃない。

「ねぇ。アヤメって俺の頭ン中、覗けるんだよな。」

「できるわよ。」

「じゃあ。わかるんじゃないの?俺の考えてること。最初にお前にあった時も、俺がお前の事、チンチクリンのガキって考えたことバレてたし。」

「ああ、あの時は、一宇は、まだ私の眷属じゃなかったし。眷属にしてからは、一宇の頭の中をのぞいたことは一度もないわよ、」

「その仕組みってのは、いったいどうなってるんだ。」

「どうなってるって、、。文字通り覗くって表現が近いかもね。あんた達が考えてることが勝手に頭に中に聞こえてくるわけじゃないのよ。もしそんなだったら、煩くて仕方ないわ。」

「アヤメは、なんで眷属になった俺の中を覗かないんだ?」

「一宇なんか単純だから、いちいち覗かなくっても、考えてる事なんか全て顔に出てるわよ。」

俺は、無意識に両手で顔を覆う。

「嘘よ。単純ね一宇は。信頼関係って言うのかな。一宇も私に頭の中を覗かれていたらやりにくいでしょ。会話って大事だから。話し合って理解し合うのは、私たちのような関係には必要だと思う。」

アヤメの言ってることは、もっともだ。なら、俺は今回の真相が明らかになったら、まず誰よりも先にアヤメに話そうと決めた。



その時、言動のおかしなヴァンパイアが国分町の路上で暴れていると一報が入り、全員に召集がかかる。
俺たちはそろって出動した。

国分町の路上では、男が一人、大声をあげながらナイフのようなものを振り回していた。

「邪魔するな~。俺は死にたいんだよ!死んでやる!」
そんな事を言っているようだ。人血中毒者かもしれない。

アヤメが男の前に進み出る。

「あんた一体何がしたいわけ?死ぬ気はないんでしょ。」
いきなり叫んでいる男に、アヤメは投げかける。

「刑部さん、そんな男を刺激するような言って。どう言うつもりなんですか?」
杉山さんがアヤメを諫める。

「だって、そうじゃない。この男ヴァンパイアなんでしょ。だったら、こんなところでナイフ持ってクダまいてるっておかしくない?そもそも、あんなナイフじゃ死ねないわよ。死にたいなら、夜明けまで待って太陽の光を浴びるなり、誰かにお願いして首を切り落としてもらうなり。方法は他にもあるでしょ!」

「それはそうですが、わざわざ男を刺激しなくても、、。」

「あんたは、甘えてんのよ。何か言いたいことがあるなら、ヴァンパイアポリスに来なさい。あたしが話を聞くわよ。」

男はアヤメの剣幕に飲まれてすっかり大人しくなっていた。
意気消沈した男は、俺たちが乗って来たヴァンパイアポリスの車掌に、自ら乗り込み、あっけなく連行された。

連行された、男を連れて事務所脇の休憩室に向かう。
取調室までは必要ないというのがアヤメの考えだった。規則に厳しい杉山さんは渋ったが、アヤメのお陰で、男が素直に署までついてきたということもあり「今回は、例外中の例外です。」と言って休憩室で話をすることを認めた。

ただし、「私も見た~い。」を言って駄々をこねるノエルの話し合いへの参加は頑として認めなかった。休憩室にいるのは、暴れていた男とアヤメ。それと俺の3人だけだった。

俺が、ジュースを買い男とアヤメに渡す。

「ありがとうございます。」
男は、素直に受け取り、お礼を言った。

「俺、君が人血中毒なのかと思ったよ。ところで君の名前は?」

「人血中毒なんて、とんでもない!俺、人間の血なんか飲んだことないっすよ。俺、斎藤弘樹です。」

「それで。なんであんな騒ぎを起こしたわけ?」
アヤメがすかさず突っ込む、

「彼女に振られてヤケになって、、、。バカな事をしました。」

「ほんとにバカね。そんなんでいちいちあんな騒ぎ起こしてたら、この一宇なんて何度死んでるかわからないわよ。」

(俺は関係ないだろ、それに彼女いない歴は18年だけど、振られたことはないぞ。告白する勇気もなかったからな。)

「そうですか、大変ですね。兄さんも。」
男が、憐みのこもった視線を俺に向ける。俺は愛想笑いでごまかした。

「なんだ。女に振られたぁ。それだけなのぉ。」

「それだけ~って。俺、本気だったんですよ。所帯もとうと思ってたんですから。それなのにあいつ。水商売はじめてからなんか変わってしまって。派手になって、なんかコソコソするようになったから、俺心配で。陰で人血でもやってるんじゃないかって。」

「本人に確かめたの?」

「確かめたら、怒って出て行ってしまって。それ以来、帰ってこないんです。働いてた店も辞めちゃって。携帯もつながらないし、、、。」

「あんたが、彼女が人血中毒じゃないかって疑ったのはなんで?」

「時々、言動がおかしかったり、急に金回りもよくなったし。それに、あいつの携帯見たらなんか知らない男の名前がいくつかあって。メールにも、「今月は、3人調達できます」とか意味不明な事が書いてあって、、、。俺、怖くなって。」

「わかった。あんたの彼女が、いなくなったのはいつ?」

「もう一ヶ月になるかな?」

「彼女は、私たちが責任を持って探すわ。彼女の名前と、写真家なんかある?」

男は財布の中から彼女の写真を取り出しアヤメに渡した。

「名前は。石野美幸です。よろしくお願いします。あいつ、根は真面目でいい奴なんです。」

「わかった。彼女の情報を詳しくこの人に話して。」
アヤメが俺を指さす。

「終わったら、帰っていいわ。連絡先も置いて行ってね。何かわかったら連絡するから。」

「ありがとうございます。姉さん。」

俺は筆記用具を持ってきて、彼女の詳しい情報。働いてた店などを、斎藤さんから聞き出す。」

「アヤメは、口は悪いけど、優秀な捜査官だから安心して。さっきも、いきなりあんなこと言われて驚いたろ。」

「あ、いや。あれで、目が醒めたって言うか、正気に戻りましたから。感謝してます。」

帰るとき、斎藤さんは。「よろしくお願いします。」と何度も何度も頭を下げて帰って行った。

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