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時の旅人 ⑨
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父さんは、順調に成長して幼稚園に通う年頃になった。
「わらわの血が濃くて、幸雄は太陽が苦手か。不憫じゃの。」
「そんな事ねぇよ。こいつは十分に幸せだって。変なこと気にすんな。」
爺さんと安芸の間でこんな会話が交わされる。
「おお、携帯に連絡じゃ。」
「便利な時代になったよな。」
(おお、ここでようやく携帯電話の登場か。)
「行ってくるぞ、勝也。」
「気を付けろよ、安芸。ユキ。ママにバイバイは?」
「まま。ばいばーい。」
何度こうやって、戦いに向かう妻を見送ったのだろうか。そして、不安にならないのか。
そう言えば、祖母は、病気で亡くなったと聞いている。ヴァンパイアが病気で死ぬってあるのかな?こんな事なら、以前に買った本の、”正しく知ろう!ヴァンパイアの基礎知識”をよく熟読しておくんだった。
さすがヴァンパイアの息子。夜には強い。深夜0時を過ぎても父さんは元気いっぱいだ。
反対に爺さんは、昼の仕事で疲れているのか、転寝を始めた。
その時、玄関をノックする音が聞こえた。
爺さんが目を覚まし玄関に向かう。
「早かったな、安芸。」
そう言いながら、鍵を開け、ドアを開く。
そこに立っていたのは、安芸ではなく真っ青な顔をした里美だった。
爺さんもただならぬ雰囲気を察したらしい。
「どうした、里美さん。安芸に何かあったのか?」
「安芸様が、、。安芸様が。」
「安芸がどうしたんだ。」
二人とも動揺している。
「安芸様が、お仕事で怪我をされて、、勝也さんを呼んでいるって。」
「安芸は大丈夫なのか?」
「わかりません。ユキちゃんは私が見ています。下の車で白神さんが待っています。今すぐ安芸様のところへ行ってください。」
「わかった。ユキを頼みます。」
爺さんは、上着も羽織らず、外へ飛び出す。
白神の運転する車が、爺さんを乗せて静かに走り出す。
「安芸は大丈夫なのか?今安芸はどこにいるんだ。」
爺さんが白神に矢継ぎ早に質問する。
「今から、安芸様のところにお連れします。命に別状はありませんのでご安心ください。」
爺さんは、命に別状はないと聞いて安心したのか、その後は静かに後部座席から窓の外を見ている。
民家の数が減り、あたりには田園風景が広がる。途中、ダム湖の脇も通った。車は40分ほど走ったがまだつく気配はない。
「まだ、かかりますか?」
「もうすぐ着きます。」
白神が事務的に答える。爺さんもそれ以上の質問は、諦めたらしい。
「こちらで降りてください。安芸様のところへご案内いたします。」
爺さんが下ろされたのは、大きな寺の駐車場のようなところだった。
爺さんが、駐車場で待っていると白神が戻って来た。
「こちらです。」
爺さんは白神について行く。俺は嫌な予感がした。
白神は寺の門を開けると、中に入るように促す。爺さんも早く安芸の元へ向かおうと促されるまま門の中に入って行く。
「本田さん。ここがどこかご存知ですか?」
「ここがなにかって?そんな事より、安芸はどこにいるんですか。早く安芸に合わせてください。」
「安芸様なら、ご心配には及びませんよ。ここには、いませんがお元気です。」
「なら何で、俺をここに?それに、ここはどこなんだ?」
「あきれましたね。ご自分の妻が、何の仕事をしているかご存じでしょ。それなら、その妻が命がけで守ってる場所も知ってて当然じゃないんですか?」
「守ってる場所?じゃ、ここは門、、、。」
「そうですよ。ここが安芸様の守っている東門です。この向こうから、魔物たちが度々出てきては、悪さをするんですよ。安芸様は幼い頃から、ここで多くの魔物たちと戦ってきました。私も常に一緒に。私は安芸様と共に戦えて幸せでした。それが、私の唯一の使命であり喜びなんです。私は。多くを望んだわけじゃない。安芸様がお役目を全うする日まで、共に戦っていければ。それで幸せなんですよ。」
「白神さん、何を言ってるんですか?」
「お前が現れて、安芸様は変わってしまった。以前の安芸様は、戦うことに純粋で美しかった。それが今では、どうです。夫だ、子どもだと、余計なことに心を奪われてしまって、、。」
「ふざけるな白神。それで、俺をどうしようと言うんだ。」
「もちろん、あなたには、この世から居なくなってもらいます。ご安心ください、あなたの息子も、そう遠くないうちに、あなたの元へ届けてあげますよ。」
「やめろ!幸雄には手を出すな!幸雄は安芸の息子だぞ。俺だけで十分だろ。」
「そうはいきません。安芸様の戦いをサポートし、戦いに専念できる環境を作るのが、私の家、白神の使命。例え、安芸様のご子息であっても、人間の血が混ざった劣等種を跡取りになどと、認められるわけないじゃないですか。」
「劣等種だと。」
「そうですよ。しかも、あなたのような卑しい人間のね。」
「以前の私なら、こんな大それたこと考えもつかなかった。この門の周辺には、ヴァンパイアを狂わせる気のようなものでも出てるんでしょうか。長年、安芸様と共にこの地で戦ってきた私は、この地の毒気に当てられたのかもしれません。やはり、安芸様のような崇高なヴァンパイア以外には、この土地は毒と言うことですよ。」
「さぁ、そろそろおしゃべりはお終いにしましょう。あなたの遺体は、この中にでも投げ捨てれば、跡形もなく魔物が食べてくれるでしょう。」
爺さんにも、俺にも、成す術はなかった。このまま白神にやられるしかないのか、、、。
白神が、ゆっくり爺さんに近づき、首に手をまわす。
「なんて脆いんでしょう、人間は。こんな劣った種を愛するなんて、安芸様はなぜ、なぜ。」
白神の掌に力が込められる、もう終わりだ。爺さんも、俺も、、、。
「わらわの血が濃くて、幸雄は太陽が苦手か。不憫じゃの。」
「そんな事ねぇよ。こいつは十分に幸せだって。変なこと気にすんな。」
爺さんと安芸の間でこんな会話が交わされる。
「おお、携帯に連絡じゃ。」
「便利な時代になったよな。」
(おお、ここでようやく携帯電話の登場か。)
「行ってくるぞ、勝也。」
「気を付けろよ、安芸。ユキ。ママにバイバイは?」
「まま。ばいばーい。」
何度こうやって、戦いに向かう妻を見送ったのだろうか。そして、不安にならないのか。
そう言えば、祖母は、病気で亡くなったと聞いている。ヴァンパイアが病気で死ぬってあるのかな?こんな事なら、以前に買った本の、”正しく知ろう!ヴァンパイアの基礎知識”をよく熟読しておくんだった。
さすがヴァンパイアの息子。夜には強い。深夜0時を過ぎても父さんは元気いっぱいだ。
反対に爺さんは、昼の仕事で疲れているのか、転寝を始めた。
その時、玄関をノックする音が聞こえた。
爺さんが目を覚まし玄関に向かう。
「早かったな、安芸。」
そう言いながら、鍵を開け、ドアを開く。
そこに立っていたのは、安芸ではなく真っ青な顔をした里美だった。
爺さんもただならぬ雰囲気を察したらしい。
「どうした、里美さん。安芸に何かあったのか?」
「安芸様が、、。安芸様が。」
「安芸がどうしたんだ。」
二人とも動揺している。
「安芸様が、お仕事で怪我をされて、、勝也さんを呼んでいるって。」
「安芸は大丈夫なのか?」
「わかりません。ユキちゃんは私が見ています。下の車で白神さんが待っています。今すぐ安芸様のところへ行ってください。」
「わかった。ユキを頼みます。」
爺さんは、上着も羽織らず、外へ飛び出す。
白神の運転する車が、爺さんを乗せて静かに走り出す。
「安芸は大丈夫なのか?今安芸はどこにいるんだ。」
爺さんが白神に矢継ぎ早に質問する。
「今から、安芸様のところにお連れします。命に別状はありませんのでご安心ください。」
爺さんは、命に別状はないと聞いて安心したのか、その後は静かに後部座席から窓の外を見ている。
民家の数が減り、あたりには田園風景が広がる。途中、ダム湖の脇も通った。車は40分ほど走ったがまだつく気配はない。
「まだ、かかりますか?」
「もうすぐ着きます。」
白神が事務的に答える。爺さんもそれ以上の質問は、諦めたらしい。
「こちらで降りてください。安芸様のところへご案内いたします。」
爺さんが下ろされたのは、大きな寺の駐車場のようなところだった。
爺さんが、駐車場で待っていると白神が戻って来た。
「こちらです。」
爺さんは白神について行く。俺は嫌な予感がした。
白神は寺の門を開けると、中に入るように促す。爺さんも早く安芸の元へ向かおうと促されるまま門の中に入って行く。
「本田さん。ここがどこかご存知ですか?」
「ここがなにかって?そんな事より、安芸はどこにいるんですか。早く安芸に合わせてください。」
「安芸様なら、ご心配には及びませんよ。ここには、いませんがお元気です。」
「なら何で、俺をここに?それに、ここはどこなんだ?」
「あきれましたね。ご自分の妻が、何の仕事をしているかご存じでしょ。それなら、その妻が命がけで守ってる場所も知ってて当然じゃないんですか?」
「守ってる場所?じゃ、ここは門、、、。」
「そうですよ。ここが安芸様の守っている東門です。この向こうから、魔物たちが度々出てきては、悪さをするんですよ。安芸様は幼い頃から、ここで多くの魔物たちと戦ってきました。私も常に一緒に。私は安芸様と共に戦えて幸せでした。それが、私の唯一の使命であり喜びなんです。私は。多くを望んだわけじゃない。安芸様がお役目を全うする日まで、共に戦っていければ。それで幸せなんですよ。」
「白神さん、何を言ってるんですか?」
「お前が現れて、安芸様は変わってしまった。以前の安芸様は、戦うことに純粋で美しかった。それが今では、どうです。夫だ、子どもだと、余計なことに心を奪われてしまって、、。」
「ふざけるな白神。それで、俺をどうしようと言うんだ。」
「もちろん、あなたには、この世から居なくなってもらいます。ご安心ください、あなたの息子も、そう遠くないうちに、あなたの元へ届けてあげますよ。」
「やめろ!幸雄には手を出すな!幸雄は安芸の息子だぞ。俺だけで十分だろ。」
「そうはいきません。安芸様の戦いをサポートし、戦いに専念できる環境を作るのが、私の家、白神の使命。例え、安芸様のご子息であっても、人間の血が混ざった劣等種を跡取りになどと、認められるわけないじゃないですか。」
「劣等種だと。」
「そうですよ。しかも、あなたのような卑しい人間のね。」
「以前の私なら、こんな大それたこと考えもつかなかった。この門の周辺には、ヴァンパイアを狂わせる気のようなものでも出てるんでしょうか。長年、安芸様と共にこの地で戦ってきた私は、この地の毒気に当てられたのかもしれません。やはり、安芸様のような崇高なヴァンパイア以外には、この土地は毒と言うことですよ。」
「さぁ、そろそろおしゃべりはお終いにしましょう。あなたの遺体は、この中にでも投げ捨てれば、跡形もなく魔物が食べてくれるでしょう。」
爺さんにも、俺にも、成す術はなかった。このまま白神にやられるしかないのか、、、。
白神が、ゆっくり爺さんに近づき、首に手をまわす。
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