74 / 166
時の旅人 ⑧
しおりを挟む
また時間が飛ぶ。爺さんと安芸は既に一緒に暮していた。しかも、安芸は妊娠している。
今でも、二人はラブラブだ。
「安芸様。里美です。」
二人の愛の巣に里美が訪ねてくる。
「うわぁ。安芸様、ずいぶんとお腹が大きくなりましたね。」
「そうじゃろ。最近では腹が内側から蹴られておるわ。」
安芸は楽しそうにそう言った。
「今日は、安芸様にご相談があってきました。」
「わらわに?なにか困り事でもあるのか?」
「いいえ、安芸様が屋敷を出られた後も、皆さん親切にしてくださいます。今日ご相談に伺ったのは、私から安芸様に出産のお祝いを差し上げたくて。」
「出産の祝い?そんなこと、気にせずともよいぞ。里美。お前とわらわの仲ではないか。この子が生まれたらお前に世話になることもあろうぞ。」
「はい。それは、今から楽しみにしております。」
「今回、お祝いに受け取っていただきたいのは、、、。」
「なんじゃ。はっきり申せ。」
「私の戸籍です。安芸様。」
「ならんわ。それはならんぞ、里美。何を申しておる。」
「いいえ。そのお子様が生まれたら、必ず必要になりますよ。」
いつもは控えめな里美は今日はいつになく頑固だ。
「お前が結婚する時にも戸籍は必要だ。子どもが生まれた時も。お前の幸せを奪って。わらわは幸せになるつもりはないわ。」
「戸籍が無くても、私は幸せになりますよ。安芸様もご存じじゃないですか。私の恋人はヴァンパイアです。私の結婚するのに戸籍は必要ありません。」
「子供が出来たら、どうするのじゃ。」
「子供が出来てもヴァンパイア族として育てるつもりです。ほかに何か問題がおありになりますか?」
「里美、本当に良いのか?」
「もちろんです。安芸様。私たちが初めて会った日の事を憶えていますか?あの日、安芸様が止めてくれなかったら、私の家族は一家心中で死んでいたんですよ。「娘を私の奉公人にしないか?」と父に提案して、過分なお給料を払ってくださったお陰で、父は病院で死ぬことが出来ました。母は今でも元気だし。妹や弟は無事に学校に通うことが出来ました。杜人家の方々が「どこの馬の骨ともわからぬものを眷属にするなど」と反対しても「この者以外は眷属にはしない」と頑張ってくださいましたよね。私は、安芸様の眷属になってから楽しい事ばかりです。安芸様のお側にいて、いつか恩返しができる日を待っていました。ですから里美は、安芸様が何と言っても私の戸籍をお使いいただきます。」
「里美、お前も頑固じゃの。」
「当然です。私は頑固な安芸様の眷属を長年続けておりますから。」
「里美、かたじけない。ありがたく里美の戸籍を使わせてもらうぞ。」
そういって、安芸は里美に頭を下げた。
爺さんも里美に頭を下げる。
(それで、ばあちゃんの名前が里美だったんだ。この里美さんは、今はどうしているんだろう?)
また、日にちがとぶ。時間の進むペースが上がっている様だ。
安芸と爺さんは子供が生まれた。これが父さんか。
「安芸様。行ってらっしゃいませ。」
「安芸。気を付けて行って来いよ。」
「あう~。」
「行ってくる。幸雄、良い子にしておれよ。」
(安芸は仕事に行くんだな。安芸の留守中は里美さんが子守をしてくれるのか。)
爺さんが、赤ちゃんの父さんを抱いて窓まで安芸を見送る。下では車が待機していた。
下で待っている運転手は、白神のようだ。
白神は窓に立って見送る爺さんと親父に氷のような視線を向ける。
「俺、白神さんに嫌われてるのかな?」
爺さんが、里美さんにそう聞いた。
「そんな事ないですよ。勝也さん気にしすぎです。」
「白神さんってどんな人なの?」
「白神さんは、安芸様と幼い頃から一緒に育ったと聞いています。白神さんの家族が、安芸様に使える家系とか。」
「そうなんだ。」
「任務に忠実な方ですから、時々厳しいこと感じることもありますが、悪い方ではないですよ。幸雄ちゃんも、生まれるはずのないヴァンパイアと人間に初めて生まれた子どもなので”奇跡の子”って呼ばれてるんですよ。この子が大きくなるころには、人間とヴァンパイアが仲良く暮らせる社会になっていると良いのですが。」
「それなら、いいんだ。ごめんね。変なこと聞いて。」
話はそれで終わった。
白神のバックボーンが少しずつ、わかってくる。この先彼に何があって、悪事に手を染めるようになるのかはまだ分からない。
今でも、二人はラブラブだ。
「安芸様。里美です。」
二人の愛の巣に里美が訪ねてくる。
「うわぁ。安芸様、ずいぶんとお腹が大きくなりましたね。」
「そうじゃろ。最近では腹が内側から蹴られておるわ。」
安芸は楽しそうにそう言った。
「今日は、安芸様にご相談があってきました。」
「わらわに?なにか困り事でもあるのか?」
「いいえ、安芸様が屋敷を出られた後も、皆さん親切にしてくださいます。今日ご相談に伺ったのは、私から安芸様に出産のお祝いを差し上げたくて。」
「出産の祝い?そんなこと、気にせずともよいぞ。里美。お前とわらわの仲ではないか。この子が生まれたらお前に世話になることもあろうぞ。」
「はい。それは、今から楽しみにしております。」
「今回、お祝いに受け取っていただきたいのは、、、。」
「なんじゃ。はっきり申せ。」
「私の戸籍です。安芸様。」
「ならんわ。それはならんぞ、里美。何を申しておる。」
「いいえ。そのお子様が生まれたら、必ず必要になりますよ。」
いつもは控えめな里美は今日はいつになく頑固だ。
「お前が結婚する時にも戸籍は必要だ。子どもが生まれた時も。お前の幸せを奪って。わらわは幸せになるつもりはないわ。」
「戸籍が無くても、私は幸せになりますよ。安芸様もご存じじゃないですか。私の恋人はヴァンパイアです。私の結婚するのに戸籍は必要ありません。」
「子供が出来たら、どうするのじゃ。」
「子供が出来てもヴァンパイア族として育てるつもりです。ほかに何か問題がおありになりますか?」
「里美、本当に良いのか?」
「もちろんです。安芸様。私たちが初めて会った日の事を憶えていますか?あの日、安芸様が止めてくれなかったら、私の家族は一家心中で死んでいたんですよ。「娘を私の奉公人にしないか?」と父に提案して、過分なお給料を払ってくださったお陰で、父は病院で死ぬことが出来ました。母は今でも元気だし。妹や弟は無事に学校に通うことが出来ました。杜人家の方々が「どこの馬の骨ともわからぬものを眷属にするなど」と反対しても「この者以外は眷属にはしない」と頑張ってくださいましたよね。私は、安芸様の眷属になってから楽しい事ばかりです。安芸様のお側にいて、いつか恩返しができる日を待っていました。ですから里美は、安芸様が何と言っても私の戸籍をお使いいただきます。」
「里美、お前も頑固じゃの。」
「当然です。私は頑固な安芸様の眷属を長年続けておりますから。」
「里美、かたじけない。ありがたく里美の戸籍を使わせてもらうぞ。」
そういって、安芸は里美に頭を下げた。
爺さんも里美に頭を下げる。
(それで、ばあちゃんの名前が里美だったんだ。この里美さんは、今はどうしているんだろう?)
また、日にちがとぶ。時間の進むペースが上がっている様だ。
安芸と爺さんは子供が生まれた。これが父さんか。
「安芸様。行ってらっしゃいませ。」
「安芸。気を付けて行って来いよ。」
「あう~。」
「行ってくる。幸雄、良い子にしておれよ。」
(安芸は仕事に行くんだな。安芸の留守中は里美さんが子守をしてくれるのか。)
爺さんが、赤ちゃんの父さんを抱いて窓まで安芸を見送る。下では車が待機していた。
下で待っている運転手は、白神のようだ。
白神は窓に立って見送る爺さんと親父に氷のような視線を向ける。
「俺、白神さんに嫌われてるのかな?」
爺さんが、里美さんにそう聞いた。
「そんな事ないですよ。勝也さん気にしすぎです。」
「白神さんってどんな人なの?」
「白神さんは、安芸様と幼い頃から一緒に育ったと聞いています。白神さんの家族が、安芸様に使える家系とか。」
「そうなんだ。」
「任務に忠実な方ですから、時々厳しいこと感じることもありますが、悪い方ではないですよ。幸雄ちゃんも、生まれるはずのないヴァンパイアと人間に初めて生まれた子どもなので”奇跡の子”って呼ばれてるんですよ。この子が大きくなるころには、人間とヴァンパイアが仲良く暮らせる社会になっていると良いのですが。」
「それなら、いいんだ。ごめんね。変なこと聞いて。」
話はそれで終わった。
白神のバックボーンが少しずつ、わかってくる。この先彼に何があって、悪事に手を染めるようになるのかはまだ分からない。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇
設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡
やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡
――――― まただ、胸が締め付けられるような・・
そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ―――――
ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。
絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、
遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、
わたしにだけ意地悪で・・なのに、
気がつけば、一番近くにいたYO。
幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい
◇ ◇ ◇ ◇
💛画像はAI生成画像 自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる