眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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時の旅人 ⑧

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また時間が飛ぶ。爺さんと安芸は既に一緒に暮していた。しかも、安芸は妊娠している。
今でも、二人はラブラブだ。

「安芸様。里美です。」
二人の愛の巣に里美が訪ねてくる。

「うわぁ。安芸様、ずいぶんとお腹が大きくなりましたね。」

「そうじゃろ。最近では腹が内側から蹴られておるわ。」
安芸は楽しそうにそう言った。

「今日は、安芸様にご相談があってきました。」

「わらわに?なにか困り事でもあるのか?」

「いいえ、安芸様が屋敷を出られた後も、皆さん親切にしてくださいます。今日ご相談に伺ったのは、私から安芸様に出産のお祝いを差し上げたくて。」

「出産の祝い?そんなこと、気にせずともよいぞ。里美。お前とわらわの仲ではないか。この子が生まれたらお前に世話になることもあろうぞ。」

「はい。それは、今から楽しみにしております。」

「今回、お祝いに受け取っていただきたいのは、、、。」

「なんじゃ。はっきり申せ。」

「私の戸籍です。安芸様。」

「ならんわ。それはならんぞ、里美。何を申しておる。」

「いいえ。そのお子様が生まれたら、必ず必要になりますよ。」
いつもは控えめな里美は今日はいつになく頑固だ。

「お前が結婚する時にも戸籍は必要だ。子どもが生まれた時も。お前の幸せを奪って。わらわは幸せになるつもりはないわ。」

「戸籍が無くても、私は幸せになりますよ。安芸様もご存じじゃないですか。私の恋人はヴァンパイアです。私の結婚するのに戸籍は必要ありません。」

「子供が出来たら、どうするのじゃ。」

「子供が出来てもヴァンパイア族として育てるつもりです。ほかに何か問題がおありになりますか?」

「里美、本当に良いのか?」

「もちろんです。安芸様。私たちが初めて会った日の事を憶えていますか?あの日、安芸様が止めてくれなかったら、私の家族は一家心中で死んでいたんですよ。「娘を私の奉公人にしないか?」と父に提案して、過分なお給料を払ってくださったお陰で、父は病院で死ぬことが出来ました。母は今でも元気だし。妹や弟は無事に学校に通うことが出来ました。杜人家の方々が「どこの馬の骨ともわからぬものを眷属にするなど」と反対しても「この者以外は眷属にはしない」と頑張ってくださいましたよね。私は、安芸様の眷属になってから楽しい事ばかりです。安芸様のお側にいて、いつか恩返しができる日を待っていました。ですから里美は、安芸様が何と言っても私の戸籍をお使いいただきます。」

「里美、お前も頑固じゃの。」

「当然です。私は頑固な安芸様の眷属を長年続けておりますから。」

「里美、かたじけない。ありがたく里美の戸籍を使わせてもらうぞ。」
そういって、安芸は里美に頭を下げた。
爺さんも里美に頭を下げる。

(それで、ばあちゃんの名前が里美だったんだ。この里美さんは、今はどうしているんだろう?)





また、日にちがとぶ。時間の進むペースが上がっている様だ。
安芸と爺さんは子供が生まれた。これが父さんか。

「安芸様。行ってらっしゃいませ。」
「安芸。気を付けて行って来いよ。」
「あう~。」

「行ってくる。幸雄、良い子にしておれよ。」

(安芸は仕事に行くんだな。安芸の留守中は里美さんが子守をしてくれるのか。)

爺さんが、赤ちゃんの父さんを抱いて窓まで安芸を見送る。下では車が待機していた。
下で待っている運転手は、白神のようだ。
白神は窓に立って見送る爺さんと親父に氷のような視線を向ける。


「俺、白神さんに嫌われてるのかな?」
爺さんが、里美さんにそう聞いた。

「そんな事ないですよ。勝也さん気にしすぎです。」

「白神さんってどんな人なの?」

「白神さんは、安芸様と幼い頃から一緒に育ったと聞いています。白神さんの家族が、安芸様に使える家系とか。」

「そうなんだ。」

「任務に忠実な方ですから、時々厳しいこと感じることもありますが、悪い方ではないですよ。幸雄ちゃんも、生まれるはずのないヴァンパイアと人間に初めて生まれた子どもなので”奇跡の子”って呼ばれてるんですよ。この子が大きくなるころには、人間とヴァンパイアが仲良く暮らせる社会になっていると良いのですが。」

「それなら、いいんだ。ごめんね。変なこと聞いて。」

話はそれで終わった。
白神のバックボーンが少しずつ、わかってくる。この先彼に何があって、悪事に手を染めるようになるのかはまだ分からない。
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