眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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時の旅人 ⑦

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それからも。安芸と爺さんの不自由な純愛は続いた。たまに二人は会い、会えないときも、ポケベルで連絡を取り合う。
爺さんが安芸に仕事の事を尋ねたことがあった。「そのことは、折を見て話そうぞ。」と言われたきりになっている。

そんなある日。突然、安芸から電話が入る。爺さんは飛び上がって喜んだが、電話口の安芸の声は暗く沈んだように聞こえた。

「勝也。お前に行ってほしいところがある。」

「なんだよ安芸。元気ねぇな。調子でも悪いのか?」

「わらわは大丈夫じゃ。どうだ、行ってくれるか?」

「安芸が行けって言うなら、俺はどこにだって行くって知ってるだろ?たとえ火の中、水の中。」

「そうか、それを聞いて安堵したぞ。今回の事は、勝也とわらわの未来がかかっておる。心して参れよ。」

「俺たちの未来って、なんか怖いな。安芸も来るのか?」

「もちろんじゃ。場所と時間を言うぞ。遅れぬようにな。」

住所と時間を言って電話が切られた。安芸と爺ちゃんの未来に関係する重大な事ってなんだ?
安芸は、なんであんなに緊張していたんだ。

「安芸と会えるなら、俺はどこだって言ってやるぜ!」
爺ちゃんが独り言を言う。それは、自分を鼓舞しているようにも聞こえた。




約束の日、当日。爺ちゃんは、何度も地図で場所を確認する。「時間に遅れないよう」安芸に言われたせいか。必要以上に腕時計を見ている。

爺さんは、自分の父親からスーツを借り。ベスパに乗って。家を出でる。途中、バイクで地図を確認しながら到着した先に、俺はめちゃめちゃ驚く。

そこは、刑部家だった。


緊張した爺さんが玄関の呼び鈴を押す。

「どちら様ですか?」

「本田勝也と言います。杜人安芸から今日こちらに伺うように言われてきました。」

「はい。伺っております。少々お待ちください。」

扉が開く。そこに立っていたのは、高梨さんだ。今よりずっと若く見える。

「どうぞ、お入りください。そう緊張なさらなくても、大丈夫でございますよ。」

懐かしさに涙が出そうだ、でも、憑依している俺にそれは不可能か。

「こちらにどうぞ。」
案内された部屋は、俺が面接を受けた部屋、アヤメに初めて会った部屋だ。

コーヒーでもお持ちしましょう。

そう言って。高梨さんが部屋を出て行く。爺さんはかつての俺がそうだったように、部屋の中で小さくなっている。

「お待たせしました。どうぞ。」
高梨さんがコーヒーを出す。

「ありがとうございます。いただきます。」
美味しそうだ。高梨さんのコーヒーが飲みたい、、、。この体になってから、何かを食べたいとか、飲みたいと思わなかったが、今日は高梨さんの入れたコーヒがものすごく飲みたかった。

「すごく、美味しいです。」
爺さんもコーヒーの美味しさがわかるらしい。

「ほほほほ、私の自家焙煎なんですよ。気に入られたのなら、帰りにお土産に差し上げましょう。」
見た目は若いけど、いつもの高梨さんだ。

おや、お客様が見えられたようです。高梨さんが、部屋を出て行く。

次に、入って来たのは、中年の男性と安芸、それと白神だった。安芸は爺さんに負けないほど緊張している。

「初めまして。私は刑部主計かずえと申します。君が、本田勝也君だね。」

「はい。よろしくお願いします。」

刑部主計、って、、たしか、、。(!!!!!。)科捜研のオデコじいさん。アヤメの叔父さんだよな。「第三の目」だっけ、あの変な能力の。この時は、現役の裁判官だよな。なんでこんなところに、、、。

「そんなに緊張しなくっても大丈夫だよ。痛いことをするわけじゃないから。」

そう言って、自分のおでこを爺さんのおでこにくっつける。

「うわっ。」

「うごかないで。」

二人のおでこが離れる。爺さんの気持ちは分かる、、、。突然、中年男性におでこをくっつけられたらビックリするよな。

「わかったよ。安芸ちゃん。」

「それで、刑部様。どうなんじゃ?遠慮はいらん、言ってたも。」

爺さんは、男におでこをつけられたショックと、話が見えずに、口をぽかんと開けたまま黙っている。

「大丈夫だよ。この青年と君は相性がいいようだよ。」

「チッ。」白神が舌打ちをする。

「行儀が悪いぞ、白神。お前は下がっておれ。」

「このことは、私から賢人衆に伝えておきましょう。」

「ありがとう。刑部様。」

「それでは、私はこれで失礼しますよ。後は若いお二人で話し合うと良いでしょう。」

彼が出て行った。

「良かったの。勝也。」

「良かったって何が?」

「お前とわらわの結婚が認められたんじゃ。」

「え?なんで?今のオデコ何?あれが良かったのか?なんでもいいや。安芸、認められたなら善は急げだ。結婚しよう。安芸を幸せにする。俺も幸せになる!」

「気が早いの、勝也は。でも、わらわには、戸籍がないぞ。ヴァンパイアだからの。」

「戸籍なんて関係ない!紙切れ一枚の話だ。俺とお前が一緒にいることが大切なんだから。」

「そうなると、わらわはお前に話さなければならないことがある。」

「話?なに?」

「わらわの仕事についてじゃ。」

「そう言えば、前に聞いたときは教えてくれなかったよな。」

「折を見て話すと言ったろうが、今がその折じゃ。」

「わらわは、門を守る守人じゃ。わらわの名前はそのまま、職業を表しておっての。漢字で書くと杜の都の杜に人じゃが、それは当て字で、実際は守る人と書くのじゃ。」

「それで、その門ってなんなんだよ。」

「悪しき者が出てくる門じゃ。」

「悪しき者?ってなんだよ。」

「言い方が適切かどうかわからんが、魔物じゃな。」

「それが出てくるとどうなるんだ?」

「ヴァンパイアがその悪しき者に侵されて魔に変わるのじゃ。われらヴァンパイアは今は平和に暮らしておるが、魔に侵されたら、人間を襲うようになるじゃろうの。」

「お前も変わっちまうのか?」

「そうならぬよう、わらわが居るのよ。人間とヴァンパイアの安全と平和を守るためにの。そのゲートがあるのが仙台市の定義山のあたりじゃ。」

「定義山ってあの油揚げの有名な?」

「そうじゃ。それと、岐阜にも門がある。岐阜の方には岐阜の守人がおる。わらわの担当は東門と呼ばれる定義山の門の方じゃ。たまに門から魔の者が這い出てくることがあって、そ奴らを退治するのがわらわの役目よ。」

「その仕事、危なくないのかよ。」

「そのように、勝也が心配すると思っての。黙っておったのじゃ。が、嫁の仕事を知らせぬわけにはいかん。だが、案ずるな勝也。わらわは恐ろしく強いぞ。」
そう言って安芸は笑った。

このまま順調にいくと安芸と爺さんは結婚する。そうすと俺は生まれない。生まれないんだから、現代に戻ったらどうなるんだろう。身体はないから、幽霊になるのかな?それとも消えてなくなるのだろうか?

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